店員ブログ保険はあとでいい、は危ない。海外比較で見える日本のバイク保険の特徴

これからバイクに乗ろうとする人の中には、
「保険? バイクを買うだけで精一杯だから、最初はいいかな」
「お金に余裕ができたら、そのうち入ればいい」
「もしクルマとぶつかっても、向こうが払うんだろう」
そんなふうに思う人もいるかもしれません。

でも、現場で働いていると、いざことが起こると小さい排気量のバイクでも厄介なことになってしまっているのを何度も見てきました。相手がいる事故はもちろんですが、バイクはそれだけではありません。ちょっとした接触、転倒、自損でも、思った以上に話が大きくなることがあります。

「日本のバイク保険は高い」と感じる方は多いと思います。特に若い世代や、初めてバイクを買う人にとっては、任意保険まで含めると決して軽い負担ではありません。
ただ、アメリカやヨーロッパの制度と比べてみると、日本の仕組みは意外なくらい親切で、わかりやすくできていることが見えてきます。

日本は「最低限を広くそろえる」国

日本の特徴は、まず最低限の土台を広くそろえていることです。バイクでも自賠責保険への加入が必要で、原付を含む車両に加入義務があります。しかも自賠責は、交通事故被害者救済のための制度として設計されています。

この「入口が全国でそろっている」というのは、当たり前のようでいて、実はかなり大きな特徴です。アメリカは州ごとに必要な補償や考え方が違い、多くの州で最低限の liability coverage が求められる一方、制度の統一感は日本ほど強くありません。EUはEUで、第三者保護を共通ルールにしつつ、各国制度の違いを残しています。

ただし、その親切さが油断を生みやすい

ここが日本の制度の面白いところであり、少し怖いところでもあります。
日本は最低限の自賠責があることで、制度の入口としてはかなり親切です。けれど、その親切さが逆に、「保険には入っているから大丈夫」という感覚を生みやすい面もあるのかもしれません。

実際には、自賠責がカバーするのは対人の最低限で、物損は対象外です。MLITのFAQでも、自賠責は人身損害のみを対象とし、車両やその他の物の損害は対象外だと明記されています。つまり日本では、
最低限の自賠責がある

だから保険には入っている気になる

でも本当に困る部分はその先にある
というズレが起こりやすいのです。

特にバイクでは、このズレが大きく出やすい。相手のクルマを壊してしまうこともある。ガードレールや設備を壊してしまうこともある。自分が大きなケガをして長く通院することもある。さらに、相手がいなくても、自損で車両が大きく壊れることが普通にあります。
つまり、法律上乗れることと、事故に耐えられることは、まったく別です。

アメリカは自由度が高いぶん、わかりにくい

アメリカの保険制度を見ると、自由度が高いぶん、かなりわかりにくい面があります。多くの州では liability coverage が必要ですが、州ごとに必要額や補償の考え方が違います。NAICの案内でも、最低限の liability、UM/UIM、Medical Payments、PIP などを州や契約内容に応じて見ていく構造になっています。

いわゆるノーフォルトも、そのひとつです。これは事故のとき、まず細かい責任割合を争う前に、自分側の人身損害を自分の保険で処理していく考え方ですが、PIPの内容や訴訟できる条件は州によって異なります。NAICは、PIPは no-fault states で使われ、医療費に加えて lost wages や funeral costs を含む場合があると説明しています。

つまりアメリカは、
自分で理解して、自分で備える
ことが強く求められる仕組みです。これは自由とも言えますが、裏を返せば、知らないと危ないということでもあります。その点では、日本のほうがずっと整理されています。

ヨーロッパは「乗せ方」から違う

ヨーロッパを見ていて面白いのは、保険だけでなく、免許制度そのものがリスク管理の役割を持っていることです。EUでは compulsory motor insurance によって第三者保護を共通化し、EU加盟国で加入した強制保険でEU域内を走れる仕組みがあります。

それに加えて、二輪免許も段階制です。EUR-Lexの要約では、AMとA1は16歳、A2は18歳が最低年齢とされていて、若いうちは小さいクラスから段階的に乗る前提になっています。つまり、保険料だけで危険を調整するのではなく、そもそも最初から強いバイクに乗せすぎないという考え方が制度に入っています。

この点は、日本やアメリカとかなり違います。日本やアメリカは、どちらかといえば乗れる前提で、保険や補償で調整する色が強い。ヨーロッパは、免許制度でも調整する。この違いを見ると、単に保険制度の違いではなく、バイクという乗り物に社会がどう向き合っているかまで見えてきます。

日本の制度は悪いのではなく、むしろかなり堅実

ここまで比べてみると、日本の制度は決して遅れているわけでも、不親切なわけでもありません。むしろかなり堅実です。最低限の土台があり、全国で考え方もそろっている。制度としては、かなり使う側にわかりやすい。

問題があるとすれば、制度そのものより、その土台があることで安心しすぎやすいことかもしれません。
自賠責がある。だから大丈夫。なんとなく保険にも入っている。だから安心。
そう思いたくなる気持ちはよくわかります。
でもバイクは、実際にはもっと立体的に考えないといけない乗り物です。相手への賠償、自分のケガ、自損、車両の損害。こうしたものをまとめて考えた時に、初めて「足りているかどうか」が見えてきます。

バイクは「相手がいない事故」でも話が大きい

ここは四輪よりも、バイクらしいところかもしれません。
クルマだと、事故というと相手がいる前提で考えがちです。
でもバイクは、単独で転んだだけでも話が大きくなります。

ちょっとした滑りや立ちゴケで済んだつもりでも、外装、レバー、ステップ、マフラー、カウル、足まわりと、思った以上に傷みます。人もケガをしやすい。
つまりバイクでは、相手がいないから軽い事故とは限らないのです。

この感覚は、これから乗る人ほど持っておいたほうがいいと思います。

結局、大事なのは「保険に入っているか」ではない

今回こうして比べてみて、いちばん見えてくるのはここです。
大事なのは、保険に入っているかどうかではありません。
その内容で、本当に事故に耐えられるかどうかです。

日本の制度は親切です。これは間違いないと思います。
でも、その親切さは、思考停止のきっかけにもなりやすい。そこが少し皮肉なところです。
海外と比べると、逆に日本の良さも、日本で気をつけるべき点も見えてきます。

まとめ

日本のバイク保険制度は、世界的に見ればかなりわかりやすく、堅実です。最低限の土台を広くそろえているという意味では、とても親切です。

ただし、その親切さが、
「とりあえず入っているから大丈夫」
という感覚につながりやすい面もあります。

バイクは、相手への賠償だけでなく、自分のケガ、自損、車両の損害まで含めて考えないと、実態に合わなくなりやすい乗り物です。
海外との違いを見ていくと、結局いちばん大事なのはそこなのだと感じます。制度を知ることは、難しい話を知るためではなく、自分に何が足りていて、何が足りないのかを考えるためなのかもしれません。