ツーリング事故は「危ない人」だけに起きるわけではない

ツーリングを無事に終えるために、本当に必要なもの

ゴールデンウィーク中、バイクツーリング中の事故のニュースを目にすることが多くありました。

バイクが好きで、せっかく楽しみに出かけたはずのツーリング。
仲間と走っていた人もいれば、ひとりで気持ちよく走っていた人もいると思います。

その途中で命を落としてしまう。

同じバイク乗りとして、本当に胸が痛みます。

もちろん、報道だけで事故の原因を決めつけることはできません。
道路状況、車両の状態、体調、天候、相手車両の動き、ほんの一瞬の判断。
現場で何が起きたのかは、外からは分かりません。

だからこの記事は、誰かを責めるためのものではありません。

ただ、同じバイク乗りとして、
「どうすればこういう悲しい事故を少しでも減らせるのか」
を考えずにはいられません。

事故を、自分から遠ざけて考えてしまう怖さ

バイク事故のニュースを見ると、ついこう思ってしまうことがあります。

「スピードを出していたんだろう」
「無理をしていたんだろう」
「自分はそんな走り方はしないから大丈夫」

もちろん、実際に無理な運転が原因になる事故もあります。

でも、本当に怖いのは、事故を
“危ない走りをする人だけの話”
として、自分から切り離してしまうことではないでしょうか。

バイク事故は、いわゆる無謀な人だけに起きるわけではありません。

普段から安全に気をつけている人。
経験のある人。
良いバイクに乗っている人。
装備をしている人。
仲間と楽しく走っていた人。

そういう普通のバイク好きにも、ほんの少しの判断遅れや疲労、見落とし、速度の乗りすぎで起こり得ます。

だからこそ、事故のニュースを見た時に、
「あの人は特別だった」
で終わらせてはいけないのだと思います。

上手い人ほど、危ない瞬間に気づきにくいことがある

初心者は、怖さがあります。

カーブが怖い。
大型バイクが怖い。
スピードが怖い。
知らない道が怖い。

この怖さは、時に安全装置になります。

しかし、経験を積むと、ある程度の速度でも怖くなくなります。
大型バイクの安定感もあります。
タイヤも良い。
ブレーキも効く。
電子制御もあります。
そして、自分自身もバイクに慣れている。

すると、本人は無理をしているつもりがなくても、少しずつ安全マージンが削られていることがあります。

バイクを操る技術があることと、公道で安全に帰ってこられることは、少し違います。

公道では、自分の操作能力だけではどうにもならないことが起きます。

カーブの先に砂が浮いているかもしれない。
対向車がセンターライン寄りに来るかもしれない。
前の車が急にブレーキを踏むかもしれない。
動物が飛び出すかもしれない。
思ったよりカーブが奥で曲がり込んでいるかもしれない。

そう考えると、公道で大切なのは、
「自分なら曲がれる速度」ではなく、
“何かあっても対応できる速度”で入ること

なのだと思います。

気持ちよく走れる速度と、絶対に帰ってこられる速度は違います。

この違いを忘れないことが、とても大事です。

バイクは趣味。だからこそ、命を賭けるものではない

バイクは、人生を豊かにしてくれる趣味のひとつです。

仕事でもなければ、義務でもありません。
誰かに強制されて乗っているわけでもありません。

好きだから乗る。
楽しいから走る。
遠くへ行きたいから出かける。

だからこそ、そこで命を落としてはいけないと思うのです。

事故に遭われた方も、もちろん死ぬつもりでバイクに乗っていたわけではないと思います。
楽しい一日にしたかったはずです。
無事に帰って、また次のツーリングの話をしたかったはずです。

でも、現実には一瞬の判断、少しの無理、ほんのわずかな余裕のなさが、取り返しのつかない結果につながることがあります。

バイクに乗るということは、
「生きるか死ぬか五分五分の勝負」
であってはいけません。

趣味で乗るバイクなら、なおさらです。

ツーリングは、10回走って5回無事ならいい、というものではありません。
10回走ったら10回帰ってくる。
100回走ったら100回帰ってくる。

そうでなければいけないと思います。

そのためには、目の前の楽しさだけを追いかけていてはいけません。

もう少しペースを上げたい。
前の人についていきたい。
予定通りの場所まで行きたい。
せっかく来たから、あの道も走りたい。
まだ大丈夫だろう。
自分なら曲がれるだろう。

そういう気持ちは、バイク乗りなら誰にでもあります。

でも、そこで一度立ち止まって、
「この選択は、10勝0敗で帰るための行動なのか」
と考える必要があります。

楽しいからこそ、引く。
好きだからこそ、無理をしない。
また乗りたいからこそ、今日はペースを落とす。

それは臆病なのではなく、バイクを長く楽しむための大切な判断だと思います。

ツーリングは、自由に見えて判断の連続

バイクツーリングは自由です。

好きな道を走る。
好きな場所へ行く。
景色を見て、食事をして、風を感じる。

これほど自由を感じられる遊びは、なかなかありません。

でも、その自由の中身をよく見ると、実はツーリングは判断の連続です。

何時に出発するか。
どのルートを走るか。
どこで休憩するか。
何台で走るか。
誰を先頭にするか。
誰を最後尾にするか。
どのペースで走るか。
疲れた時に予定を削れるか。
帰り道で無理をしない判断ができるか。

こうした判断の積み重ねで、ツーリング全体の安全度は大きく変わります。

つまり、事故を減らすために必要なのは、ライディングテクニックだけではありません。

ツーリングを安全に設計する力
も必要なのだと思います。

マスツーリングでは「追いつこう」が危ない

仲間と走るツーリングは楽しいものです。

ひとりでは行かなかった場所に行ける。
休憩中の会話も楽しい。
同じ景色を共有できる。
年齢や職業を超えて、バイク仲間ができる。

これはマスツーリングの大きな魅力です。

ただし、マスツーリングには独特の難しさもあります。

前の人についていこうとする。
遅れたら迷惑をかけると思う。
信号で切れたくないと思う。
分岐で置いていかれたくないと思う。
知らない道なのに、前の人のペースに引っ張られる。

この心理が、少しずつ無理につながることがあります。

先頭を走る人は、自分が余裕で走れるペースではなく、
一番不安な人が安全に帰れるペース
を基準にする必要があります。

後ろを走る人は、
前の人に追いつこうと思った瞬間が危ない
と考えた方がいいと思います。

離れてもいいのです。
次の分岐で待てばいい。
インカムがあれば「少しペースを落として」と言えばいい。
無理に隊列を保つより、安全に分断される方がずっと大事です。

ツーリングは競争ではありません。
全員が同じ速さで走ることより、全員が無事に帰ってくることの方が、はるかに大切です。

疲労は、気づかないうちに判断を鈍らせる

連休中のツーリングは、普段より距離が伸びがちです。

朝早く出発する。
渋滞を避ける。
観光地をいくつも回る。
昼食場所を探す。
帰りの時間が気になる。
思ったより暑い、寒い、混んでいる。

ひとつひとつは大したことがなくても、積み重なると確実に疲れます。

疲れてくると、目線が近くなります。
ブレーキが遅れます。
車間距離が詰まります。
カーブの奥を見なくなります。
判断が少し雑になります。

そして怖いのは、疲れている本人が、自分の判断力の低下に気づきにくいことです。

特に帰り道は危険です。

目的地に着いた安心感。
あと少しで帰れるという油断。
予定より遅れている焦り。
夕方の見えにくさ。
渋滞や混雑によるストレス。

ツーリングは、行きより帰りの方が難しい。
そう考えておいた方がいいと思います。

ベテランほど、経験を「余裕」に変えたい

今は50代、60代でも大型バイクでツーリングを楽しむ方がたくさんいます。

これは、とても良いことだと思います。
長くバイクを楽しめる時代になったということです。

ただ、若い頃と同じ感覚で走れるかというと、そこは違います。

経験は増えます。
危険予測もできるようになります。
バイクの楽しみ方も深くなります。

でも、反射神経、視力、体力、集中力は、どうしても変化します。

これは恥ずかしいことではありません。
自然なことです。

だからこそ、ベテランほど
「まだ走れる」ではなく、
“ここで余裕を残す”

という判断が必要になるのだと思います。

経験があるから速く走るのではなく、
経験があるから無理をしない。

それが本当の意味でのベテランの走りではないでしょうか。

「安全運転」ではなく「安全設計」

事故のニュースを見るたびに、私たちは「気をつけよう」と思います。

でも、「気をつける」だけでは、実際の行動はあまり変わりません。

大事なのは、気をつけることを具体的な行動に変えることです。

たとえば、知らない道のカーブでは、見えている範囲で止まれる速度まで落とす。
センターラインを絶対に割らない速度で進入する。
前の人に追いつこうとしない。
1時間に1回は休憩する。
疲れたら予定を削る。
帰り道こそペースを落とす。
眠気を感じたら、無理に走らない。
装備を省略しない。
出発前にタイヤ、空気圧、チェーン、ブレーキを確認する。

こうしたことは、どれも特別なテクニックではありません。

でも、こういう小さな判断の積み重ねが、事故を遠ざけます。

安全とは、気合いや根性ではなく、設計です。

無理をしなくて済む予定。
焦らなくて済む時間設定。
不安な人が無理をしなくて済む隊列。
疲れたらやめられるルート。
帰りが遅くなりすぎない計画。

走り出す前から、ツーリングの安全は始まっています。

装備は最後の砦。でも、軽く見てはいけない

もちろん、事故を起こさないことが一番です。

ただ、万が一の時に身体を守ってくれるのは装備です。

ヘルメットのあごひも。
グローブ。
ライディングジャケット。
胸部プロテクター。
背中のプロテクター。
ライディングパンツ。
くるぶしを守るシューズやブーツ。

特に胸部や腹部へのダメージは、外から見えにくくても重大な結果につながることがあります。

「近場だから」
「暑いから」
「ちょっとだけだから」

そう思う日ほど、最低限の装備は外さない方がいいと思います。

装備は事故を防ぐものではありません。
でも、命を残してくれる可能性を上げてくれるものです。

ツーリングは、帰ってきて完成する

バイクは楽しい乗り物です。

景色の中を走る感覚。
エンジンの鼓動。
風を受ける気持ちよさ。
仲間と走る時間。
ひとりで遠くまで行く自由。

だからこそ、バイク好きがバイクで亡くなるニュースは、本当に悲しいです。

バイクは、人生を豊かにしてくれる乗り物です。
命を削って乗るものではないと思います。

目的地に着いた時点では、ツーリングはまだ終わっていません。

家に帰って、ヘルメットを脱いで、
「今日も楽しかったな」
と思えた時に、初めて完成します。

ツーリングは、帰ってきて完成。

事故を完全にゼロにすることはできないかもしれません。
でも、私たち一人ひとりの考え方と判断で、悲しい事故を減らすことはできるはずです。

バイクを長く楽しむために。
大切な仲間と、また次のツーリングに行くために。
そして、家で待つ人のもとへ無事に帰るために。

もう一度、
「安全運転」だけでなく「安全設計」
という視点で、ツーリングを考えてみてもいいのではないでしょうか。