バイク「6軸IMU付きです」と言われても、何が違うのか分かりにくい話

店頭でバイクの説明をしていると、

「このバイクは6軸IMUが付いています」

という話をすることがあります。

ヤマハで言えば、YZF-R1、YZF-R1M、YZF-R9、MT-10、MT-10 SP、MT-09、MT-09 SP、MT-09 Y-AMT、XSR900、XSR900 GP、TRACER9 GT+ Y-AMTなどには、6軸IMUを使った電子制御が採用されています。

ただ、正直なところ、これがなかなか説明しにくいのです。

「6軸IMUというのは、3軸の角速度センサーと3軸の加速度センサーで……」

などと言い始めると、たぶん多くの方は途中で、

「ふうん。なんかよく分からないけど、良いんですね」

となると思います。

それは当然です。

お客様が知りたいのは、センサーの構造ではありません。

それが付いていると、実際に何が違うのか。
今乗っているバイクと比べて、何が変わるのか。
自分の走りに、どんな意味があるのか。

そこだと思います。

今回は、IMU付きのバイクをただ持ち上げる話ではありません。

今、IMUの付いていないバイクに乗っている方にも、できるだけ分かりやすく、そして現実的に、

「なるほど、そういう違いなのか」

と思っていただけるように書いてみます。

IMUなしのバイクが危ない、という話ではありません

最初に言っておきたいのは、IMUが付いていないバイクが危ないとか、古いとか、もうダメだとか、そういう話ではまったくありません。

実際、今でも多くの方がIMUなしのバイクに乗っています。

私たち自身も、昔からそういうバイクにたくさん乗ってきました。
サーキットも走ってきましたし、ツーリングにも行ってきましたし、オフロードも走ってきました。

IMUがなくても、バイクは楽しいです。
IMUがなくても、きちんと乗れば十分に走れます。
IMUがなくても、上手い人は上手いです。

むしろ、昔のバイクはライダーが全部感じて、全部判断して、全部操作する面白さがあります。

フロントが逃げそう。
リアが流れそう。
前が浮きそう。
ブレーキを少し抜こう。
もう少し起こしてからアクセルを開けよう。

そういう感覚を身につけることは、今でもとても大事です。

ですから、IMUの話は、

「付いていないバイクは危ない」

という話ではありません。

そうではなく、

IMUが付くことで、バイク側が見られる情報が増えた

という話です。

ここをまず分けて考えた方が分かりやすいと思います。

IMUはヤマハだけの装備ではありません

もうひとつ、ここも大事です。

6軸IMUは、ヤマハだけの特別な装備ではありません。

ホンダ、カワサキ、スズキ、BMW、Ducati、KTM、Apriliaなど、各メーカーのスポーツモデル、アドベンチャーモデル、ツアラーモデルにも広く採用されています。

カワサキのNinja ZX-10Rにも、IMUデータを活用した電子制御があります。
スズキのHayabusaにも、IMUの車体姿勢データを使って、直立時だけでなくバイクが寝ている時のABS制御を行うシステムがあります。
海外メーカーの高性能モデルでも、IMUを使ったコーナリングABSやトラクションコントロールは珍しいものではなくなっています。

つまりこれは、ヤマハだけが特別に言っている装備ではありません。

現代の高性能バイクにとって、

バイクが今どんな姿勢なのかを知ることが、それだけ重要になっている

ということです。

そのうえでヤマハでは、6軸IMUの情報を使って、TCS、SCS、LIF、BCなどの電子制御を働かせています。

TCSはトラクションコントロール。
SCSはスライドコントロール。
LIFはリフトコントロール。
BCはブレーキコントロール。

後輪の空転、リアの横滑り、前輪の浮き上がり、ブレーキ時の車体挙動。
そういうものを、車体の姿勢情報も含めて制御しているわけです。

IMUとは、バイクの姿勢を見る装置です

では、IMUとは何か。

ものすごく簡単に言えば、バイクの姿勢を見る装置です。

バイクが今、まっすぐ立っているのか。
コーナーで寝ているのか。
前が沈んでいるのか。
後ろが浮きそうなのか。
リアが横に流れそうなのか。
前輪が浮きそうなのか。

そういう車体の動きをセンサーで見ています。

6軸IMUというのは、前後・左右・上下の動きと、車体が傾いたり、向きを変えたりする動きを見ている、と考えると分かりやすいと思います。

人間で言えば、三半規管のようなものかもしれません。

人間は、目をつぶっていても、体が傾いたり、前に倒れそうになったり、横に振られたりするのが分かります。

IMUは、バイクにとってのそれに近いものです。

バイク自身が、

「今、自分はどれくらい傾いているのか」
「今、前が浮きそうなのか」
「今、後ろが滑りそうなのか」

を判断するためのセンサーです。

IMUなしの電子制御は、主にタイヤの回転を見ている

では、IMUがないバイクの電子制御は何を見ているのか。

代表的なのはABSです。

ABSは、タイヤがロックしそうになった時に、ブレーキ圧を調整してロックを防ぐ装置です。

これは非常に大きな安全装備です。

ABSがあるかないかで、急ブレーキ時の安心感は大きく違います。
特に雨の日や、路面が悪い時には大きな助けになります。

トラクションコントロールも同じです。

後輪が空転し始めたら、エンジン出力を抑えて滑りすぎを防ぐ。
これも、とても意味のある装備です。

ただ、IMUがない場合、基本的には前後輪の回転差などを中心に判断します。

タイヤがロックしそう。
後輪が空転している。
前後の車輪速に差がある。

そういう情報を見て制御します。

それに対して、IMUがあるバイクは、そこに車体姿勢の情報が加わります。

つまり、

タイヤがどうなっているか

だけでなく、

その時、バイクがどんな姿勢なのか

も見ているわけです。

ここが大きな違いです。

まっすぐのブレーキと、寝ている時のブレーキは違う

バイクで一番分かりやすいのはブレーキです。

まっすぐ走っている時なら、ある程度強くブレーキをかけられます。

もちろん限界はありますが、バイクが立っている状態なら、タイヤはブレーキを受け止めやすい。

でも、コーナー中にバイクが寝ている時は違います。

同じ力でブレーキを握っても、まっすぐの時と、寝ている時では危険度がまったく違います。

まっすぐなら止まれる操作でも、コーナー中ならフロントが逃げるかもしれません。
車体が起き上がって、思ったラインを外すかもしれません。
曲がりきれなくなるかもしれません。

IMUなしのABSは、タイヤがロックしそうかどうかは見ます。

でも、バイクが今どれくらい寝ているのかまでは、十分には見られません。

一方、IMUを使ったブレーキ制御は、バイクが寝ていることを分かったうえで制御します。

もちろん、限界を超えれば転びます。
物理法則を電子制御が消してくれるわけではありません。

ただ、同じABSでも、

「タイヤがロックしそうかどうかだけを見るABS」

と、

「バイクが今どれくらい傾いているかも見ながら働くABS」

では、助け方が変わります。

ここがIMUありとなしの大きな違いです。

サーキットなら、同じコーナーを何度も試せる

サーキットを走る方なら分かると思います。

同じコーナーを何周も走ると、少しずつ分かってきます。

このコーナーは何速。
ここでブレーキ。
ここから倒す。
ここで向きを変える。
ここから開ける。
このタイヤなら、このくらいはいける。

そうやって、少しずつ探っていけます。

もちろん、サーキットでも転倒のリスクはあります。
でも、同じ場所を何度も走れるので、条件を確認しやすい。

路面もある程度分かっています。
対向車もいません。
駐車中の車もありません。
歩行者もいません。
突然、砂利が大量に出てくることも、公道ほど多くはありません。

だから、サーキットでは、

「このコーナーはこのくらいまでいける」

という確認がしやすいのです。

公道では、それができない

ところが、公道は違います。

初めて走る道。
奥が見えないコーナー。
曲がった先にある駐車車両。
突然の砂。
落ち葉。
濡れたマンホール。
路肩の小石。
前走車の急な減速。
対向車のはみ出し。
カーブの先の渋滞。

そういうことが普通にあります。

その中でライダーが、

「今のバンク角は何度」
「フロントタイヤにはあとどれくらい余裕がある」
「ここでブレーキを何%足しても大丈夫」
「この角度ならアクセルを何ミリ開けられる」

などと、正確に判断するのは無理です。

経験豊富な人ほど、危ない場所では速度を落とします。
無理に倒しません。
先が見えない場所では余裕を残します。

それが一番大事です。

ただ、それでも公道では予想外のことが起きます。

安全に走っているつもりでも、カーブの奥で状況が変わることがあります。

その時に、IMUがあるバイクは、バイク自身が今の姿勢を見ながらABSやトラクションコントロールを働かせます。

つまり、IMUは、

サーキットで限界を攻めるためだけの装備ではなく、公道で予想外のことが起きた時に意味を持つ装備

とも言えるのです。

初見のコーナーで、本当に怖いのは「分からないこと」

バイクで怖いのは、限界が低いことだけではありません。

本当に怖いのは、限界がどこにあるか分からないことです。

いつも走っている道なら、ある程度分かります。

このコーナーは奥がきつい。
ここは砂が出やすい。
ここは朝、路面が濡れている。
ここは車がふくらんでくる。
ここは対向車が見えにくい。

そういう情報が頭に入っています。

でも、初めて走る道ではそれがありません。

路面の状態も分からない。
コーナーの奥も分からない。
勾配も分からない。
交通の流れも分からない。

その中で、バイクを寝かせ、ブレーキをかけ、アクセルを開ける。

これは、かなり難しいことです。

もちろん、だからこそ速度を落とすべきです。
初見の道で攻めるような走りをしてはいけません。

でも、どれだけ注意していても、

「思ったより砂が浮いていた」
「カーブの途中で前の車が急に止まった」
「思ったより奥が回り込んでいた」
「濡れていないと思ったら、木陰だけ濡れていた」

ということはあります。

そんな時に、IMUを使った制御は、車体の傾きや姿勢変化を見ながら、通常のABSやトラクションコントロールよりも細かく介入できます。

ここに意味があります。

アクセルを開ける時も違う

IMUの効果はブレーキだけではありません。

コーナーの立ち上がりでも関係します。

大型バイクはトルクがあります。

MT-09、MT-10、YZF-R1、YZF-R9のようなモデルは、少しアクセルを開けただけでもかなり力があります。

まっすぐ立っている時なら、その力をタイヤが受け止めやすい。

でも、まだバイクが寝ている状態で大きく開けると、リアタイヤが滑る可能性があります。

IMUなしのトラクションコントロールでも、後輪が空転すれば出力を抑えてくれます。

ただ、IMUありの場合は、バイクがどれくらい寝ているか、前輪が浮きそうか、リアが横に流れそうか、そういう姿勢の情報も見ながら制御します。

つまり、ただ滑ったから抑えるのではなく、

「今この姿勢で、この開け方は危ないかもしれない」

という判断に近づくわけです。

ヤマハで言えば、TCS、SCS、LIFなどがそれに関係します。

TCSはトラクションコントロール。
SCSはスライドコントロール。
LIFはリフトコントロール。

後輪の空転を抑える。
リアの横滑りを抑える。
前輪の浮き上がりを抑える。

そういう制御に、IMUの情報が使われています。

事故低減のデータもあります

では、IMUを使った制御は、実際に安全につながるのか。

ここは感覚だけでなく、事故データもあります。

スウェーデンの交通事故データを使った研究では、通常ABS搭載車と、コーナリングABS搭載車を比較しています。

コーナリングABSとは、IMUなどで車体の傾きや姿勢を見ながら、ブレーキ制御を行うABSです。

その研究では、通常ABS車と比べて、コーナリングABS搭載車は、

人身事故全体で35%低減。
重傷・死亡事故で44%低減。
単独事故全体で36%低減。
カーブ中の単独重傷・死亡事故では70%低減。

という結果が出ています。

特に注目したいのは、カーブ中の単独重傷・死亡事故で70%低減という数字です。

これは、IMUがあれば事故がゼロになるという意味ではありません。
また、電子制御があれば無茶をしても大丈夫という意味でもありません。

ただ、通常ABSでは対応しきれなかった、バンク中のブレーキや車体姿勢の変化に対して、より細かく制御できるようになった。

その差が、実際の事故データにも表れていると考えていいと思います。

IMUは、上手い人だけの装備ではない

こういう話をすると、

「自分はサーキットを走らないから関係ない」
「自分は飛ばさないから必要ない」
「電子制御に頼るような走りはしない」

と思う方もいるかもしれません。

その気持ちは分かります。

でも、IMUが役に立つのは、サーキットで速く走る時だけではありません。

むしろ公道では、飛ばしていない時でも予想外のことが起きます。

普通にツーリングしている時。
知らない山道を走っている時。
雨上がりの道を走っている時。
交通量の多い道路を走っている時。
カーブの先で前の車が急に減速した時。
路面に砂が浮いていた時。

そういう場面で、ライダーがすべてを完璧に判断するのは難しいです。

だからこそ、IMUを使った制御は、速く走るためだけでなく、普通に走っているライダーにとっても意味があります。

ただし、IMUがあれば何をしても大丈夫ではない

ここは絶対に誤解してはいけません。

IMUが付いているから転ばない。
IMUが付いているから事故に遭わない。
IMUが付いているから雑に操作していい。
IMUが付いているから公道で攻めていい。

そんなことはありません。

タイヤのグリップを超えれば滑ります。
曲がれる速度を超えれば曲がれません。
車間距離がなければ止まれません。
相手に見落とされたら事故になることもあります。

電子制御は魔法ではありません。

ライダーが無理をしたら、電子制御があっても限界は来ます。

ただ、ライダーが少し操作を間違えた時、バイクが今の姿勢を見ながら助けてくれる。
その助け方が、IMUなしの制御よりも細かくなる。

そこが大きな違いです。

IMU付きに乗り換えないとダメ、という話ではありません

この話をすると、

「じゃあ、IMUが付いていないバイクはもうダメなのか」

と思われる方もいるかもしれません。

そんなことはありません。

IMUなしのバイクでも、良いバイクはたくさんあります。
軽いバイク、シンプルなバイク、扱いやすいバイク、味のあるバイク。
電子制御が少ないからこそ楽しいバイクもあります。

ヤマハで言えば、MT-07、XSR700、YZF-R7、Ténéré700などのように、IMUを中心とした電子制御満載ではなくても、バイクとしての魅力がしっかりあるモデルもあります。

バイク選びは、装備の数だけで決まるものではありません。

軽さ。
価格。
足つき。
エンジンの性格。
見た目。
用途。
乗り味。
整備性。
所有する満足感。

いろいろな要素があります。

だから、IMUがないから悪いということではありません。

ただ、IMU付きのバイクには、IMU付きなりの意味があります。

それは、単なる高級装備ではなく、バイクが今の姿勢を見ながらライダーを助けてくれるという、新しい安全マージンです。

最後の一線を、少し広げてくれる装備

バイクに乗っていると、いつも完璧な操作ができるわけではありません。

少しブレーキが遅れる。
少し強く握る。
少しアクセルを開けすぎる。
少し路面を読み違える。
少し疲れている。
少し集中が落ちている。

その「少し」が、バイクでは大きな差になることがあります。

IMUは、そのミスを全部なかったことにする装備ではありません。

でも、バイクが今どういう姿勢なのかを見て、ABSやトラクションコントロールをより賢く働かせることで、破綻までの余裕を少し広げてくれる。

そういう装備です。

店頭で、

「このバイクは6軸IMUが付いています」

と説明することがあります。

その意味をひと言で言うなら、

バイクが、自分の傾きや動きを分かったうえで、ブレーキやアクセル操作を助けてくれる装備です。

ということです。

IMUがないバイクがダメなのではありません。
IMUなしのバイクでも、バイクは十分に楽しいです。

ただ、公道では、サーキットのように同じコーナーを何度も試せるわけではありません。
初見の道もあります。
砂もあります。
落ち葉もあります。
駐車車両もあります。
対向車もいます。

その中で、ライダーが常に完璧に判断するのは難しい。

だから、バイク自身が今の姿勢を見てくれるIMUには意味がある。

速く走るためだけではなく、楽しく走って、ちゃんと帰ってくるための装備。

私は、6軸IMUをそういうものだと考えています。

※装備内容は車種・年式・仕様により異なります。

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