
ツーリングしているバイクを後ろから見ていると、以前から少し気になることがあります。
ライダーのつま先が、かなり外を向いている人が多いんです。
膝も外へ開いて、いわゆる「ガニ股」のような乗り方になっている。
もちろん、
「ガニ股で乗っているからダメ」
という話をしたいわけではありません。
長いツーリングなら、膝を少し開いて身体を楽にしたいこともあるでしょう。
バイクによってタンク幅も違えば、ステップの位置も違います。
体格によっても自然な姿勢は変わります。
ただ、その「楽な姿勢」がいつの間にか自分の標準のライディングフォームになっていて、
コーナリングするときも、ブレーキングするときも、切り返すときも、ずっと同じ姿勢。
となっているなら、少し考えてみてもいいのではないかと思います。
問題なのは、
「足が開いていること」
ではなく、
「必要なときに足を使える姿勢へ切り替えられるか」
ということです。
昔は、足を開いて乗ること自体がひとつのスタイルだった
私くらいの世代だと、なんとなく分かる人もいると思います。
昔はバイクの乗り方そのものが、かなり「格好」の一部でした。
特に少しやんちゃなバイク文化の中では、膝をガバッと開いて、上体を少し後ろへ持っていき、ふんぞり返ったように乗る。
そういう乗り方が「格好いい」という空気もあったと思います。
今の若い人が見れば、
「なんでそんな乗り方をするんだろう?」
と思うかもしれません。
でも当時は、それも含めてバイク文化だったんですよね。
だから今でも、少し上の世代のライダーには、その名残のような乗り方が残っているようにも見えます。
もちろん、それを否定するつもりはありません。
バイクにはファッションやスタイルという面もあります。
ただ、若い頃から何十年も同じ姿勢で乗っていると、
「それが自分にとって一番自然な姿勢」
になってしまいます。
でも、
「自然に感じる姿勢」と「操作しやすい姿勢」
は、必ずしも同じではありません。
ここが今回考えてみたいところです。
そもそもバイクは、どう操作することを前提に作られているのか
バイクメーカーは、ハンドル、シート、ステップを適当な位置に付けているわけではありません。
ライダーがそこへ座る。
ステップへ足を置く。
シフトやリアブレーキを操作する。
ハンドルを操作する。
加速、減速、旋回に対して身体を支える。
そういうことを前提に全体のポジションが作られています。
ヤマハ発動機のライディング解説でも、基本姿勢として、
ステップには土踏まず付近を載せる。
つま先はおおむね前方へ向ける。
必要に応じて膝から太ももで車体をホールドする。
肩の力を抜き、肘に余裕を持たせる。
という考え方が紹介されています。
ここで大事なのは、
「つま先は前を向けましょう」
という一部分ではありません。
足。
膝。
股関節。
骨盤。
背中。
肩。
肘。
手。
全部がつながっているんです。
足の位置が変われば、膝の位置も変わる。
膝が変われば、骨盤の向きも変わる。
骨盤が変われば、上体の位置が変わる。
上体の位置が変われば、ハンドルまでの距離まで変わって感じる。
だからライディングポジションというのは、
「ハンドルの位置」
だけの話ではないんですよね。
つま先が外を向くと、身体はどうなるのか
試しに椅子に座った状態で、両足のつま先を大きく外へ向けてみると分かりやすいと思います。
膝も自然に外へ開きます。
その状態から身体を前へ動かそうとすると、股関節を使いにくい。
逆に、つま先を前へ向けて膝を少し前へ出せるようにすると、骨盤を前後へ動かしやすくなります。
バイクでも似たところがあります。
つま先が大きく外を向く。
膝が外へ開く。
ステップに対して足裏がうまく使えない。
すると、ステップで身体を支えるよりも、シートへ体重を預ける割合が増えます。
骨盤も起き気味になりやすい。
骨盤が起きると、上体も後ろへ残りやすくなります。
そうすると、
「ハンドルが遠い」
という感覚が出てくる。
腕が伸びる。
肩にも力が入る。
場合によってはハンドルを、
「操作する場所」
ではなく、
「身体につかまる場所」
として使うようになってしまいます。
ハンドルは身体を支えるためのものではない
ここはかなり重要だと思っています。
コーナリングでバイクを傾け始めるとき、重要になるのはハンドルへの操舵入力です。
いわゆるカウンターステアですね。
バイクの運動を調べた研究でも、車体のロールや進路変更に対して、ライダーがハンドルへ与える操舵トルクが非常に重要であることが確認されています。
つまりハンドルというのは、本来、
「ライダーが自分の身体を支える場所」
ではなく、
「バイクへ必要な操舵入力を伝える場所」
です。
ところが腕が伸び、ハンドルにつかまって身体を支えていると、その操作がしにくくなります。
力が入りっぱなしだから、必要な瞬間に必要な量だけ入力するのが難しい。
すると、
倒し込みが遅い。
切り返しが重い。
バイクが曲がり始めるまでに少し間がある。
フロントの接地感が分かりにくい。
そんな感覚につながることもあるのではないかと思います。
「ハンドルを高くしたい、手前にしたい」という人は多い
バイク屋をやっていると、かなり多い相談があります。
「ハンドルをもう少し高くしたい」
「もっと手前にしたい」
というものです。
もちろん、本当に体格に合っていない場合もあります。
腕の長さも違いますし、腰や肩に問題があって、楽なポジションが必要な人もいます。
ですから、
「ハンドルを上げるのは間違い」
という話ではありません。
ただ、私は時々、
「本当にハンドルだけの問題なのかな?」
と思います。
たとえば、
つま先が外を向く。
膝が開く。
シートへどっかり座る。
骨盤が起きる。
上体が後ろへ下がる。
その状態なら、当然ハンドルは遠く感じます。
そこでハンドルをさらに高くして、さらに手前へ持ってくる。
そうすると直線をゆっくり走っているときは非常に楽になります。
ただ、そのポジションが基準になると、今度はワインディングで身体を前へ動かしたり、フロント側へ身体を近づけたりする自由度が減る場合があります。
だからハンドルを変える前に一度、
足を置く。
骨盤を置く。
上体を作る。
肩と腕の力を抜く。
そこから自然に手を伸ばしてみる。
それでも遠いなら調整する。
そんな順番で考えてもいいのではないでしょうか。
ステップは単なる「足置き」ではない
ここで少し研究の話です。
オートバイのライダー入力を調べる研究では、ハンドルだけではなく、左右のステップにセンサーを付けて、ライダーがどのように力を加えているかを測定したものがあります。
Cossalterらが行ったオートバイシミュレーターの研究でも、実車の左右ステップにロードセルを取り付け、ライダーがステップへ加える力を測定しています。
つまり研究の世界でも、ステップは単なる、
「足を置いておく台」
としてだけ見られているわけではないんです。
ライダーが身体を支えたり、身体を動かしたりするときの重要な接点として扱われています。
ただし、ここで誤解してほしくないのは、
「ステップを踏めばバイクが曲がる」
という話ではありません。
実際のコーナリングでは、
ハンドルへの操舵入力。
ブレーキ。
スロットル。
身体の移動。
ステップへの力。
それらが組み合わさっています。
その中でステップは、
「身体を自由に使うための足場」
と考えた方が分かりやすいかもしれません。
私が考えるステップ荷重は「思い切り踏む」ではない
ステップ荷重というと、
「外足を踏め!」
「内側のステップを踏め!」
というような話になりがちです。
でも、私自身の感覚は少し違います。
そもそも走っているときには、両足ともステップへある程度身体を預けています。
そこから、
片側を少し抜く。
反対側で少し支える。
また戻す。
左右の荷重を入れ替える。
そんな細かな動きです。
たとえば左へ傾けていたバイクを起こして、今度は右へ切り返す。
そのとき腕だけを使って、
「よいしょ!」
とバイクを反対側へ振っているわけではありません。
足元から骨盤が動く。
上体が動く。
それと同時にハンドルへの入力も変わる。
身体全体の動きが連続しています。
だからステップ荷重というより、
「ステップの荷重を自由に増減できる状態」
と考えた方が、私はしっくりきます。
そのためにも足の置き方は大事なんです。
ワインディングでは、母指球付近でステップを捉える
普段の街乗りやツーリングで、ずっと母指球をステップへ置いておく必要はないと思います。
普通に走るなら土踏まず付近でステップに乗っていてもいい。
長距離なら楽な姿勢も必要です。
でも、ワインディングに入って、
「少し気持ちよくコーナーを走ろう」
というとき、私は普段より少し足を後ろへ引いて、母指球付近でステップを捉えます。
この考え方は私だけのものでもありません。
インドの二輪メーカーTVS Motorが公開しているコーナリングのライディング解説でも、コーナリング時には母指球付近をステップへ置くことを勧めています。
理由として説明されているのは、股関節を動かしやすくなり、身体の位置を変えたり体重移動をしたりしやすくなるということです。
また、ハンドルにつかまって身体を動かすのではなく、脚とステップを使って身体を動かすという考え方も紹介されています。
これは私が実際にワインディングを走っているときの感覚ともかなり一致します。
母指球付近でステップを捉える。
すると足首を使いやすい。
膝も使いやすい。
股関節も動かしやすい。
ステップへの荷重を少し掛ける。
少し抜く。
また戻す。
という細かな操作もしやすくなります。
そして骨盤を動かせるようになる。
骨盤が動けば、上体も自然に動かせる。
下半身で身体を支えられれば、ハンドルから余計な力を抜ける。
その結果、必要な操舵入力をハンドルへ与えやすくなる。
だから、
「母指球でステップを踏むとバイクが曲がる」
ということではないんです。
母指球付近でステップを捉えることで、
「バイクを操作しやすい身体を作れる」
という方が近いと思います。
ただし、母指球のままだとシフトもブレーキもできない
ここは実際にやってみるとすぐ分かります。
母指球付近をステップに置いたままだと、シフトペダルには足が届きにくい。
リアブレーキペダルも同じです。
だからワインディングを走っているときも、足をずっと一か所に固定しているわけではありません。
シフトアップするとき。
左足を少し前へ出す。
シフトする。
終わったら母指球付近へ戻す。
シフトダウンするときも同じ。
右足も、普段は母指球付近でステップを捉えておいて、リアブレーキを使うときだけ少し前へ出す。
ブレーキ操作が終われば、また戻す。
つまり実際には、
「正しい足の位置はここです」
と一点を決める話ではないんです。
足も操作している。
ということです。
上手な人ほど、足は意外と動いている
ライディングを見るとき、どうしてもハンドル操作や上体の動きに目が行きます。
でも足元を見ると、上手な人ほど意外と細かく動いています。
シフトする。
戻す。
リアブレーキを踏む。
戻す。
コーナーへ入る前に母指球付近へ足を移す。
切り返しに合わせて左右のステップへの力を変える。
それをいちいち大げさにやっているわけではありません。
自然にやっている。
だから外から見ると何もしていないように見える。
でも実際には足元でかなり準備をしているんですよね。
この「準備」があるからこそ、上半身を自由に使える。
「くるぶしで挟め」は少し注意した方がいいかもしれない
よくライディングでは、
「くるぶしで車体を挟みましょう」
「ニーグリップしましょう」
とも言われます。
もちろん、それ自体が間違っているという話ではありません。
ただ、
「くるぶしを車体に付ける」
というところだけを強く意識すると、人によっては、
踵を車体へ寄せる。
その結果、つま先が外へ開く。
膝も外へ向く。
ということがあります。
それでは今回の話と逆になってしまいます。
だから私は、
「くるぶしだけで挟む」
というより、
足先から膝、股関節まで、下半身全体が自然に使える位置にする。
と考えた方が分かりやすいと思っています。
ガニ股が悪いのではない。「それしかできない」のが問題
結局、今回一番言いたいのはここです。
ガニ股で乗っていること自体が悪いわけではありません。
ツーリングの直線なら、楽に乗ればいい。
膝を開いてもいい。
土踏まず付近で乗っていてもいい。
でもワインディングに入った。
コーナリングを少し楽しみたい。
ブレーキングをしっかりしたい。
切り返したい。
そんな場面になったときに、
つま先を前へ戻す。
母指球付近でステップを捉える。
足首、膝、股関節を使えるようにする。
シフトするときだけ足を前へ出す。
リアブレーキを使うときも前へ出す。
操作が終われば戻す。
そうやって足の位置を使い分けることができる。
そこが大切なんだと思います。
つまり、
「どこに足を置くのが正解か」
ではなく、
「必要な場所へ足を動かせるか」
なんです。
ハンドルが遠いと思ったら、まず足元を変えてみる
もし自分のバイクで、
「なんとなくハンドルが遠い」
「もっと手前にしたい」
「ハンドルを上げたい」
「ワインディングでバイクが重く感じる」
「倒し込みが遅い気がする」
そんなことを感じているなら、一度ハンドルを交換する前に足元を見てみてもいいかもしれません。
いつもの姿勢で、
自分のつま先はどこを向いているのか。
膝はどれくらい開いているのか。
ステップのどこに足を置いているのか。
そこから一度、つま先を前へ向けて、足を少し後ろへ引き、母指球付近でステップを捉えてみる。
そして骨盤を少し動かしてみる。
上体を自然に前へ持っていってみる。
肩と肘から力を抜いてみる。
すると、
「あれ? ハンドルってこんなに近かったっけ?」
と感じる人もいるかもしれません。
もちろん、それで必ず解決するわけではありません。
バイクも体格も人それぞれです。
でも、ハンドルを交換する前に試す価値はあると思います。
バイクは、扱ったように動く
バイクは不思議な乗り物です。
勝手に倒れたり、勝手に曲がったりしているように見えて、実際にはライダーが与えた入力にかなり忠実に反応しています。
ハンドル。
ブレーキ。
スロットル。
ステップ。
身体の位置。
それぞれの入力がつながって、バイクの動きになります。
だから、
「バイクをもっと上手く曲げよう」
と考える前に、
「自分はバイクへどういう入力を与えているんだろう?」
と考えてみる。
そして、その入力を邪魔しない身体の姿勢を作る。
今回の「つま先」の話は、ほんの小さなことに見えるかもしれません。
でも足先の向きが変わる。
膝が変わる。
骨盤が変わる。
上体が変わる。
ハンドルとの距離が変わる。
腕の力が変わる。
そしてコーナリングの感覚まで変わるかもしれない。
そう考えると、
ライディングというのはやっぱり面白いですよね。
次にバイクへ乗ったとき、一度自分のつま先を見てみてください。
いつもの足元から、何か変わるかもしれません。