ニューモデルYECVTとは?スクーターなのに「変速を選べる」――NMAX155とAEROXの電子制御CVTを掘り下げる

スクーターは、アクセルを開ければ走り、戻せば減速する。

クラッチ操作もシフト操作も必要なく、誰でも扱いやすいのが大きな魅力です。

その一方で、マニュアル車に乗り慣れた人には、少し物足りなく感じる部分もありました。

「追い越す前に、もう少し回転数を上げておきたい」

「長い下り坂なので、エンジンブレーキを効かせたい」

そう思っても、一般的なスクーターでは、ライダーが変速比を直接選ぶことはできません。

このスクーターの弱点ともいえる部分を、電子制御によって変えたのが、ヤマハの「YECVT」です。

そもそも普通のCVTは、どう変速しているのか

一般的なスクーターのCVTは、前後2組のプーリーとVベルトによって変速しています。

発進時は、前側プーリーのベルト位置が内側にあります。これがマニュアル車でいうローギヤに近い状態です。

エンジン回転数が上がると、前側プーリーの中にあるウエイトローラーに遠心力が働きます。ウエイトローラーが外側へ移動することでプーリーが押され、Vベルトが外側へ移動します。

すると減速比が徐々に小さくなり、ハイギヤ側へ変速していきます。

つまり一般的なスクーターの変速は、

  • エンジン回転数
  • ウエイトローラーの重さ
  • プーリーの形状
  • センタースプリングの強さ
  • エンジンにかかる負荷

などの機械的なバランスによって決まっています。

ライダーはアクセルを操作できますが、「いま一段ロー側へ戻したい」と直接指示することはできません。

YECVTは何を変えたのか

YECVTでは、従来ウエイトローラーの遠心力に任せていた前側プーリーの動きを、DCモーターで制御します。

車両は、

  • スロットル開度
  • スロットルを開ける速さ
  • 車速
  • エンジン回転数

などの情報から、その場に適した減速比をリアルタイムで計算します。

そしてDCモーターを動かし、リダクションギヤとスクリュー機構を介して、前側プーリーのシーブ位置を調整します。

これによって、エンジン回転数が自然に上がるのを待たなくても、

「これから加速するからロー側へ変速する」

「下り坂なのでロー側を保つ」

といった制御ができるようになりました。

ただし、電気モーターが後輪を駆動しているわけではありません。

後輪へ動力を伝える部分は、これまでと同じVベルト式CVTです。電動バイクでもハイブリッドでもなく、あくまで「変速比を電気モーターで制御するCVT」です。

3段変速のスクーターではない

YECVTには、左ハンドルのSHIFTボタンを使った最大3段階のシフトダウン機能があります。

ただし、内部に1速、2速、3速という固定されたギヤが入っているわけではありません。

SHIFTボタンを押すと、現在の走行状態に応じてCVTをロー側へ動かし、エンジン回転数を上げます。さらにボタンを押すことで、最大3段階までロー側へ変速できます。

実際の変速機は、あくまで無段変速のままです。

マニュアル車のシフトダウンに近い変化を、CVTの減速比を電子的に動かすことで作り出しているのです。

TモードとSモードは何が違うのか

YECVTには、TモードとSモードという2種類の走行モードがあります。

Tモードは、市街地で穏やかに走ることを想定したモードです。エンジン回転数を不必要に上げず、滑らかさと燃費を重視した変速を行います。

Sモードは、郊外やワインディングロードなどで、レスポンスよく走ることを想定しています。ロー側の変速比を使いやすく、アクセル操作に対してエンジン回転数が上がりやすい設定です。

ここで大切なのは、エンジンそのものの最高出力を切り替えているのではなく、主にCVTの変速マップを変えていることです。

Sモードにすると力強く感じますが、エンジンの最高出力が増えたわけではありません。エンジンが力を出しやすい回転域を、積極的に使っているのです。

どんな場面で「付いていてよかった」と感じるのか

YECVTの価値は、カタログを眺めているだけでは少し分かりにくいかもしれません。

実際に走っていて便利なのは、次のような場面です。

高速道路へ合流するとき

155ccのスクーターは高速道路を走れます。

ただし、大排気量車のように、どの速度域からでもアクセルを開ければ余裕で加速するわけではありません。

合流車線で前に遅い車がいて、一度速度を落としたあと、本線の速度まで加速しなければならない。このような場面では、加速を始めてからCVTの反応を待つ時間が長く感じることがあります。

YECVTなら、SHIFTボタンであらかじめロー側へ変速し、エンジン回転数を上げた状態から加速できます。

アクセルを開けてから加速が始まるのを待つのではなく、加速する前に車両を準備できるわけです。

高速道路で速度を回復させたいとき

大型車の後ろで一度速度を落としたあと、周囲の安全を確認して巡航速度へ戻したい。

また、高速道路の緩い上り坂や強い向かい風で、じわじわと速度が落ちてきた。

155ccでは、このような負荷の変化が走りにはっきり表れます。

そこでシフトダウンして回転数を上げれば、エンジンが力を出しやすい状態になり、速度を回復させやすくなります。

最高出力を増やすのではなく、もともと持っている出力を必要な瞬間に取り出す。小排気量車だからこそ、変速制御の効果が分かりやすい場面です。

一般道で前走車を追い越すとき

追い越しでは、最高速よりも「どれだけ早く加速が始まるか」が重要です。

追い越しを始めてからアクセルを大きく開け、CVTの反応を待つよりも、先にSHIFTボタンで回転数を上げておいた方が、加速に移るまでの時間を短くできます。

もちろん、YECVTがあるから無理な追い越しができるという意味ではありません。

安全に追い越せる条件が整っているときに、追い越しに必要な時間と距離を短くし、余裕を増やすための機能です。

上り坂やタンデム走行

上り坂や二人乗りでは、エンジンにかかる負荷が大きくなります。

従来型CVTでも負荷に応じてロー側へ戻ろうとしますが、ライダーが期待するタイミングと、実際に変速するタイミングが一致するとは限りません。

YECVTなら、速度が落ち始める前にシフトダウンし、エンジン回転数を上げておくことができます。

特に、

  • 二人乗り
  • 荷物を積んでいる
  • 長い上り坂
  • 前走車に合わせて一度速度を落とした

といった条件が重なるほど、ありがたさを感じやすいでしょう。

長い下り坂

実用面で、もっとも「YECVTが付いていてよかった」と感じるのは、長い下り坂かもしれません。

普通のスクーターはアクセルを戻しても思ったほど速度が落ちず、ブレーキを使い続けることがあります。

YECVTでシフトダウンすると、エンジン回転数が上がり、エンジンブレーキが強くなります。

マニュアル車で一段低いギヤを選んで下るように、ブレーキだけに頼らず速度を調整できるのです。

長い下り坂では、ブレーキ操作の負担を減らすだけでなく、ブレーキの温度上昇を抑えるうえでも役立ちます。

ただし、低速になると遠心クラッチが切れるため、停止直前までエンジンブレーキが効き続けるわけではありません。また、エンジンブレーキは前後ブレーキの代わりではなく、あくまで減速を補助する機能です。

下り坂のコーナーが続くとき

下りのワインディングでは、コーナーのたびにブレーキを使い、直線で離し、次のコーナーでまたブレーキを使います。

YECVTでロー側の変速比を選んでおけば、アクセルを戻したときに適度なエンジンブレーキが働くため、ブレーキだけで速度を作る必要がありません。

さらに、コーナーを抜けてアクセルを開けたときには、すでにエンジン回転数が上がっています。

減速するために行ったシフトダウンが、そのままコーナー立ち上がりの加速にもつながります。

この感覚は、マニュアル車でコーナー進入前に一段落とす操作に近いものです。

市街地ではTモードが生きる

YECVTは、速く走るためだけの装備ではありません。

混雑した市街地ではTモードを選ぶことで、回転数を不必要に上げず、滑らかで穏やかな走りができます。

郊外やワインディングではSモード、市街地ではTモード。

従来のCVTでは一つのセッティングで市街地から高速道路まで対応しなければなりませんでしたが、YECVTでは走る場所に応じて変速特性を選べます。

海外名の「TURBO」は本物のターボではない

海外では、YECVTを搭載したNMAXが「NMAX TURBO」という名称で販売されています。

しかし、ターボチャージャーが装着されているわけではありません。

エンジンの最高出力を過給によって増やすのではなく、YECVTで素早くロー側へ変速し、力の出る回転域を使うことで、ターボのような加速感を演出しています。

ですから、YECVTを「速くする装置」と考えるよりも、「エンジンの力を取り出しやすくする装置」と考えた方が正確でしょう。

現在の国内YECVT搭載車

2026年9月現在、国内正規モデルでYECVTを搭載しているのは、NMAX155 ABSとAEROX ABSです。

NMAX155は、2025年モデルから国内で初めてYECVTを採用しました。市街地での快適性からツーリング、高速道路まで幅広く対応する性格です。

AEROX ABSは2026年8月31日に発売された、国内2車種目のYECVT搭載車です。

基本的な仕組みはNMAX155と同じですが、AEROXのSモードは、中高速域での鋭いレスポンスと加速感を重視した専用セッティングになっています。

NMAX155は快適性とツーリング性能、AEROXはスポーティな走りを、同じYECVTを使いながら、それぞれ異なる方向へ伸ばしているわけです。

なお、国内の125cc版NMAX、X FORCE、XMAX、TMAX560には、現在のところYECVTは搭載されていません。

構造が複雑になる部分はある

YECVTでは、従来型CVTに加えて、

  • DCモーター
  • リダクションギヤ
  • スクリュー機構
  • 各種センサー
  • 電子制御
  • 故障診断機能

などが必要になります。

そのため、ウエイトローラーによって変速する一般的なCVTより、構造や診断は複雑になります。

また、Vベルトや遠心クラッチを使うことに変わりはありません。YECVTだからVベルト交換が不要になるわけでも、完全なギヤ式になるわけでもありません。

Sモードやシフトダウンを多用して高い回転数で走れば、当然燃費にも影響します。

便利な電子制御ではありますが、使い方によって燃費や走りが変わるところも、マニュアル車に少し近づいた部分かもしれません。

「変速しないスクーター」から「変速を選べるスクーター」へ

YECVTの本当の価値は、スクーターをマニュアル車のように見せたことではないと思います。

楽に走りたいときは、完全自動のままで走れる。

一方で、追い越し、上り坂、高速道路への合流、長い下り坂、コーナー進入といった場面では、ライダーが変速に介入できます。

つまり、

「すべて車両任せのスクーター」から、

「必要なときだけ、ライダーが変速を選べるスクーター」

へ変化したのです。

特に155ccは、高速道路を走れる一方、大排気量車のように余るほどの力があるわけではありません。

だからこそ、排気量を大きくして余裕を作るのではなく、限られた出力を変速制御によって上手に使うYECVTには意味があります。

いつでも派手に速く感じる装備ではありません。

しかし、合流や追い越しの前に加速態勢を作り、上り坂では力を引き出し、下り坂ではエンジンブレーキを使う。

そんな「もう少し余裕が欲しい」という瞬間に、付いていてよかったと思える装備ではないでしょうか。

参考資料
ヤマハ発動機 NMAX155 機能・装備
ヤマハ発動機 AEROX 機能・装備
ヤマハ発動機 AEROX ABS発表資料