レース走るためだけに作られたバイク。コンペモデルには、そこでしか味わえない世界がある

私も、けっこう長くコンペモデルに乗っています。

というより、

「自分にとってバイクとは何ですか?」

と聞かれたら、モトクロッサーのYZを思い浮かべるかもしれません。

「もしバイクを1台だけ所有していいと言われたら?」

そんな問いでも、やっぱりYZを選ぶかもしれない。

それくらい、私にとってモトクロッサーというのは面白い乗り物です。

ちょうどYSP大分にも、2027年型YZ125、YZ250Fが入荷してきました。

新しいYZを眺めながら、

「そもそも、なぜこのバイクはこんなに面白いんだろう?」

と、あらためて考えてみました。

そもそも「コンペモデル」って何?

「コンペモデル」とは、「コンペティションモデル(Competition Model)」を略した言い方です。

日本語にすれば、簡単にいえば「競技専用車」。

YZ125やYZ250Fのように、レースなどの競技で走ることを前提に作られたバイクのことです。

ライトもない。

ウインカーもない。

ナンバーを付けて公道を走ることもできない。

ハイエースや軽トラックなどに積んで、モトクロスコースなど走行できる場所まで持っていって、そこで初めて乗ることができます。

普通のバイクしか知らない方からすると、

「そこまでして乗るの?」

と思うかもしれません。

でも、そこにはちゃんと理由があります。

公道用バイクには、実はものすごく多くの仕事がある

普段私たちが乗っているバイクには、いろいろな性能が求められます。

朝の通勤でも使える。

渋滞でも扱いやすい。

低い速度でもギクシャクしない。

高速道路も走れる。

長時間乗っても疲れにくい。

燃費も大切。

環境性能も必要。

騒音にも配慮する。

雨の日も走る。

車種によっては二人乗りもするし、荷物も積む。

そして安全性も必要です。

ABSやトラクションコントロール、IMUなど、現在のバイクにはさまざまな電子制御も使われています。

つまり公道用バイクというのは、

「いろいろな場面で、いろいろな人が使えること」

まで考えて作られているわけです。

これはものすごいことです。

では「競技で速く走ること」だけを考えたら?

一方、YZのような競技専用車には、公道用バイクと同じ仕事をさせる必要がありません。

信号待ちで快適でなくてもいい。

高速道路を何時間も巡航しなくてもいい。

二人乗りもしない。

荷物も積まない。

ライトもウインカーも必要ない。

必要なのは、

「モトクロスコースを、より速く、より正確に走ること」

です。

だったらエンジンも、ミッションも、サスペンションも、車体も、その目的へ集中して作ることができます。

ここが公道用バイクとの大きな違いです。

ちなみに「競技車だから電子制御がない」という意味ではありません。

YZ250Fにもトラクションコントロールなどの技術は使われています。

違うのは、電子制御があるかないかではなく、

「何のために使われているのか」

です。

公道で幅広い状況に対応するためなのか。

競技で速く走るためなのか。

目指しているところが違うんですね。

だから「硬い」「怖い」と感じることがある

初めてモトクロッサーに乗った人から、

「サスペンションが硬い」

「跳ねる」

「落ち着かない」

「パワーが怖い」

という感想が出ることがあります。

これも考えてみれば当然なのかもしれません。

競技車のサスペンションは、単に乗り心地を良くするためのものではありません。

ブレーキングバンプを越える。

ジャンプから着地する。

コーナーで強く荷重する。

短時間で右から左へ切り返す。

アクセルを開けながら荒れた路面を走る。

そういう使われ方を前提にしています。

ですから「硬いか柔らかいか」という単純な話ではなく、

そもそも想定している入力が違う。

ところがライダーが怖がって、ただシートにドーンと座って、ハンドルにつかまり、ゆっくりひょろひょろ走っていたらどうでしょう。

本来想定している使われ方とは、かなり違ってきます。

そこで、

「このバイク、乗りにくいな」

となるわけです。

「もっと速く走れ」という話ではありません

ここは、とても大事です。

競技車はある程度の速度があった方が安定する場面があるからといって、

「初心者でも怖がらずアクセルを開ければいい」

という話ではありません。

それでは危ない。

必要なのは、

「バイクが求めるところまで、自分の技術を少しずつ持っていくこと」

です。

私はこれを、コンペモデルの「ストライクゾーン」と考えています。

フォームが合っている。

ラインが決まっている。

きちんと減速できる。

必要なところからアクセルを開けられる。

サスペンションへ必要な荷重を入れられる。

そこへ自分の技術が近づいてくると、バイクの印象が変わってきます。

それまで、

「硬い」

「跳ねる」

「怖い」

と思っていたバイクが、

「サスが動く」

「タイヤが食う」

「狙ったところへ行く」

「アクセルを開けると気持ちいい」

に変わってくる。

この瞬間が、コンペモデルの面白いところなんです。

ゴルフも、クラブを買っただけではうまくならない

これはゴルフに似ているかもしれません。

高価なクラブを買った。

プロが使うクラブを買った。

だから明日からまっすぐ遠くへ飛ばせる。

そんなことはありませんよね。

まずフォームを作る。

クラブの振り方を覚える。

身体の使い方を覚える。

ボールへ正しく当てられるようにする。

バイクも同じです。

YZを買った。

レーサーを手に入れた。

やった、これで速く走れる。

とはなりません。

むしろ、そこから人間側の練習が始まります。

だから「部分練習」が必要になる

そこで大事になるのが、練習を分解することです。

スタート練習なら、加速だけを繰り返すことができます。

どう身体を置けばいいのか。

どこまでアクセルを開けられるのか。

タイヤがどんなふうに路面をつかむのか。

ブレーキング練習なら、減速だけに集中できます。

どの姿勢なら強くブレーキを掛けられるのか。

フロントへ荷重が移ったときに、身体をどう支えるのか。

8の字なら、

視線。

フォーム。

旋回。

外足。

アクセル。

そういった基本を何度も繰り返せます。

さらに、一つのコーナーだけ。

一つのジャンプだけ。

一つの荒れたセクションだけ。

そうやって一つずつできることを増やして、最後に全部をコース一周の中でつなげていく。

「速く走る練習」というより、

「速くなっても正しく操作できる自分を作る練習」

なんだと思います。

そして、ものすごく大切なのがライン

競技車に慣れていないと、怖いので速度を落とします。

それ自体は悪いことではありません。

問題は、

「どこを走るのか決めずに走ること」

です。

ギャップがあったから右へ。

轍があったから左へ。

石があったからまた右へ。

その場その場で避けながら、好き勝手にひょろひょろ走る。

そうすると、ブレーキを掛ける場所も決まらない。

身体を動かすタイミングも決まらない。

どこからアクセルを開けるかも決まらない。

結果的に、ずっと不安定になります。

まず、

「このコーナーはここから入る」

「ここを通る」

「ここで向きを変える」

「ここからあそこへ抜ける」

と一本の線を決める。

すると、そのラインへ向けてブレーキングできます。

身体の準備ができます。

向きが変わればアクセルを開けられます。

速いライダーは自由自在に走っているように見えますが、実際には適当に走っているわけではありません。

どこを通るのかを決め、それに合わせて操作している。

ここも一般の公道走行とは少し違って見えるところかもしれません。

だから初心者にはWR125Rがいいと思う

ここで先日のブログにつながります。

私は、

「これからオフロードを始めるなら、まずWR125Rのようなバイクがいいのでは」

と書きました。

その考えは変わりません。

WR125Rなら、公道を走りながらでも基本操作を考えられます。

信号で止まるたびにブレーキングを意識する。

交差点で視線を意識する。

身体の位置を考える。

アクセルを丁寧に開ける。

そしてオフロードへ持っていっても、低い速度から試すことができます。

失敗しても、

「今のは違ったな」

と考えながらもう一度やりやすい。

言ってみれば、WR125Rはバイクの乗り方を学ぶためのストライクゾーンが広い。

一方YZは、より競技に特化したところへストライクゾーンがあります。

どちらが上とか下という話ではなく、

目的が違うんです。

それでもトップライダーが競技用オフロード車で練習する理由

面白いのは、モトクロスライダーだけでなく、多くのMotoGPライダーもモトクロスやフラットトラック、スーパーモトなどをトレーニングに取り入れていることです。

MotoGPを走るような人たちです。

バイクに乗る技術がないはずがありません。

それでも別の競技用バイクに乗って練習する。

つまり、

「上手になったら練習は終わり」

ではないんでしょうね。

バイクから返ってくる変化を感じ、それに対して人間が反応する。

そのやり取りを何度も経験する。

競技車には、そういうトレーニング道具としての面白さもあるのだと思います。

公道では使えない性能を、使っていい場所がある

公道では、当然ながら交通ルールがあります。

交通量もあります。

歩行者もいれば、自転車もいる。

バイクの性能を思い切り使っていい場所ではありません。

でもモトクロスコースでは違います。

決められたコースとルール、安全管理の中で、

もっと速く。

もっときれいに。

もっと遠くへ。

もっと正確に。

そうやって自分の技術を伸ばしていくこと自体が目的になります。

公道では絶対にできないことを、やっていい場所で思い切りやる。

これもコンペモデルの大きな魅力です。

しかも、いつでも買えるバイクではありません

コンペモデルには、もう一つ普通の市販車とは違うところがあります。

レースシーズンが終わる頃に翌年モデルが登場し、冬の間にマシンを準備して、来春のシーズンへ向けて導入していく。

そういう流れがあります。

つまり、

「春になったから欲しくなった。じゃあ今買おう」

と思っても、希望するモデルがいつでも普通に手に入るとは限りません。

今、当店に2027年型YZ125、YZ250Fが入荷しているのも、そういう季節だからです。

今だからこそ、コンペモデルに触れる意味があるのかもしれない

今の公道用バイクは、本当によくできています。

環境性能も。

快適性能も。

安全性能も。

電子制御も。

さまざまな条件を満たしながら、それでも楽しいバイクをメーカーは作ってくれています。

だから私は、それを否定したいわけではありません。

むしろ逆です。

そういうバイクが当たり前になった今だからこそ、

ライトもいらない。

ウインカーもいらない。

高速道路も走らない。

二人乗りもしない。

公道での快適性も考えなくていい。

「競技で走る」

そこへ目的を絞ったバイクに触れてみると、

「そもそもバイクを操るってこういうことなんだ」

と、また違ったところが見えてきます。

そして、人間側が練習して、そのバイクが求めるところへ少しずつ近づいていく。

昨日できなかったことができる。

入れなかったラインへ入れる。

開けられなかったところからアクセルを開けられる。

怖かったギャップが普通に越えられる。

すると、走るためだけに作られたバイクが、

「そうそう、それでいいんだよ」

と言っているように、急に気持ちよく走り始める。

コンペモデルの楽しさは、単に高性能なバイクを所有することではないと思います。

その性能があるところまで、自分自身を少しずつ近づけていくこと。

簡単ではありません。

だからこそ、面白い。

初心者には、まずWR125Rのようなバイクから。

でも、その先にはこんなバイクの世界もある。

2027年型YZ125、YZ250Fを眺めながら、あらためてそんなことを思っています。