
どんなに注意していても、人間はミスをする
どんなに注意していても、ミスをするのが人間です。
ミスをしない人はいません。
でもバイクという乗り物は、場合によってはそのミスを簡単には許容してくれません。
ちょっと言い方は悪いですが、
「あれ?今、失敗しましたね?」
と、手痛い罰を食らわせてくるのがバイクです。
うちには6歳のメスのマルプーがいます。
かわいいんですよ。
でも、
「今日は機嫌いいかな?」
と思って触っていたら、急に噛みついてくることもある。
想定外のことなんて、人生にはいくらでもあります。
では噛みつかれたらどうするのか。
黙って噛まれるのか?
うちの犬の場合は……
……いや、その話ではありませんね。
バイクの話です。
ただ、似ているところがあるとすれば、
「何か起きてからどうするか」
だけではなく、
「なんか機嫌悪くなりそうだな」
という手前で気づくことも大切だということです。
バイクの場合、それがもっと切実です。
何かあれば、命にかかわることがあります。
ミスは起こる。
でも、そのミスをうまく回収できるか。
そしてもっと手前で、
「このままいくとまずいな」
と気づいて修正できるか。
場合によっては、それでその人の運命が変わることさえあると思います。
今回は、
「ミスをしないための技術」
ではなく、
「ミスしたあと、どう戻すのか」
そして、
「ミスが大きくなる前に、どう気づくのか」
を考えてみたいと思います。
教習所では「正しく走る」ことを習う
教習所では当然ながら、ミスをしないための練習をします。
正しい速度で進入する。
正しい位置を走る。
しっかり減速する。
安全確認をする。
危険を予測する。
これはもちろん、とても大切です。
でも実際に長くバイクに乗っていると、もうひとつ必要な能力があることに気づきます。
それが、
「予定どおりにいかなかったあと、どうするか」
です。
少し速度が高かった。
ラインを外した。
ブレーキを強くかけすぎた。
リアが少し滑った。
フロントに嫌な感触が出た。
公道を普通に走っていても、こういうことはあります。
そして本当に怖いのは、その最初の小さなミスが、次のミス、さらに次のミスへつながっていくことです。
小さなミスが、決定的なミスへ育っていく
たとえばカーブ。
最初のミスは、
「ちょっと進入速度が高かった」
だけだったとします。
まだ十分曲がれる。
ところが、
「まずい、速い!」
と思って慌てる。
強くブレーキをかける。
車体が起きて、予定より外へ膨らむ。
そこでガードレールが目に入る。
「ぶつかる!」
と思って、そこを凝視する。
身体が固まり、さらに曲がらなくなる。
最後に、
「もうダメだ」
と大きな操作をして、決定的に破綻する。
こう考えると、最初のミスだけならまだ回収できたかもしれません。
事故につながったのは、
「小さなミスが連鎖した結果」
とも言えます。
リアが少し滑った場合も同じです。
最初はほんの少し。
まだ何でもない。
ところが、
「滑った!」
と驚いて急な操作をする。
それで荷重が変わり、車体の動きがさらに大きくなる。
そこでまた慌てる。
そして最後に転倒する。
だから大切なのは、
「絶対にミスをしない」
だけではありません。
最初の小さなミスを、
「ここで終わらせる」
ことです。
小さな違和感に気づく。
次に何が起こりそうかを予測する。
慌てず、小さい操作で修正する。
ミスを次のミスへつなげない。
言い換えれば、
「ミスを育てない」
ということです。
経験者は「滑った!」より前に気づいている
長く乗っていると、
「あれ、なんとなく膨らみそうだな」
とか、
「今日ここ、なんかフロントの接地感が嫌だな」
と感じることがあります。
まだ大きくラインを外しているわけではない。
実際に滑っているわけでもない。
でも、
「この感じでいくと、この先ちょっと苦しくなりそうだな」
と分かる。
そこで少し操作を穏やかにする。
ラインに余裕を持たせる。
身体の力を抜く。
早めに速度を整える。
オフロードなどで何度もタイヤが滑る経験をしていると、
「滑った」
だけではなく、
「滑り始め」
が分かるようになります。
リアが完全に横へ出てから、
「滑った!」
ではなく、
「あ、ちょっとリアが軽いな」
という段階で気づく。
フロントが大きく逃げてからではなく、
「あれ、ちょっと手応えが薄いな」
というところで感じる。
そうすると、修正も小さくて済みます。
つまり上手い人は、大きなミスを派手にリカバリーしているのではなく、
「小さなミスのうちに気づいて、小さな操作で消している」
のかもしれません。
自分の「ありがちなミス」を知っておく
ここで、誰にでもできることがあります。
それは、
「自分はどういうミスをしやすいのか」
を知っておくことです。
これは人によって違います。
カーブで少し速度を残しすぎる。
怖くなると出口ではなく外側を見てしまう。
強くブレーキをかけると腕に力が入りやすい。
低速でバランスを崩したとき、足を出すのが遅れる。
路面が悪いのに、いつもの感覚でアクセルを開けてしまう。
疲れてくると視線が近くなる。
そういう、
「自分はこれがありがちだな」
というパターンを覚えておく。
そして、
「もしそうなったら、どうするのか」
もあらかじめ考えておく。
さらに一歩進めれば、
「そうなってからどうするか」
ではなく、
「そうなりそうな段階で気づく」
ことを意識する。
自分はカーブで速度を残しやすい。
ならば、
「速かった!」
となってからではなく、
「今日はちょっとペースが上がっているな」
「この進入だと少し速度が残りそうだな」
というところまで、気づくタイミングを前へ持っていく。
自分にありがちなミスを知る。
↓
起きたときの対処を考えておく。
↓
経験を通じて身体に覚えさせる。
↓
その経験から予兆が分かるようになる。
↓
最終的には、ミスになる前に対処する。
こういう流れになるのではないでしょうか。
「ロックしたら戻せばいい」は、言うほど簡単ではない
ブレーキでも同じです。
「タイヤがロックしたら戻せばいい」
言葉では簡単です。
でも、何百万円もする大型バイクで初めてタイヤが滑った瞬間に、
「あ、ロックした。では少し入力を戻そう」
と冷静にできるでしょうか。
かなり難しいと思います。
大型バイクは重い。
速度も出る。
転倒したときの損害も大きい。
だから、
「一度ロックさせて練習してみましょう」
などとは簡単には言えません。
今はABS付きの車両も多く、緊急時にはその性能を適切に使うことも重要です。
一方で、強くブレーキをかけている最中でも、
「あ、これ以上いくと嫌な感じだ」
と感じる瞬間があります。
私自身、強い制動をしていて、
「これ以上握ったら、ちょっとまずいな」
と感じ、操作を調整することがあります。
もちろん、公道で限界を試せという話ではありません。
むしろ逆です。
限界を越えてからどうにかするのではなく、
「限界へ近づいている感じ」
を早く察知する。
そこが大事なのだと思います。
大型バイクほど、リカバリーを練習しにくい
ここには少し皮肉なところがあります。
重量もあり速度も出る大型バイクほど、もしものときのリカバリー能力は重要です。
ところが、大型バイクほどリカバリーの練習がしにくい。
フロントを少し滑らせてみましょう。
リアを少し流してみましょう。
ブレーキをロックさせて戻してみましょう。
そんなことを公道でやるわけにはいきません。
高額な大型バイクで転倒覚悟の練習をしようと思う人も、ほとんどいないでしょう。
でも本番で初めてその現象に出会って、
「こうなったらこうする」
を一発で身体が実行できるか。
私は難しいと思います。
頭で知っていることと、身体が反応できることは別だからです。
そこでオフロードの経験が効いてくる
オフロードを走ると、状況が全く違います。
そもそも、狙ったラインを一周ずっと完璧になぞること自体が難しい。
轍がある。
ギャップがある。
土の硬さも違う。
グリップも一定ではない。
前の周と同じ場所でも、次の周には路面が変わっている。
「ここを走ろう」
と思って入っても少し外れる。
そこで、
「じゃあ、ここから戻そう」
となる。
つまり最初から、
「予定どおりにいかない」
ことを前提に走っているのです。
フロントが流れる、リアが滑る。それも経験になる
たとえばフロントタイヤが少し流れた。
そこで、
「転ぶ!」
と身体を固めてしまえば、さらに対応が難しくなります。
一方、何度も経験していると、
「このくらいならまだ大丈夫」
という感覚があります。
バイクが動く方向に身体もある程度ついていきながら、グリップが戻るのを待つ。
これはもう厳しいと思えば、足をポンと出して車体を起こすこともあります。
そして経験が増えるほど、
「滑った」
ではなく、
「滑りそう」
が分かるようになる。
山の中のいわゆる酷道を走っていて、苔むしたような路面に出会うこともあります。
そこへ少しアクセルを開けたら、
ズルッ。
リアが滑る。
そんなとき、
「おわ、今滑った滑った」
くらいで終わることがあります。
もちろん油断していいという話ではありません。
ただ、オフロードで何度もそういう挙動を経験していると、
「リアが動いた=即転倒」
とは感じなくなります。
同時に、
「この程度ならまだ戻る」
「ここからさらにやると、もっと横を向く」
「この先まで行けば、たぶんこういう形で地面に叩きつけられる」
というところまで、なんとなく分かる。
言い換えるなら、
「転倒までの途中経過を知っている」
のです。
だから、その景色が見え始めた段階でやめられる。
決定的なミスになる一つ前。
さらに一つ前。
そこで止めることができる。
これはかなり大きいと思います。
オフロードは「リカバリーだらけ」
オフロードを一日走れば、
ラインを外した。
リアが滑った。
フロントが逃げた。
ギアを一段間違えた。
ギャップで予想以上に跳ねた。
轍から外れた。
ブレーキングが少し遅れた。
そんなことを何度も経験します。
もちろん転ぶこともあります。
でも、その繰り返しの中で、
「こうなったら、こうすると戻る」
「ここまでは慌てなくていい」
「これ以上いくと厳しい」
ということを身体が覚えていく。
同時に、
「この小さなミスを放っておくと、次にこうなる」
という流れも覚えていく。
だからこそ、小さなうちに止められる。
本で読んで、
「リアが流れたら慌てるな」
「急な操作をするな」
と知っていても、実際に初めてズルッと動けば、身体は反射的に動きます。
だからこそ、
WR125Rのような軽くて扱いやすく、比較的低い速度域で車体の動きを経験できるバイク。
そして、安全を確保できる場所。
失敗しても、公道で大型バイクを扱うより大事故につながりにくい環境。
そういう条件で経験しておく意味があるのだと思います。
「乱れない姿勢」ではなく「乱れても動ける姿勢」
オフロードには、舗装路にはない大きなギャップがあります。
当然、バイクは跳ねます。
だから、
「絶対に跳ねないようにしよう」
ではなく、
「ここへ入ったら、こう跳ねるかもしれない」
と考えます。
ギャップへの入り方を変える。
身体が動ける姿勢を作る。
跳ねても次につなげやすいラインを選ぶ。
場合によっては、仮に車体が跳ねても危険な方向へ飛び出しにくい位置を選ぶ。
つまりリカバリーとは、
「乱れてから何とかする技術」
だけではありません。
「乱れることを想定して、乱れても困らない準備をしておく」
ことまで含まれるのです。
これは武道でいう「自然体」に少し似ているのかもしれません。
身体をガチガチに固めるのではなく、
前にも動ける。
後ろにも動ける。
左右にも動ける。
バイクだけを動かすこともできる。
自分も一緒についていける。
そういう「余白」を残しておく。
乱れないために固めるのではなく、
乱れたときに動けるようにしておく。
これもリカバリーの一部なのでしょう。
オフロードで大きく覚えて、公道では小さく使う
私は、オフロード経験の価値はここにあるのではないかと思っています。
公道で派手なリカバリーをするためではありません。
むしろ、公道でそこまで行かないためです。
オフロードでは、
ズルッ。
ガタッ。
ドン。
と、比較的大きな動きを何度も経験します。
でも、その経験があるから公道では、
「ん?」
「なんか嫌だな」
「このままいくとまずいな」
という、小さなサインの段階で気づける。
言ってみれば、
「オフロードで大きく覚えて、公道では小さく使う。」
そんな関係なのかもしれません。
「ミスをしない」だけではなく「ミスを育てない」
公道で滑らせる練習をしようという話ではありません。
大型バイクで限界を試す必要もありません。
むしろ、それはやらない方がいい。
でも、人間が運転する以上、ミスを完全にゼロにすることもできません。
だから、
自分がどんなミスをしやすいのか知っておく。
そうなったらどうするのか考えておく。
もっと早い段階で、その予兆に気づけるようにしておく。
それでもミスしたら、小さいうちに修正する。
次のミスにつなげない。
それでも乱れたときには、身体が対応できる。
私はこれが、本当の意味での「余裕」なのではないかと思います。
上手い人とは、転びかけたバイクを超絶技巧で戻す人ではない。
最初の小さなミスを、
二つ目のミスへつなげない人。
さらに言えば、
最初の小さなミスが起きる前から、
「自分はこういうときにやらかしやすい」
「このままいくとまずい」
と気づける人。
まだ小さいうちに終わらせられる人。
冒頭の犬の話で言えば、
噛みつかれてから上手にかわすことも大事ですが、
「ん?今日はなんか機嫌悪そうだぞ」
で手を引っ込める方が、ずっといい。
バイクもきっと同じです。
機嫌が悪くなる前の、小さなサインを見逃さない。
それでも何か起きたら、慌てず回収する。
そう考えると、オフロードは速く走るためだけの練習ではありません。
「予定どおりにいかなかったとき、そこからどう戻すか」
「小さなミスが、どんな順番で大きな破綻につながっていくのか」
「その連鎖を、どこで断ち切るか」
そして、
「もっと手前で、その予兆にどう気づくか」
を何度も身体に覚えさせてくれる場所でもあります。
大型バイクで本当に必要になるリカバリー能力を、大型バイクで練習するのは難しい。
だからこそ、WR125Rのような軽くて扱いやすいバイクを使い、安全を確保できる場所で、
「自分の癖を知る」
「乱れる」
「気づく」
「先を読む」
「戻す」
を経験しておく。
それは速く走るためだけではなく、長く安全にバイクに乗り続けるためにも、かなり意味のある練習なのではないかと思います。