SNSやYouTubeの情報を真似する前に考えてほしいこと

「結局、誰の言うことが正しいんですか」
バイクの話をしていると、時々そう感じることがあります。
特にバイクを始めたばかりの頃は、自分より上手い人や、バイクの先輩から乗り方を教えてもらうことがあると思います。
それ自体は、とてもありがたいことです。
でも、こんなふうに思ったことはありませんか。
Aさんは、
「そこはもっとアクセルを開けた方がいい」
と言った。
Bさんは、
「いや、そこはブレーキを使った方がいい」
と言った。
YouTubeで見た元プロライダーは、
「そこはクラッチを切った方がいい」
と言っていた。
では、いったい何が本当なのでしょうか。
アクセルを開けるのか。
ブレーキを使うのか。
クラッチを切るのか。
誰の言うことを信じればいいのか。
バイクに乗っていると、こういうことはけっこうあると思います。
もちろん、教えてくれる人は悪気があって言っているわけではありません。
嘘を言っているわけでもありません。
間違ったことを言っているとも限りません。
むしろ、その人の経験の中では、正しいことを言っている場合が多いと思います。
でも、ここで少しだけ考えてみてほしいのです。
そのアドバイスは、今の自分に本当に合っているのでしょうか。
教える側は間違っていない。でも、あなたの段階までは知らない
バイクの乗り方を教わる時に、一番難しいのはここだと思います。
教える側は、嘘を言っているわけではありません。
間違ったことを言っているとも限りません。
ただ、その人は、あなたが今どこの段階にいるかまでは知らない。
ここが怖いところです。
バイクに乗り始めたばかりの人。
免許を取って、少しずつ公道に慣れてきた人。
ツーリングを楽しんでいる人。
サーキットを走っている人。
オフロードを走っている人。
レースで上を目指している人。
同じ「バイクに乗る」ということでも、その人がいる段階はまったく違います。
そして、その段階によって、必要なアドバイスも変わります。
ある人には、
「もっとアクセルを開けた方が安定する」
が正解になることがあります。
でも、まだ怖さが残っている人や、操作が追いついていない人にとっては、それは危険なアドバイスになるかもしれません。
逆に、
「もっと減速して、ゆっくり入ろう」
という言葉もあります。
初心者にはとても大事な話です。
でも、ある程度のペースで走る人にとっては、減速しすぎることでリズムを崩したり、バイクの動きが不安定になったりすることもあります。
つまり、どちらが正しいかではありません。
今のその人に必要なのは、どちらなのか。
そこが大事なのだと思います。
バイクの乗り方には段階がある
バイクの乗り方には、段階があります。
これはとても大事なことだと思います。
いきなり全部をやろうとしても、うまくいきません。
視線。
ブレーキ。
アクセル。
クラッチ。
荷重。
フォーム。
体重移動。
ステップの使い方。
上半身の力の抜き方。
どれも大事です。
でも、それをどの順番で身につけるかは、その人の段階によって変わります。
たとえば、まだバイクに慣れていない人に、いきなり細かい荷重移動や高度なブレーキングの話をしても、余計に混乱するかもしれません。
逆に、ある程度乗れる人に、ずっと初心者向けの話だけをしていても、次の段階には進みにくいかもしれません。
バイクのアドバイスは、内容だけでなく、タイミングも大事です。
その人が今、何に困っているのか。
どこが怖いのか。
何ができていて、何がまだできていないのか。
そこを見ないと、本当に必要なアドバイスは分かりにくいのです。
教える人が何で上手くなったかによって、教え方も変わる
もう一つ大きいのは、教える人によって「何で上手くなったか」が違うことです。
ある人は、視線を変えたことで急に乗りやすくなったかもしれません。
ある人は、下半身でバイクを支えることを覚えて、上半身の力が抜けるようになったかもしれません。
ある人は、ブレーキの使い方を覚えて、コーナーが安定するようになったかもしれません。
ある人は、アクセルを開けることでバイクが安定する感覚を掴んだかもしれません。
そうすると、その人にとっては、それが一番大事なアドバイスになります。
「視線が大事だよ」
「下半身で支えた方がいいよ」
「ブレーキをもっと使った方がいいよ」
「アクセルを開けた方が安定するよ」
どれも、その人の経験の中では本当です。
ただし、それはその人に足りなかった最後のピースだっただけかもしれません。
その人は、もともとブレーキがある程度できていたのかもしれない。
もともと怖さが少なかったのかもしれない。
もともと体の使い方ができていたのかもしれない。
そのうえで、最後に視線を変えたら一気に乗れるようになった。
だから、その人は「視線が一番大事」と言う。
それは間違いではありません。
でも、聞く側がまだその前段階にいる場合、そのアドバイスがそのまま当てはまるとは限らないのです。
モトクロスで考えると分かりやすい
これはモトクロスで考えると、とても分かりやすいと思います。
たとえば、同じジャンプがあるとします。
プロを目指して走っているライダーに教える場合と、昨日初めてオフロードバイクに乗った人に教える場合では、言うことはまったく変わります。
プロを目指しているライダーなら、
「あのジャンプは3-3-2でいこう」
「多少振られても気にしなくていい」
「飛び出しで姿勢を作ろう」
という話になるかもしれません。
でも、昨日初めてオフ車に乗った人なら、同じ場所でもまったく違います。
「あそこは絶対に飛ばないようにしようね」
「ゆっくり登って、ゆっくり降りよう」
「体重移動を丁寧に」
「うっかりフワッと浮くと、着地で地面に叩きつけられるよ」
という話になります。
同じコースです。
同じジャンプです。
同じバイクの話です。
でも、相手の段階が違えば、必要なアドバイスは正反対になることがあります。
プロを目指す人には、飛んだ方が良い場合がある。
昨日初めて乗った人には、絶対に飛ばない方が良い。
どちらも間違いではありません。
これがバイクの難しいところです。
正しい情報でも、自分には危ないことがある
YouTubeやSNSには、たくさんのバイクの情報があります。
上手い人の走り方。
元プロライダーの解説。
サーキットのテクニック。
オフロードの走り方。
安全運転の考え方。
役に立つ情報もたくさんあります。
昔に比べれば、今は本当に多くのことを学べるようになりました。
それ自体は、とても良いことだと思います。
ただし、問題はそこからです。
その情報を見て、
「この人が言っていたから、自分もそのまま真似してみよう」
となると、危険な場合があります。
その発信が間違っているという意味ではありません。
教えている人は、嘘を言っているわけではない。
間違ったことを言っているとも限らない。
ただ、その人は、あなたが今どこの段階にいるかまでは知らない。
そこが怖いところです。
ある人には、
「もっとブレーキを残した方がいい」
が有効でも、別の人には、
「まず曲がる前にしっかり減速しよう」
が必要な場合があります。
ある人には、
「もっと開けていこう」
が正解でも、別の人には、
「今はまだ開けない方がいい」
が正解になることもあります。
ある人には、
「リアを流して向きを変える」
が技術でも、別の人にはただの転倒原因になるかもしれません。
情報は正しくても、自分の段階に合っていなければ危ない。
ここは、とても大事だと思います。
発信している側として、一番難しいこと
私もいろいろなことを発信する中で、一番難しいと感じるのは、それを聞いている人がどんなキャリアの人なのか分からないことです。
人によっては、まだ、
「右と左、どっちがクラッチだったっけ」
という段階の方もいるかもしれません。
一方で、かなりのペースでサーキットを走っている方もいるかもしれません。
同じ投稿を、まったく違う段階の人が見ているわけです。
安全運転で注意することなどは、初心者にもベテランにも共通する部分があります。
無理をしないこと。
周りを見ること。
早めに危険を予測すること。
疲れている時は休むこと。
こういう話は、経験の差があっても多くの人に関係します。
でも、走る技術の話になると一気に難しくなります。
ブレーキの使い方。
アクセルの開け方。
クラッチ操作。
荷重のかけ方。
体の使い方。
これらは、その人が今どの段階にいるかによって、必要な答えが変わります。
だから、発信する側も本当に難しい。
嘘を言っているつもりはありません。
間違ったことを言っているつもりもありません。
でも、それを受け取る人が今どこの段階にいるかまでは分からない。
これは、私が発信していることも含めてです。
すべての情報には前提がある
SNSやYouTubeの情報が悪いわけではありません。
むしろ、情報を得られることは良いことです。
上手い人の走りを見られる。
プロの考え方を聞ける。
整備や安全運転の知識を学べる。
これは昔にはなかった大きなメリットです。
ただし、すべての情報には前提があります。
どんな人に向けた話なのか。
どんな速度域の話なのか。
公道なのか、サーキットなのか、オフロードなのか。
初心者向けなのか、ある程度乗れる人向けなのか。
安全に走るための話なのか、速く走るための話なのか。
そこが分からないまま情報だけを拾い集めると、本来は役に立つはずのアドバイスが、逆に危ないものになることがあります。
バイクの乗り方には段階があります。
今の自分に必要なことと、上級者が今やっていることは、必ずしも同じではありません。
ここを間違えると、情報が多いことが、逆に迷いにつながってしまいます。
一番良いのは、実際に走りを通して見てもらうこと
では、どうすればいいのでしょうか。
一番良いのは、実際に走りを通して見てもらうことだと思います。
一部分だけではなく、走り全体を見てもらう。
そのうえで、教える人に自分のレベルを知ってもらう。
これがとても大事です。
どこを見ているのか。
どこで怖がっているのか。
ブレーキが強すぎるのか、弱すぎるのか。
アクセルが早すぎるのか、遅すぎるのか。
体が遅れているのか。
バイクにしがみついているのか。
そもそも速度域が高すぎるのか。
こういうことは、実際に走り全体を見ないと分かりません。
教える側がその人のレベルを知らないまま言うアドバイスは、どうしても一般論になります。
一般論は役に立つこともあります。
でも、その人にとって今必要なことかどうかは、また別の問題です。
情報を集めることも大事です。
人の話を聞くことも大事です。
YouTubeやSNSで学ぶことも、決して悪いことではありません。
ただ、その情報が今の自分に合っているかどうか。
そこを考えることが、何より大事なのだと思います。
「誰が正しいか」より「今の自分に合っているか」
バイクの乗り方を教わると、人によって言うことが違うことがあります。
でも、それは必ずしも誰かが間違っているからではありません。
相手の経験が違う。
走っている場所が違う。
目的が違う。
そして何より、教わる側の段階が違う。
だから、言うことが変わるのです。
大事なのは、誰の言うことが正しいかだけではありません。
そのアドバイスが、今の自分の段階に合っているかどうか。
そこを考えずに真似することが、一番危ないのだと思います。
バイクは楽しい乗り物です。
でも、段階を飛ばすと危ない乗り物でもあります。
だからこそ、焦らず、自分の今の段階を知ること。
できれば、信頼できる人に実際の走りを見てもらうこと。
そして、今の自分に必要なことを一つずつ積み重ねていくこと。
それが、バイクを長く、楽しく、そして安全に楽しむために、とても大切なことだと思います。