
「バイクで居眠りなんてするの?」
そう思う方もいるかもしれません。
車は座っているだけだから眠くなる。
でもバイクは風を受けるし、体も使うし、緊張感もある。
だから眠くならないだろう。
そういうイメージは、けっこうあると思います。
でも、実際にはバイクでも眠くなります。
しかもバイクの場合、怖いのは完全に寝てしまうことだけではありません。
「一瞬、意識が飛んだ」
「気づいたら少しラインがずれていた」
「さっきの数秒間、記憶がない」
「前の車との距離が思ったより詰まっていた」
こういう形で出ることがあります。
こうした、一瞬だけ意識が抜けるような状態を「マイクロスリープ」と呼ぶこともあります。
難しい言葉ですが、要するに「ほんの一瞬、寝てしまう」「意識が飛ぶ」ということです。
これは決して他人事ではありません。
私自身も、ツーリング中に強い眠気を感じたことがあります。
特に多いのは、お昼ご飯を食べた後くらいです。
朝から走って、少し疲れが出てくる。
昼食を取って、体が少し落ち着く。
午後の道を、前の人について淡々と走る。
そういう時に、どうしても眠くなることがあります。
そして怖いのは、
「眠いな」
と思っているだけではなく、一瞬、意識が飛びそうになることです。
完全に寝ているわけではない。
でも、ほんの一瞬だけ前を見ていないような感覚になる。
気づいた時に、
「今のは危なかった」
と思う。
長くバイクに乗っている方なら、似たような経験をしたことがある人もいるのではないでしょうか。
私は、これを「気合いが足りない」とか「集中力がない」で片づけてはいけないと思っています。
バイクでも眠くなる。
そして一瞬意識が飛ぶことがある。
まずはそれを認めることが、事故を防ぐ第一歩だと思います。
バイクの居眠りが怖い理由
四輪車の場合、一瞬ぼんやりしても、車は4つのタイヤで自立しています。
もちろん四輪でも居眠り運転は大変危険です。
ただ、バイクは違います。
バイクは、ライダーが無意識にバランスを取り続けている乗り物です。
まっすぐ走っているように見えても、実際には視線、体の傾き、手足の入力、体幹のバランスで進路を保っています。
そのため、一瞬でも意識が抜けると、
体が崩れた方向へ行く。
視線が落ちた方向へ行く。
ハンドルに力が入った方向へ行く。
バランスが崩れた方向へ曲がってしまう。
そういうことが起きます。
中央線側へ寄れば、対向車やワイヤーロープ。
路肩側へ寄れば、ガードレールや縁石。
前方へそのまま進めば、前走車への追突。
バイクでは、ほんの一瞬の意識低下が、そのまま重大事故につながる可能性があります。
原因がはっきりしない単独事故の中にも
バイクの事故の中には、特にきついカーブでもない。
路面が大きく荒れていたわけでもない。
相手がいる事故でもない。
それなのに、なぜそこでそうなったのか分かりにくい事故があります。
直線に近い道路で、センターライン側へ寄ってしまう。
路肩側へ寄ってしまう。
中央分離帯やワイヤーロープ、ガードレール、縁石などに衝突してしまう。
報道だけを見ると、
「何が原因だったのだろう」
と思うようなケースです。
もちろん、個別の事故について、外から居眠りだったと断定することはできません。
体調の急変かもしれない。
よそ見かもしれない。
風や路面の影響かもしれない。
車体トラブルかもしれない。
何かを避けようとしたのかもしれない。
ただ、私が思うに、そうした原因がはっきりしにくい事故の中には、
居眠りや、一瞬だけ意識が飛ぶ状態が関係しているものもあるのではないか
と感じています。
バイクで完全に眠り込むというより、怖いのはほんの一瞬です。
一瞬、意識が抜ける。
一瞬、前を見ていない。
一瞬、体のバランスが崩れる。
そのわずかな時間に、バイクは中央線側や路肩側へ寄っていく。
本人が生きていれば、
「一瞬、記憶がなかった」
「気づいたら寄っていた」
と話せるかもしれません。
でも死亡事故になってしまえば、その一瞬に何が起きたのかは、誰にも分からないままです。
だからこそ、居眠りや一瞬の意識低下は、もっと真剣に考えるべきだと思います。
居眠り事故は「件数」より「重大性」が怖い
交通事故統計の分析では、居眠り運転による事故は、件数だけを見るとそれほど多く見えないことがあります。
しかし問題は、事故になった時の重さです。
日本自動車研究所の分析では、人的要因による交通事故のうち、居眠り運転は0.4%でした。
ところが死亡事故に限ると、居眠り運転は3.9%を占めています。
さらに、居眠り運転事故では死亡事故になる割合が6.9%、重傷事故になる割合が20.3%。
居眠り以外の事故では、死亡事故0.7%、重傷事故7.1%とされています。
つまり、居眠り運転は件数としては少なく見えても、いったん事故になると死亡・重傷につながりやすい。
これは、考えてみれば当然かもしれません。
眠っている、あるいは一瞬意識が飛んでいる時には、危険を見ていません。
ブレーキも遅れる。
回避操作も遅れる。
場合によっては、何もできないまま衝突してしまいます。
これがバイクなら、なおさら深刻です。
ツーリング中こそ眠気は来る
「眠気」と聞くと、仕事で疲れた帰り道や、夜中の運転を想像するかもしれません。
でも、ツーリング中にも眠気は来ます。
朝早く出発する。
昼食を食べる。
午後から気温が上がる。
帰り道で疲れが出る。
高速道路やバイパスで景色が単調になる。
集団ツーリングで前の人について走るだけになる。
こういう条件が重なると、バイクでも普通に眠くなります。
特に怖いのは、眠いと強く自覚していない状態です。
「少し疲れたな」
「ぼーっとするな」
「でもあと少しだから大丈夫」
「次の休憩場所まで行こう」
このあたりが危ない。
バイクで眠気が出た時は、疲労のサインというより、事故の直前警告くらいに考えた方がいいと思います。
「眠くなったら休む」では少し遅い
もちろん、眠くなったら休む。
これは大切です。
でもバイクの場合、本当はそれだけでは不十分です。
眠くなった時には、すでに集中力はかなり落ちています。
判断力も落ちています。
そして、そこから「次の道の駅まで」「次のコンビニまで」と走り続けるのが危ない。
だからツーリングでは、
眠くなったら休む
ではなく、
眠くなる前に休む
この意識が大事だと思います。
特にバイクの場合、2時間に1回の休憩では遅いこともあります。
私は、ツーリングでは1時間に1回くらいは止まる前提で考えた方が安全だと思います。
ヘルメットを脱ぐ。
水分を取る。
少し歩く。
首や背中を動かす。
スマホばかり見ず、目を休める。
これだけでもかなり違います。
でもバイクには「寝る場所」がない
眠い時には、少し寝るのが一番です。
10分でも15分でも、ちゃんと目を閉じると、かなりスッキリします。
視界がはっきりする。
判断が戻る。
体の力も抜ける。
「あ、さっきまで結構危なかったんだな」と気づくこともあります。
ただ、バイクには大きな問題があります。
四輪なら、駐車場に入ってシートを倒せば、車内で少し寝ることができます。
でもバイクには、車内がありません。
眠くなった時に、横になれる場所があるとは限りません。
道の駅に行っても、ベンチが空いているとは限らない。
コンビニで長く休むのも難しい。
公園があっても、地面に座るのはなかなか大変。
ライディングブーツやプロテクターを着けたままでは、地面に座るだけでも疲れます。
つまりバイクは、眠くなった時の逃げ場が少ない乗り物です。
ここが、四輪との大きな違いだと思います。
折りたたみ椅子は、安全装備かもしれない
先日、ツーリング中と思われる方が、木陰で折りたたみ椅子に座って休んでいるのを見ました。
ご自身で持ってきた椅子だと思います。
それを見て、正直に「これはいいな」と思いました。
バイク用の装備というと、ヘルメット、グローブ、プロテクター、レインウェア、インカム、バッグなどを思い浮かべます。
でも、これからは
安全に休むための装備
も大事なのではないかと思います。
ただし、椅子なら何でもいいわけではありません。
小さな三脚イスのようなものでも、少し腰掛けることはできます。
でも眠気対策として考えるなら、できれば背中を預けられるサイズの折りたたみ椅子がいいと思います。
眠い時に必要なのは、ただ座ることではありません。
体の緊張を抜くことです。
背もたれのない小さなイスでは、結局、体を起こしてバランスを取る必要があります。
それでは、本当の意味では休まりにくい。
ヘルメットを脱いで、ジャケットの前を開けて、木陰で背中を預ける。
10分だけ目を閉じる。
それだけでも、眠気をごまかして走り続けるより、ずっと安全です。
折りたたみ椅子は、快適装備というより、ある意味では安全装備かもしれません。
休憩もツーリング計画の一部
ツーリングでは、目的地、昼食場所、給油場所、景色の良い道などを考えます。
でも本当は、
どこで休めるか
どこで10分目を閉じられるか
ここまで考えておいた方がいいと思います。
道の駅。
サービスエリア。
日帰り温泉。
木陰のある公園。
展望所。
広めの休憩所。
眠くなってから探すのではなく、眠くなる前に休める場所をルートに入れておく。
特に集団ツーリングでは、誰かが「眠い」と言い出しにくいこともあります。
みんなに迷惑をかける。
予定が遅れる。
もう少しだから我慢しよう。
そう思ってしまう。
でも、事故を起こすより、予定が遅れる方がずっといいです。
ツーリング前に、
「眠くなったら遠慮なく止まろう」
「誰かが眠いと言ったら、全員で休もう」
これくらい決めておいてもいいと思います。
バイクだから眠くならない、は危ない思い込み
バイクは眠くならない。
風を受けているから大丈夫。
体を使っているから大丈夫。
緊張感があるから大丈夫。
これは危ない思い込みだと思います。
バイクでも眠くなります。
そしてバイクでは、一瞬の眠気が、そのまま進路のズレ、転倒、衝突につながることがあります。
眠くなったら気合いで走る。
あと少しだから走る。
次の休憩場所まで我慢する。
それが一番危ない。
眠くなる前に休む。
眠くなったら予定を変えてでも止まる。
必要なら、10分でも目を閉じる。
そのための道具を持っていく。
これも、バイクを安全に楽しむための大事な準備だと思います。
バイクは楽しい乗り物です。
でも、体も頭も疲れている時には、一瞬で危険な乗り物にもなります。
だからこそ、速く走る技術だけでなく、
上手に休む技術
も大切にしたいですね。
皆さんは、ツーリング中に眠くなった経験はありませんか?
特に、昼食後の午後。
高速道路やバイパス。
前の人について淡々と走っている時。
「今、一瞬意識が飛びそうだった」
という経験をしたことがある方もいるのではないでしょうか。
もしよければ、
「自分もある」
「こういう場面で眠くなる」
「自分はこうやって対策している」
「折りたたみ椅子を積んでいる」
「道の駅ではこう休んでいる」
そんな話をコメントで教えてください。
これは恥ずかしい話ではなく、ライダー同士で共有した方がいい安全情報だと思います。
参考情報
日本自動車研究所の交通事故統計分析では、居眠り運転事故は件数割合としては少ない一方で、死亡・重傷事故になりやすい傾向が示されています。
また、居眠り運転は職業運転者だけでなく、私用・レジャー中にも起きているとされています。