安全運転バイクは「見る」より「気づく」が大事

周辺視野で変化を拾う安全運転の話

バイクに乗る時、視野をどう使うか

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これまでブログでも、バイクに乗る上で視野の確保は大事だということを書いてきました。

前だけをじっと見るのではなく、ミラー、前方、左右、交差点、歩道、路面、対向車など、視野を巡回させること。
そして、ただ見るだけではなく、どこを見るのか何に気づくのかが安全運転では大事だと考えてきました。

そんな中、ある方からのコメントで、
「人間の視野は、中心よりもむしろ周辺の方が変化に気づきやすい」
ということを教えていただきました。

最初に聞いた時は、少し不思議な感じもしました。
普通に考えると、人間は見たいものを目の中心で見ています。
文字を読む時も、信号を見る時も、路面の異物を確認する時も、中心で見ます。

だから、目の中心の方が「見る力」が強いのではないかと思ってしまいます。

でも少し調べてみると、これは半分正しくて、半分は少し違うようです。

中心視野と周辺視野は、得意なことが違う

人間の目には、網膜という光を受け取る部分があります。
その網膜には、大きく分けて錐体細胞杆体細胞という、光を感じる細胞があります。

錐体細胞は、色や細かい形を見分けるのが得意です。
文字を読む、信号の色を判断する、傷や小さなものを確認する。
こういう時に力を発揮します。

この錐体細胞は、視野の中心、いわゆる中心視野に多く集まっています。
だから人間は、細かく正確に見たいものを視野の中心に持ってきます。

一方で、杆体細胞は色や細かい形を見分けるのは苦手ですが、暗さや明るさの変化、動きに敏感です。
この杆体細胞は、中心よりも周辺部に多く分布しています。

つまり、
中心視野は、細かく確認するのが得意。
周辺視野は、動きや変化に気づくのが得意。

ということです。

言い換えると、

中心視野は「確認する目」
周辺視野は「気づく目」

と言ってもいいかもしれません。

バイクで大事なのは「気づく目」

これは、バイクの安全運転を考える上でとても大事な話だと思います。

バイクを運転している時に大事なのは、この「気づく目」をちゃんと使える状態にしておくことです。

たとえば、

あれ、あんなところに車が止まっている。
自転車が車道側に寄って走っている。
あの建物の陰から車が出てくるかもしれない。
対向右折車の前輪が少し動いた。
歩行者信号が点滅しそうだ。
前の車の流れが少し詰まり始めた。

こういうものは、最初から一点集中で見つけるというより、広く見ている中で「違和感」として引っかかることが多いと思います。

そして、その違和感に気づいたら、そこを中心視野で確認する。
危なそうなら、速度を落とす。
ブレーキの準備をする。
ラインを少し変える。
逃げ道を考える。

この流れが、安全運転ではとても大事になります。

実際に走っている時の視線の動き

では実際にバイクで走っている時、どういう視線の使い方になるのか。

イメージとしては、まず視線を少し遠くに置きます。
目の前の白線や前の車のテールランプだけを見るのではなく、道路の先、交差点の先、曲がっていく方向に視線の本拠地を置く感じです。

そうすると、視野の中にいろいろなものが入ってきます。

たとえば市街地を走っている時。

少し先の左側に車が止まっている。
「あれ、なんであんなところに車が止まっているんだろう」と感じる。

その時点では、じっと凝視するというより、まず周辺視野の中で違和感として拾っています。
そして気になったら、中心視野で一度確認します。

ハザードは出ているのか。
運転席に人は乗っているのか。
ドアが開きそうなのか。
その車の陰から歩行者や自転車が出てきそうなのか。

確認したら、また視線を少し先へ戻します。
そのうえで、その停車車両を周辺視野の中に残しておく。

つまり、ずっとその車を見続けるのではなく、
一度確認して、危険候補として持ちながら、視線はまた先へ戻す
という感じです。

自転車でも同じです。

前方の歩道や路肩に自転車が走っている。
最初は周辺視野で「自転車がいるな」と気づく。
そこから中心視野で少し確認する。

ふらついていないか。
車道側に寄ってきていないか。
後ろを振り返っていないか。
横断しそうな動きはないか。

危なそうなら、少し速度を落とす。
横を通る時の間隔を多めに取る。
ブレーキの準備をしておく。

ただし、ここでも自転車だけを見続けると、その前方の信号や対向車、後続車、路面の変化が見えにくくなります。
だから確認したら、また視線を先へ戻します。

脇道や建物の陰も同じです。

住宅地や商店街を走っていると、見通しの悪い脇道があります。
そこを中心視野でじっと見るというより、広く見ている中で、
「あの陰から車が出てくるかもな」
と早めに気づく。

すると、まだ車が出てきていなくても、こちらの準備が変わります。
アクセルを少し戻す。
ブレーキに指を添える。
車線の中で少し余裕のある位置を選ぶ。
もし出てきた時に逃げる方向を考えておく。

この「まだ起きていないけれど、起きるかもしれない」に気づけることが、周辺視野を使った安全運転の大事なところだと思います。

交差点でも同じです。

対向右折車がいる。
最初からその車だけを凝視するのではなく、視線は交差点の先に置きながら、周辺視野の中に対向車を入れておく。

そして、前輪が少し動いた。
車体の向きが変わった。
ドライバーの顔の向きがこちらを見ていない。
歩行者信号が点滅し始めた。

そういう変化を拾ったら、中心視野で確認して、すぐにブレーキ準備や減速につなげる。

この時の流れは、

遠くを見る
周辺視野で違和感を拾う
気になったものを中心視野で確認する
確認したらまた視線を先へ戻す
危険候補として周辺視野に残しておく

という感じです。

大事なのは、危ないものを見つけた時に、そこへ目が釘付けにならないことです。

「あの車、出てくるかも」
「あの自転車、ふらつくかも」
「あの陰、危ないかも」

そう思った瞬間に、そこだけを見続けると、今度は他のものが見えなくなります。

安全運転で必要なのは、
一点を見続けることではなく、危険候補を持ちながら、視線を流し続けること
なのだと思います。

つまり、バイクでの視線は、

周辺視野で気づく
中心視野で確認する
操作に変える
また広く見る

この繰り返しです。

これができている時は、危険が突然現れたようには感じにくくなります。
逆に、これができていない時は、車も自転車も歩行者も、いきなり目の前に出てきたように感じてしまいます。

実際には突然出てきたのではなく、もっと前から「出てくるかもしれない気配」はあったのかもしれません。
その気配に気づける余裕を残して走ることが、バイクではとても大事だと思います。

一点だけを見ると、周りの変化が消える

逆に危ないのは、近くの一点だけを見続けてしまうことです。

前の車のテールランプだけを見る。
白線だけを見る。
路面の穴だけを見る。
対向車だけを見る。
コーナーのガードレールだけを見る。

これをやると、その対象は見えているのですが、周りの変化が消えてしまいます。

見えているつもりなのに、実は見えていない。
これはバイクではかなり怖い状態です。

スピードが上がると、見る余裕が減る

ここでさらに問題になるのが、スピードと緊張です。

スピードが上がると、当然ですが、処理しなければいけない情報量が増えます。
景色は速く流れます。
判断に使える時間は短くなります。
止まるまでの距離も長くなります。

本当はスピードが上がるほど、もっと遠くを見て、もっと早く変化に気づかなければいけません。

ところが、速度に対して気持ちの余裕がなくなると、逆に近くを見てしまいます。
危ないと思ったものを凝視してしまいます。
周辺視野が効かなくなります。

すると、横から出てくる車、自転車、歩行者、路面の変化に気づくのが遅れます。

緊張すると視野は狭くなる

緊張や怖さが強くなると、人間は視野が狭くなりやすくなります。
いわゆるトンネルビジョンに近い状態です。

つまり、

スピードを出す
緊張する
視野が狭くなる
周辺視野が効かなくなる
変化に気づきにくくなる
危険が突然現れたように感じる

という悪循環が起きます。

バイクで怖いのは、スピードを出すと止まれないからだけではありません。
スピードを出すと、見えなくなることがある。
これも大きな怖さだと思います。

その人にとって「速すぎる速度」とは

同じ60km/hでも、余裕のある人には周りが見えています。
でも、慣れていない人、怖いと思っている人、考えることが多すぎる人には、同じ速度でも情報量が多すぎて視野が狭くなります。

だから私は、こう考えてもいいと思っています。

周辺視野が効かなくなる速度は、その人にとって速すぎる速度。

速く走れる人というのは、ただアクセルを開けられる人ではありません。
速くなっても、視野が狭くならない人。
遠くを見て、周りの変化を拾い、余裕を残して判断できる人です。

武道やスポーツ、そしてモトクロスにも通じる「全体を観る」感覚

これは武道やスポーツにも通じる話です。

武道では昔から、相手の一点だけを見るのではなく、全体を観るという考え方があります。
たとえば相手の拳だけを凝視すると、蹴り、肩の動き、腰の入り方、重心移動に気づきにくくなります。

剣道でも、相手の竹刀の先だけを見ると、そこには反応できます。
しかし本当に大事なのは、相手の間合い、足さばき、肩の入り方、打ちに来る前の気配です。
一点を見すぎると、かえって全体の変化を拾いにくくなります。

球技でも同じです。
サッカーやバスケットボールでボールだけを見ていると、味方の動き、相手の寄せ、空いているスペースが見えません。
上手い選手は、中心視野でボールや相手を確認しながら、周辺視野で全体の動きや変化を拾っているのだと思います。

そしてこれは、モトクロスでもまったく同じです。

レースのスタートでは、横一線から30台以上のバイクが、一気に狭い第一コーナーへ流れ込んでいきます。
その中では当然、転倒するバイクも出ます。
接触もあります。
前に出るためには、一瞬だけ空いたラインにバイクをねじ込まなければならない場面もあります。

その時に、目の前の一台だけを見ていたら間に合いません。

イン側から入ってくるバイク。
アウト側から被せてくるバイク。
前で失速するバイク。
転倒しそうなバイク。
一瞬だけ空くライン。
土埃の中で動く車体の気配。

そういうものを、全部一点ずつ確認していたら、とても間に合いません。

視線は進みたい方向や空きそうなラインに置きながら、周辺視野で周りのバイクの動き、転倒の気配、ぶつけに来る気配を拾っている。
そして「ここだ」と思った瞬間に、中心視野でラインを確認して、そこへバイクを入れる。

この感覚がなければ、モトクロスのスタート直後の混戦は走れないと思います。

つまりモトクロスでも、

一点だけを見るのではなく、全体の流れを観る。
周辺視野で変化を拾い、中心視野でラインを確認する。
そして、瞬間的に操作へ変える。

これがとても大事になります。

これは公道の安全運転ともつながります。

もちろん公道で、レースのようにバイクをねじ込む必要はありません。
むしろそんなことをしてはいけません。

でも、周りの車や自転車、歩行者、路面、脇道の気配を広く拾い、必要なものだけを中心視野で確認して、早めに準備するという意味では同じです。

バイクも武道もスポーツも、上手い人ほど、
一点だけを凝視するのではなく、全体の中から変化を拾っている
のだと思います。

視線の本拠地は、少し遠くに置く。
その中で、周辺視野で違和感や変化を拾う。
気になったものを中心視野で確認する。
そして、操作に変える。

これは、武道やスポーツで言う「全体を観る」という感覚にかなり近いのではないかと思います。

遠くを見る、広く見る、必要な時だけ確認する

もちろん、遠くを見るだけで安全になるわけではありません。
近くの路面を見る必要がある時もあります。
信号や標識をしっかり確認する必要もあります。
ミラーや後方確認も必要です。

ただ、常に近くの一点を見続けるのではなく、
遠くを見る、広く見る、必要な時だけ確認する
という視野の使い方が大事です。

走っていて、

前の車しか見えていない。
白線ばかり見ている。
対向車が怖くて凝視している。
コーナーの出口ではなく、目の前の路面ばかり見ている。
脇道や歩行者に急に驚くことが増えた。

こういう時は、運転技術以前に、視野の余裕がなくなっているサインかもしれません。

その時は無理に頑張るより、少し速度を落とす。
息を吐く。
肩の力を抜く。
視線を少し先へ戻す。
危ないものではなく、行きたい方向を見る。

安全運転とは、変化に気づける余裕を残すこと

バイクの安全運転というと、ブレーキ操作や車体の扱い方に目が行きがちです。
もちろんそれも大事です。

でも、その前に、
何に気づけるか
どれだけ早く変化を拾えるか
怖い時でも視野を狭くしないでいられるか

ここがとても大事だと思います。

スピードを出すほど危ないのは、止まれないからだけではありません。
見えなくなるから危ない。

だからこそ、バイクに乗る時は、少し遠くに視線を置いて、周辺視野で変化を拾う。
そして気づいたものを中心視野で確認し、早めに準備する。

安全運転とは、ただゆっくり走ることだけではなく、
周りの変化に気づける余裕を残して走ること
なのだと思います。