ツーリングマスツーリングで一番危ないのは、誰も全体を見ていないことです

ツーリングの幹事、先導は、正直あまり好きではありません。


絶対にイヤ!ということもないですが、先導、幹事はあんまり好きではありません。

行き先を決めるだけでも大変ですし、昼食場所、休憩場所、給油、天気まで考えないといけない。
でも本当に大変なのはそこから先です。

7台、8台、10台と台数が増えてくると、マスツーリングはただ集まって走れば成立するほど簡単ではありません。
先頭の小さな加減速が後ろで増幅されるアコーディオン現象。前車についていこうとして判断が雑になる心理。さらに今はSNSで、顔は知っていても本名は知らないまま集まることすらあります。
マスツーリングで本当に危ないのは、台数が多いことそのものではなく、誰も全体を見ていないことなのだと思います。

もちろん、みんなで走るのは楽しいです。
「今度ツーリングがあったら誘ってくださいね」と言ってもらえるのもうれしい。
でも、いざ予定を決めて声をかけると、「その日は用事があってごめんね」となることもあります。おお、そうなのか残念……。

それ自体は全然悪いことではありません。
予定があるのは当たり前ですし、こちらもそこに不満があるわけではありません。幹事としてでなく、参加者として参加するのは大好きですよ。ツーリングは楽しいです。

ただ、幹事をする側としては、その一言の前に、すでにいろいろ考えているのです。

どこへ行くか。
どのルートなら走りやすいか。
休憩はどこで取るか。
給油は大丈夫か。
初心者がいても無理のない道か。
昼食はどうするか。
天気が怪しかったらどうするか。

特に7台、8台、10台、それ以上と人数が増えてくると、昼食ひとつでも簡単ではありません。
大人数で入りやすく、駐車場もあり、待ち時間も極端に長くならず、しかもルート上にちょうどいい。そんな食堂は案外多くありません。

しかも天気もある。
平地は晴れでも山は怪しいことがあるし、春先や秋は気温差も大きい。
前日まで予報を見ながら、場合によっては中止にするのか、短縮するのか、ルートを変えるのかまで考えないといけません。

こういう話をすると、「幹事は大変ですね」で終わりそうですが、本当に大事なのはそこから先です。

マスツーリングは、人数が増えるほど、一人で走る時には出にくい危険が出てきます。
だから幹事や先導は、ただ行き先を決める人ではなく、集団全体が安全に動けるように条件を整える役にならざるを得ないのです。

なぜ、マスツーリングでは気を使わないといけないのか

マスツーリングは、ただバイクが何台か連なって走っているだけのように見えます。
でも実際には、一人で走るのとはまったく違う理屈が働きます。

一番わかりやすいのは、先頭と後方では負担が違うということです。

先頭は、自分で前を見て、自分の判断で加減速できます。
ところが後ろの人は、道路状況だけでなく、前のバイクの動きにも反応しながら走らなければいけません。
しかも台数が増えると、先頭のわずかなペース変化が、後ろへ行くほど大きくなりやすい。

先頭がほんの少しアクセルを戻す。
その後ろは少し強めに戻す。
さらにその後ろは、もっと大きく減速する。
すると今度は開いた車間を埋めるために、後ろほど余計に加速しないといけなくなる。

さっきも少し触れた、いわゆるアコーディオン現象です。
まるでアコーディオンの蛇腹のように、隊列が伸びたり縮んだりしながら、その変化が後方で増幅していく。

つまり、先頭は普通に走っているつもりでも、後ろでは
「減速がきつい」
「立ち上がりで開けないと追いつけない」
「なんだかずっと忙しい」
ということが起きやすい。

だから、マスツーリングではよく
先頭より後ろのほうがしんどい
ということが起こります。

これは単なる気のせいではありません。
集団で走る以上、構造的にそうなりやすいのです。

人は、集団になると判断が流されやすくなる

さらに厄介なのは、人間の心理です。

一人で走っている時は、自分の速度、自分のブレーキ、自分のラインを自分で決めます。
ところが集団になると、多くの人が無意識に**「前についていくこと」**を優先し始めます。

すると、信号を見るより前車を見てしまう。
交差点の状況より、隊列から離れないことを優先してしまう。
本当は少し怖いペースでも、「ここで遅れると迷惑かな」と無理をしてしまう。

こういうことが起きやすくなります。

特に危ないのは、

先頭が行ったから自分も行けると思う。
黄色信号で先頭が抜けたので続こうとする。
車線変更や追い越しを連鎖でやる。
コーナーで遅れを取り戻そうとする。

こうした場面です。

本来、公道では一台一台が独立して判断しなければいけません。
でもマスツーリングでは、その判断が“前車追従”に置き換わりやすい。
それが集団走行の怖さです。

今はSNS時代だから、別の危うさもある

今はさらに、昔とは違う難しさがあります。

SNS経由で人が集まることも珍しくなく、
顔は知っているけど本名は知らない。
アカウント名しか知らない。
誰の知り合いかは分かるけど連絡先は知らない。
そんな集まり方も普通にあります。

これが少人数ならまだしも、7台から10台くらいになると、いざ何かあった時にかなり厄介です。

事故が起きた。
転倒した。
体調不良が出た。
その時に、この人の本名が分からない。
緊急連絡先が分からない。
誰がどのバイクに乗っていたのか曖昧。
一緒に来たはずなのに、誰が未到着なのか把握しづらい。

そんなことが本当に起こりえます。

つまりマスツーリングの危うさは、走行中の乱れだけではありません。
事故が起きた後の対応まで複雑になるのです。

先導は、ただ前を走ればいいわけではない

さらに現場では、理屈だけでは済まない難しさがあります。

たとえば、追い越し禁止の場所で遅い車が前を走っている時、抜くに抜けないのは仕方のないことです。
ですが後ろに何台も仲間がいると、先導としてはその空気を感じます。後ろはイライラするかもしれない。けれど、だからといって無理はできません。
後ろからのプレッシャーに耐えながら先導するのは、実際なかなか根性がいることです。

では、追い越し可能な場所ならどうか。
これも単純ではありません。たしかに先頭から数台は安全に抜けるかもしれません。ですが、集団で追い越しを始めると、後ろの方では状況が変わります。対向車との距離、追い越し区間の長さ、前車との間合い、判断の遅れ。そうしたものが重なって、後方になるほど危ないことが起きやすくなります。
つまり、先頭が行けたからといって、全員が同じように行けるわけではないのです。

しかもここには、先ほどのアコーディオン現象が重なります。
先導が「軽く抜いた」つもりでも、その動きは集団の中でそのまま伝わりません。前の数台はまだ余裕があるかもしれませんが、後ろへ行くほど反応が一拍遅れ、車間が開き、その開いた分を埋めるためにさらに強い加速が必要になります。
すると先頭では“少し開けた”だけのつもりでも、後続では本当の全開に近い加速でないと間に合わないということが起こりがちです。

そこに、経験値の少ない人や、遠慮がちについてきている初心者がいたらどうなるでしょうか。
その人は、遅れたくない、迷惑をかけたくない、でも怖い、という状態に置かれます。
すると、無理に追いつこうとして普段以上にアクセルを開けてしまうか、逆に怖くて動けず判断が遅れるか、そのどちらにしても危険です。

初心者にとって本当に危ないのは、単に技術が足りないことではありません。
無理をしがちな心理状態に追い込まれることです。

だから先導は、自分が行けるかどうかで判断してはいけません。
最後尾まで、しかもその中にいる一番経験の浅い人が無理なく処理できるかどうかで判断しないといけないのです。

だから先導は、どうしても余裕を持たないといけない。
結果として、ペースは一人で走る時より遅くなります。これは下手だからでも、鈍いからでもなく、集団全体を危なくしないために必要な減速です。

もちろん、集団ではいちばん遅い人に合わせるのが基本です。
しかし一方で、そのペースを遅いと感じてイライラする人が出てくることもあります。ここがまた難しいところです。

先導は、そういう空気も感じ取りながら、それでもなおペースを抑えるべきところでは抑えないといけない。
逆に、見通しがよく、危険が少なく、集団もばらけにくい場面では、少し気持ちよく流せるようにしてあげる。
ただ遅く走るのでもなく、ただ飛ばすのでもなく、集団全体の安全と満足度の間を取る判断が必要なのです。

つまり先導に必要なのは、道を知っていることだけではありません。
後ろの心理、隊列の伸び縮み、追い越しの連鎖リスク、遅い人の不安、速い人の苛立ち。そういうものを全部頭に入れながら、全体の流れを作ることです。
だから先導は、ただ先を走る役ではなく、集団の温度と危険を同時にコントロールする役なのだと思います。

実際に、マスツーリング中の事故は多いのか

実際のところ、「マスツーリング中の事故」だけを切り分けた公的な全国統計は、確認できる範囲では見当たりません。警察庁の二輪車安全利用ページは二輪車事故全体を、死者数や重傷者数、年齢別、事故類型別などで整理しています。また警察庁は二輪車利用者に対し、こまめな休憩、速度の抑制、十分な車間距離、無理な運転をしないことを呼びかけています。さらにITARDAの研究発表では、二輪車は四輪車に比べて、死者割合が約3倍、死者・重傷者割合が約5倍と、事故が重大化しやすい傾向が示されています。つまり「マスツーリング事故は全国で何件」とまでは言えなくても、もともと二輪車は事故が重くなりやすく、そこへ集団特有のアコーディオン現象や前車追従の心理が重なれば、一人で走る時より気を使うべき要素が増える、とは十分言えるのです。

だから、幹事や先導がしっかりしていないと危ない

ここまで見てくると、マスツーリングで危ないのは、台数が多いことそのものより、誰も全体を見ていないことだとわかります。

ただ集まって、なんとなく好きに走る。
それができてしまいそうに見えるのがマスツーリングですが、実際にはそこに、

アコーディオン現象による後方の負担増。
前車追従による判断の雑さ。
集団追い越しの危うさ。
参加者把握の曖昧さ。
速い人と遅い人の温度差。

が重なってきます。

だからこそ、幹事や先導がしっかりしないといけないのです。
それは偉そうに仕切るためではありません。
放っておくと乱れやすい集団だから、誰かが全体を整えないといけないのです。

まして、SNSでなんとなく集まっただけの集団に、そんなことはできないです。
顔は知っていても本名は分からない。
誰がどの程度走れるのかも分からない。
誰が焦りやすいのか、誰が無理をするのかも分からない。
そういう状態で台数だけ集まって走れば、うまくいく時はあっても、何か起きた時には一気に危うくなります。

事故というのは、そういう小さな無理や、小さな乱れの積み重ねの先で起きることが多い。
だからマスツーリングでは、幹事や先導がしっかりしていないといけないのです。

それは偉いからでも、権限があるからでもありません。
安全のために必要だからです。

言い換えれば、幹事や先導の仕事とは、目的地を決めることではなく、
事故になりにくい流れを作ること
なのだと思います。

だから私は、ツーリングの幹事は正直あまり好きではありません。
考えることが多いからです。
気を使うことも多いからです。
でも、その気遣いにはちゃんと理由があります。

マスツーリングは、なんとなく集まって、なんとなく好きに走ると危ない。
だからこそ、幹事や先導がしっかりしないといけないのです。

では、7台から10台くらいのマスツーリングで何に注意するべきか

では実際に、7台から10台くらいのマスツーリングでは、どんな点に注意して組み立てればよいのでしょうか。
ポイントを整理すると、だいたい次のようになります。

1. 無理に全員で固まらない

台数が増えるほど、信号や交通の流れで隊列は必ず切れます。
そこで焦って追いつこうとすると、無理な加速や危険な追い越しにつながります。
大事なのは、ちぎれても慌てないことです。
そのためには、次の休憩場所や分岐、合流ポイントをあらかじめ共有しておくこと。
離れても合流できる運営にしておくことが大事です。

2. 千鳥でも車間はしっかり取る

千鳥走行をしていても、車間が詰まりすぎれば意味がありません。
台数が多いと、前の軽い減速が後ろでは強いブレーキになります。
隊列を守ることより、各自が安全に止まれる距離を守ることのほうが重要です。

3. 前の人だけを見て走らない

マスツーリングでは、つい前車ばかり見てしまいます。
でもそれをやると、信号、交差点、歩行者、対向車、右左折車などへの注意が薄くなります。
公道では、前についていくことよりも、自分で状況判断することが大事です。

4. ペースは一番不安のある人基準で考える

上手い人や慣れた人のペースに、不慣れな人が無理に合わせると事故が起きやすくなります。
マスツーリングは、速い人が気持ちよく走る場ではなく、全員が無事に帰る場です。

5. 追い越しや車線変更を連鎖でやらない

先頭が行けたからといって、後続も同じ条件とは限りません。
前が行ったから自分も行くではなく、毎回、自分で判断することが大切です。

6. 先頭は“自分の気持ちいいペース”で走らない

マスツーリングでは、先頭のわずかな加減速が後方で増幅されやすくなります。
いわゆるアコーディオン現象です。
だから先頭は、自分が気持ちよく走れるペースで走ってはいけません。
最後尾が無理なくついてこられるペースを作ることが大事です。

7. 最後尾はただ後ろを走るだけではない

最後尾には、遅れた人の様子を見る、トラブル時に対応しやすくする、隊列の乱れを把握する役割があります。
7台〜10台くらいになると、先頭だけでは全体を見切れません。

8. 休憩は早め、短め、こまめに

疲れている人ほど、「迷惑をかけたくない」と言い出しにくいものです。
だから休憩は、疲れてから取るのではなく、疲れる前に取るくらいでちょうどいいです。

9. ルート、休憩、給油、合流方法を先に共有する

これをしていないと、途中でかなりバタつきます。
「先頭についていけば大丈夫」ではなく、全員がだいたいの流れを知っている状態にしておくことが重要です。

10. 誰が参加するのか、最低限の把握をしておく

SNS経由の集まりでは、顔は知っていても本名は知らない、連絡先が曖昧、ということがあります。
でも何かあった時、それでは困ります。
参加者の把握も安全管理の一部です。

11. 初心者や不慣れな人の位置を考える

経験のある人が前後を押さえ、不慣れな人は真ん中あたりに入れたほうが安定しやすいです。
初心者が一番無理をしやすいのは、迷惑をかけたくないと思った時です。

12. マスツーリングは“見せる走り”をしない

人数が多いと、つい気が大きくなったり、上手く見せたくなったりします。
でも公道では、それがいちばん危ない。
大事なのは、隊列を乱さず、全員が無事に帰ることです。

まとめ

マスツーリングは楽しいです。
でも、楽しいからこそ軽く考えやすい面もあります。

7台から10台くらいになると、一人で走る時とは違う理屈が働きます。
後方ほど加減速の負担が増えやすい。
人は前車追従で判断が雑になりやすい。
SNS時代は、事故後の対応すら曖昧になりかねない。

だから、
なんとなく集まって、なんとなく好きに走る
では危ないのです。

幹事や先導がしっかりしないといけないのは、仕切りたいからではありません。
自由を奪いたいからでもありません。
集団は、放っておくと乱れやすく、事故につながりやすいからです。

ルートを考える。
食事場所を考える。
天気を見る。
休憩や給油を考える。
参加者を把握する。
ペースを整える。
最後尾まで含めて流れを作る。

そういう一つひとつが、マスツーリングでは全部安全につながっています。

だから私は、ツーリングの幹事は正直あまり好きではありません。
でも、誰かがそこを考えないと、楽しいはずのツーリングが危ないものになる。
だから結局、気を使うしかないのです。

マスツーリングでは、幹事や先導がしっかりしていること自体が、安全装備の一つなのだと思います。

さて、YSP大分では4/25(土)にグランメッセ熊本まで、5/31(日)にオートポリス全日本ロードへとマスツーリングを開催します。今回あげた注意点に留意しながら皆様を楽しく現地までご案内します。ぜひご参加ください!