メーカーはなぜ海外を重視するのか。数字で見ると、少し見え方が変わります

「最近のバイクは海外向けばかりだ」

「日本メーカーなのに、もっと日本市場を見てほしい」

「日本で売る台数が少なすぎる」

そう感じることがあります。

私たちは日本でバイクを販売している立場です。
ですから正直に言えば、もっと日本向けのバイクを作ってほしい。
もっと日本市場に合ったモデルを用意してほしい。
もっと日本向けの供給台数を増やしてほしい。

そう思うことは何度もあります。

お客様からも、同じような声をよく聞きます。

「海外では売っているのに、なぜ日本には入ってこないのか」
「なぜ日本メーカーなのに、日本で買えないのか」
「もっと日本人に合うサイズや価格のバイクを作れないのか」

その気持ちはよく分かります。
私も普段、同じようなことをよく言っています。

ただ、世界の二輪市場の数字を見ていくと、少し見え方が変わります。

メーカーが日本を軽視しているというより、世界の市場構造そのものが大きく変わってしまった。
そして日本市場の位置づけも、80年代とはまったく違うものになっている。

そう考えた方が、今の状況は理解しやすいのではないかと思います。

80年代の日本は、今とはまったく違う巨大市場だった

昔の日本は、今とは比べものにならないほどバイクが売れていました。

日本の二輪国内販売は、1982年に約330万台というピークを記録しています。
今の感覚では信じられない数字です。

2024年の国内二輪販売は約36.7万台ですから、ピーク時の約10分の1です。

つまり、80年代前半の日本は、単に「日本メーカーの母国」だっただけではありません。
販売台数としても、メーカーが本気で商品を作る理由が十分にある市場でした。

原付が売れた。
スクーターが売れた。
中型バイクが売れた。
レーサーレプリカも盛り上がった。
若い人も乗った。
通学や通勤にも使われた。
趣味としても生活の足としても、バイクが社会の中にありました。

だから当時は、日本向けに面白いバイクがたくさん出てきたのだと思います。

日本市場そのものに勢いがあった。
台数もあった。
若いユーザーも多かった。
メーカーが日本を見て商品を作る理由が、数字の上でも十分にあったわけです。

今の日本市場は、世界の中ではかなり小さい

ところが現在の日本市場は、世界の中で見るとかなり小さくなっています。

日本の二輪国内販売は、現在おおむね年間30万台台後半から40万台前後の規模です。
2024年は約36.7万台でした。

一方で、欧州主要5か国、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、英国の2024年二輪登録台数は約115万台です。
日本の約3倍あります。

さらにインドを見ると、2024-25年度の二輪販売は約1,960万台です。
日本の数十倍という規模です。

インドだけでこの数字です。
東南アジアやその他のアジア市場を含めると、二輪が生活インフラとして根付いている地域の大きさは、今の日本とは桁が違います。

もちろん、アジアの多くは小排気量車が中心です。
1台あたりの単価は、日本や欧州、北米の大型バイクより安いでしょう。

それでも、売れる台数が圧倒的に多い。

メーカーから見れば、そこを重視しないわけにはいきません。

ヤマハの数字を見ても、アジアの存在感は大きい

ヤマハ発動機の地域別売上を見ても、その傾向ははっきりしています。

2025年のヤマハ発動機全体の地域別売上では、日本が約1,553億円、欧州が約3,458億円、北米が約5,467億円、アジアが約1兆167億円です。

もちろんこれは二輪だけでなく、マリンやその他の事業も含めた全社売上です。
ただ、地域としての規模感はよく分かります。

アジアは日本の約6.5倍。
北米も日本の約3.5倍。
欧州も日本の約2倍以上です。

さらに二輪事業に絞って見ると、ヤマハ発動機の2025年二輪事業売上は全体で約1兆5,781億円。
そのうちアジアは約8,887億円です。

一方で、欧州、米国、日本などを含む先進国市場合計は約3,864億円です。

つまり二輪事業では、アジアだけで先進国市場合計を大きく上回っているわけです。

この数字を見ると、メーカーがアジア市場を強く意識するのは当然だと思います。

欧州と北米は、台数だけでなく単価とブランドの市場

では、欧州や北米はどうでしょうか。

欧州は、台数でも日本より大きい市場です。
さらに、スポーツバイク、アドベンチャー、ツアラー、ネイキッド、ヘリテイジなど、趣味性の高いバイクがしっかり評価される市場でもあります。

北米も、大型バイク、レジャー、ツーリング、オフロード、マリンなど、高単価な商品が動く市場です。

つまり、ざっくり分けるとこうなります。

アジアは台数が大きい。
欧州はブランド価値と趣味性の市場。
北米は高単価、レジャー、マリンも含めた大きな市場。
日本は母国ではあるが、販売規模としては小さい市場。

こう考えると、メーカーの商品企画が海外を強く意識するのは、感情論ではなく企業としてかなり現実的な判断です。

販売店としては、正直思うこともあります

とはいえ、私たちは日本だけで商売をしています。

だから正直に言えば、
「なんで日本市場だけを見たバイクを作ってくれないんだ」
「もっと日本向けを生産してほしい」
「供給台数が少なすぎる」
と思うことはあります。

普段から私も、そういうことをよく言っています。

欲しいバイクがあっても入ってこない。
お客様が待っているのに台数が少ない。
海外では発表されているのに、日本導入は未定。
日本メーカーなのに、日本で買うのが難しい。

販売の現場にいると、もどかしいことはたくさんあります。

ただ、今回のように数字で見てしまうと、やはり少し考え方が変わります。

この市場規模を見たら、そりゃそうなるよな、と思う部分もあります。

もし自分がヤマハの社長だったとしても、日本市場だけを最優先にして商品計画を組めるかと言われると、たぶん難しいと思います。

工場を動かす。
開発費を回収する。
世界中の販売店に商品を届ける。
排ガス規制や安全基準に対応する。
部品供給も維持する。
利益も出さなければならない。

その立場に立てば、やはり売れる市場、台数の出る市場、成長している市場を重視せざるを得ないでしょう。

そう考えると、日本市場に対しても、メーカーはむしろよくやってくれている方なのかもしれません。

もちろん、だから全部納得しなければならない、という話ではありません。
もっと欲しいモデルもあります。
もっと台数を入れてほしいモデルもあります。
日本の道路、日本人の体格、日本の使い方にぴったり合うバイクをもっと見たいという思いもあります。

ただ、数字を見ると、単純に「メーカーが日本を見ていない」とは言い切れない。
そこは、少し冷静に見てもいいのではないかと思います。

なぜ昔は日本向けのバイクが多かったのか

「昔は日本向けの面白いバイクが多かった」

これは、多くの方が感じていることだと思います。

250ccのレーサーレプリカ。
400ccのネイキッド。
小排気量のスポーツ。
原付スクーター。
2ストロークのモデル。
日本の免許制度や道路事情にぴったり合ったバイクがたくさんありました。

では、なぜ当時はそういうバイクが多かったのか。

答えは単純で、日本市場が大きかったからです。

1980年代前半の日本は、国内だけで年間200万台、ピーク時には300万台を超える二輪が売れていました。
日本で作ったバイクを、北米や欧州へ大量に輸出していた時代でもあります。

つまり当時の日本市場は、メーカーにとって「母国である」というだけでなく、販売台数としても十分に大きな市場でした。

日本向けの商品を本気で作る理由が、数字の上でもあったわけです。

ところが今は、日本国内販売は年間40万台を切る水準です。
一方で、アジア主要市場は数千万台規模です。

こうして見ると、昔は日本向けの面白いバイクが多かったのに、今は海外向けばかりに見える、という感覚にも理由があります。

メーカーの気持ちが変わっただけではありません。
日本市場の大きさが変わった。
世界の二輪市場の重心が変わった。
日本が主戦場だった時代から、アジアや欧州、北米を強く見なければならない時代へ変わった。

そこを抜きにして、今のバイクを語ることはできないと思います。

日本でバイクが生活インフラではなくなった理由

もう一つ大きいのは、日本の生活環境そのものが変わったことです。

80年代前半の日本では、バイクは今よりずっと生活に近い乗り物でした。

原付で通学する。
原付でアルバイトに行く。
原付で駅まで行く。
スクーターで買い物に行く。
小型バイクで通勤する。

そういう使い方が、今より自然にありました。

ところが今は、バイクが生活インフラとして必要とされる場面がかなり減っています。

一番大きいのは、四輪車の普及です。

自家用乗用車の世帯当たり普及台数は、1976年に0.5台を超えました。
つまり、2世帯に1台を超えたのがこの頃です。

その後、1996年には1.0台となり、1世帯に1台の時代に入りました。
2025年は1.009台です。

今は地方に行けば、一家に一台どころか、夫婦それぞれ一台、成人した子どもも一台、という家庭も珍しくありません。

昔なら原付や小型バイクが担っていた近距離移動を、今は軽自動車やコンパクトカーがかなり担っています。

雨に濡れない。
荷物が積める。
家族を乗せられる。
エアコンがある。
親も許しやすい。
安全に見える。

生活の道具として見れば、車は非常に強いです。

とくに地方では、原付や小型バイクの役割を軽自動車がかなり持っていったと思います。

若い人とバイクの接点も減った

若い人がバイクに触れる機会も減りました。

昔は、原付が最初の入口でした。
高校生、大学生、若い社会人が、まず原付や小型バイクに乗る。
そこから中型へ行く。
さらに大型へ行く。
そういう流れがありました。

しかし今は、その入口が弱くなっています。

若い人口そのものも減っています。
都市部では電車や自転車で足りる。
地方では親の車や軽自動車がある。
ネット通販や宅配で、そもそも出かけなくても済む用事も増えました。

さらに、日本には「三ない運動」という時代もありました。

1982年に全国高等学校PTA連合会が決議した、
「免許を取らない」
「バイクに乗らない」
「バイクを買わない」
という運動です。

当時の事故や暴走族問題への対策として広がったものですが、結果として若い人とバイクの接点を遠ざけた面はあると思います。

安全を考えることは大事です。
ただ、危ないから遠ざける、乗せない、触れさせない、という流れが長く続けば、当然ながら次の世代のライダーは育ちにくくなります。

安全意識の高まりも、バイクを趣味化させた

今の日本では、安全意識も昔よりずっと高くなっています。

これは良いことです。
ヘルメット、プロテクター、任意保険、盗難対策、駐輪場、家族の理解。
きちんと考えるべきことが増えました。

ただ、その分だけ、バイクは「ちょっとそこまで気軽に乗る生活の足」から遠ざかった面もあります。

昔なら原付で気軽に行っていた場所へ、今なら車で行く。
雨が降りそうなら乗らない。
荷物があるなら車にする。
家族が心配するからやめておく。
置き場がないから買えない。

そうして、バイクはだんだん生活インフラから趣味の乗り物へ移っていきました。

趣味の乗り物になると、好きな人は深く好きになります。
大型バイクに乗る人、ツーリングを楽しむ人、サーキットを走る人、古いバイクを大事にする人。
そういう濃いユーザーは残ります。

しかし、必要だから乗る人は減ります。

必要だから乗る人が減ると、台数は出ません。
台数が出ないと、メーカーは日本専用の商品を作りにくくなります。
商品が少なくなると、新しい人が入りにくくなります。

この循環が、今の日本の二輪市場を難しくしているのだと思います。

海外では今も、バイクが生活の中にある

一方で、東南アジアやインドでは、二輪は今も生活の中にあります。

通勤に使う。
通学に使う。
仕事に使う。
家族の移動に使う。
車を買う前の現実的な移動手段として使う。

つまり、趣味以前に必要な乗り物です。

必要だから若い人も乗ります。
若い人が乗るから台数が出ます。
台数が出るからメーカーも商品を作ります。
商品が増えるから市場がさらに活性化します。

日本では、バイクに興味がある人が乗る。
海外の一部地域では、生活に必要だから乗る。

この差は非常に大きいです。

海外向けのバイクが、日本に合わないとは限らない

ただし、海外向けに作られたバイクが日本に合わない、というわけではありません。

むしろ最近は、アジア市場で育った小排気量車や軽量モデルの方が、日本の道路事情に合うこともあります。

125ccクラス。
155ccクラス。
軽いスクーター。
扱いやすいネイキッド。
足として使える実用車。
燃費が良く、取り回しが良く、維持しやすいバイク。

これらは海外では生活インフラとして育ったモデルですが、日本でも本当はかなり相性が良いと思います。

日本でバイクをもう一度生活に近づけるなら、大排気量や高性能モデルだけでなく、こうした身近なバイクの価値をもう一度見直す必要があるのかもしれません。

バイクは、速いものだけではありません。
大きいものだけでもありません。
趣味性の高いものだけでもありません。

毎日の移動を少し自由にする乗り物でもあります。

日本市場を元気にするには、生活に近づけることも必要

日本でバイクが売れにくくなった理由は、若者がバイクに興味を失ったからだけではないと思います。

生活の中で、バイクを必要とする場面が減った。
それが大きいと思います。

地方では軽自動車が強い。
都市部では電車や自転車で足りる。
駐輪場は少ない。
家族は安全面を心配する。
若い人はそもそも人口が少ない。
ネット通販や宅配で、移動しなくても済む用事が増えた。

こうした生活環境の変化の中で、バイクはインフラから趣味へ押し出されていきました。

だから、日本の二輪市場を元気にするには、単に「かっこいいバイクを出せばいい」というだけでは足りないのだと思います。

もちろん、かっこいいバイクは必要です。
憧れのバイクも必要です。
高性能なバイクも、夢のあるバイクも必要です。

でも同時に、
日常で使えるバイク。
若い人が手を出しやすいバイク。
通勤や買い物に使えるバイク。
駐輪しやすい環境。
家族に説明しやすい安全教育。
最初の一台として選びやすい空気。

そういうものも必要です。

メーカーだけの問題ではない

「メーカーがもっと日本向けに作ればいい」

そう言いたくなる気持ちはあります。
私もそう思うことがあります。

しかし、数字を見ると、メーカーだけを責めるのは少し違う気がします。

メーカーは、売れる市場に商品を投入します。
台数が出る市場を重視します。
成長している市場を見ます。
高単価でブランド価値を作れる市場も大事にします。

それは企業として当然です。

日本市場を元気にするには、メーカーだけでなく、販売店、ユーザー、行政、駐輪環境、免許制度、安全教育、そしてバイクに対する社会の空気そのものを少しずつ変えていく必要があります。

バイクは危ない。
バイクは不便。
バイクは一部の好き者の趣味。

それだけの見方になってしまうと、新しい人は入りにくいです。

でも、バイクは便利です。
小さく、軽く、燃費が良く、移動の自由度が高い。
そして何より、乗っていて楽しい。

この「生活に近い便利さ」と「乗り物としての楽しさ」の両方を、もう一度伝えていく必要があるのだと思います。

海外重視は寂しい。でも理由はある

日本メーカーなのに、海外向けが中心になる。
日本で欲しいモデルがなかなか入らない。
海外では売っているのに、日本では買えない。
供給台数が少ない。
日本市場だけを見たモデルが少ない。

そういうことがあると、販売店としても、お客様としても、寂しく感じるのは当然です。

ただ、数字を見ると、その背景も見えてきます。

80年代の日本は、国内だけで年間300万台規模の二輪が売れる巨大市場でした。
今の日本は、年間40万台を切る市場です。

一方で、アジアでは今も二輪が生活インフラとして使われ、数千万台規模の市場があります。
欧州や北米には、高単価でブランド価値を作れる市場があります。

メーカーはその中で商品を作り、工場を動かし、販売計画を立てています。

そう考えると、海外重視は単なる日本軽視ではありません。
世界の市場構造がそうなっている。
そして日本の生活環境も、昔とは大きく変わってしまった。

その結果として、今の状況があるのだと思います。

それでも、日本でバイクを残していきたい

では、日本ではもうバイクは難しいのか。

私はそうは思いません。

たしかに、昔のように誰もが原付に乗る時代には戻らないかもしれません。
国内で300万台売れる時代にも、簡単には戻らないでしょう。

でも、バイクの価値がなくなったわけではありません。

大きなバイクで遠くへ行く楽しさ。
小さなバイクで日常を軽くする便利さ。
スクーターで気軽に移動する自由さ。
125ccや155ccで十分楽しめる現実。
そして、乗って初めて分かる、バイクならではの感覚。

これらは今でも十分に魅力があります。

むしろ、車が大きく高くなり、道路が混み、駐車場も高くなり、生活の移動コストが上がっている今だからこそ、小さくて軽いバイクの価値はもう一度見直されてもいいと思います。

メーカーが世界を見て商品を作るのは当然です。
でも、その中から日本の生活に合うバイクを見つけ、伝え、使い方を提案することは、私たち販売店にもできることです。

バイクを特別な趣味だけで終わらせない。
生活の中に、もう少し近づける。
若い人にも、最初の一台として選びやすくする。
小さなバイクの価値をきちんと伝える。

世界では、二輪が今も生活の中にあります。
日本でも、バイクをもう少し生活に近いところへ戻せたら、市場の見え方も少し変わるのではないかと思います。

メーカーの事情を数字で見ると、確かに「そりゃそうなるよな」と思います。

でも同時に、日本でバイクに関わる私たちができることも、まだ残っているはずです。