
修理を頼んだのに断られた。そう感じるのは当然です
「修理をお願いしたのに断られた」
「その場ですぐ見てもらえなかった」
「うちではできません、と言われた」
こんな経験をすると、正直、あまり良い気持ちはしませんよね。
通勤や通学に使っている方ならなおさらですし、楽しみにしていたツーリング前なら、なおさら焦ると思います。
困っているときほど、「とにかく早く見てほしい」と思うのは当然です。
だから、冷たく感じたり、意地悪ではないのかと思ったりするのも無理はありません。
でも実際には、今のバイク屋の現場では、そう単純ではない事情がいくつも重なっています。
しかも少しややこしいのは、バイクは昔ほど売れていないのに、修理や点検はむしろ混みやすいということです。
一見すると矛盾しているようですが、数字を見ていくと、その理由がだんだん見えてきます。
バイクは昔ほど売れていない
まず、新車の販売台数は、昔に比べるとかなり小さくなっています。
日本自動車工業会の資料では、国内二輪車需要は1982年度の327万台がピークでした。
それに対して近年は、30万台台後半から40万台前後の水準です。
つまり、新しく売れていくバイクの数だけ見ると、今の市場は昔よりかなり小さい。
この点だけ見れば、「バイク屋さんも昔ほど忙しくないのでは」と思ってしまうかもしれません。
ですが、実際はそこが少し違います。
それでも、世の中にあるバイクはまだ多い
販売台数は減っていますが、保有台数はそこまで急には減っていません。
日本自動車工業会の統計では、2024年3月末時点の二輪車保有台数は1,027万6,304台。
しかも前年からの減少は0.3%にとどまっています。
ここが大きなポイントです。
新しく売れる台数は減った。
でも、すでに世の中にあるバイクはまだかなり多い。
言い換えれば、
「売る量」は減っても、「支える必要のある台数」は案外多いまま
ということです。
しかも今は、気に入った1台を長く維持しながら乗る方も多い時代です。
平均年齢は55.5歳、継続乗車意向ありは86%という調査結果もあり、今ある車両を長く楽しむ流れがうかがえます。
ところが、その受け皿になる店は減っている
バイクがまだたくさんあるなら、それを見てくれる店も必要です。
ところが、その店の数は減っています。
経済センサスでは、「二輪自動車小売業(原動機付自転車を含む)」の事業所数は、
2016年に2,866事業所
2021年に2,534事業所
でした。
5年間で332事業所減、約11.6%減です。
つまり、まだ多くのバイクが世の中にある一方で、
それを売る、相談を受ける、修理する、点検する、その窓口になる店は減っているのです。
これだけでも、残っている店に依頼が集まりやすくなるのは自然です。
「最近どこも予約がいっぱい」
「すぐ見てもらえない」
という状況は、どこか一店だけの問題ではなく、こうした業界全体の変化ともつながっています。
修理が混むのは、店が減ったからだけではない
ただ、ここで
「じゃあ店が減ったから混んでるだけなんだね」
で終わると、まだ説明としては足りません。
本当に大きいのは、修理という仕事そのものが昔より重くなっていることです。
今の整備の現場は、単に工具を持って分解して直す、だけでは回らない場面が増えています。
電子制御、診断機器、メーカーごとの情報照会、部品検索、保証確認、履歴確認。
そういった作業の比重がかなり大きくなっています。
つまり今の修理は、
直す仕事であると同時に、
調べる仕事、確認する仕事、照会する仕事
でもあるわけです。
少人数の店ほど、その変化は重い
整備業界は、大きな工場ばかりで成り立っているわけではありません。
国土交通省の資料では、認証工場のうち従業員5人以下が約6割、10人以下が約8割を占めています。
さらに、整備・修理工の有効求人倍率は4.55倍とされており、人材不足も深刻です。
つまりこの業界は、もともと少人数の現場の積み重ねで支えられているうえに、人を増やしたくても簡単には増やせない、という事情があります。
そこに、
- 店の数は減る
- バイクはまだ多い
- 修理は複雑になる
- 人材は不足する
という状況が重なれば、1店舗あたりの負担が重くなるのは当然です。
修理や点検の予約が詰まりやすくなるのは、ある意味で自然な流れだと思います。
「その場ですぐに」は、実はかなり難しい
ここは、お客様から見ると見えにくいところかもしれません。
たとえばバイクの不調といっても、
- 音がする
- エンジンがかかりにくい
- 走ると違和感がある
- 警告灯がつく
- オイル漏れっぽい
など、症状だけでは原因が特定できないことが多いです。
そこから
- 症状確認
- 原因の切り分け
- 分解の要否判断
- 部品確認
- 作業時間の見積もり
- ほかの予約との調整
が必要になります。
つまり、「ちょっと見る」ように見えても、実際にはその先にかなりの段取りがあります。
飛び込みで1台ずつその場で抱え込んでいたら、予約済みの作業も、預かっている作業も、全部止まりやすくなってしまいます。
だから「その場ですぐ見られない」というのは、不親切だからではなく、全体を止めずに回すための限界でもあるのです。
「できません」と言われるのも、意地悪とは限らない
これもつらいところですが、現実にはよくあります。
他店購入車、履歴不明の中古車、古い車両、改造の多い車両。
こうしたものは、原因の特定が難しく、部品供給も不安定で、責任の範囲も曖昧になりやすいです。
お店からすると、引き受けるだけならできるかもしれません。
でも、責任を持って直せるかとなると話は別です。
直したつもりでも別の不具合が出る。
部品が出ない。
想定以上に工数がかかる。
最終的に高額になってしまう。
そういうことが起これば、お客様にとってもお店にとっても良い結果になりません。
だから「できません」は、やる気がないというより、無責任に受けないための判断であることも少なくありません。
さらに、仕事のやり方そのものも変わっている
ここは見落とされやすい部分ですが、今は単に修理の内容が難しくなっただけではありません。
仕事の進め方そのものが、昔とはかなり変わっています。
メーカーとの受発注、部品照会、保証対応、情報確認など、さまざまなやり取りがWebやデジタル前提になっています。
つまり今起きているのは、単に「忙しい」ではなく、
商売の前提そのものが変わった
ということです。
長く町のバイク屋さんをやってきたお店ほど、これまでのやり方で十分回っていた部分も多かったはずです。
そこに、設備、情報、事務処理、デジタル対応まで求められるようになれば、負担が増えるのは自然です。
だから今は、「売る仕事」より「支える仕事」が重くなっている
いまのバイク業界を一言で言えば、
売れる台数は減ったのに、支えるべきバイクはまだ多い。
これだと思います。
だから業界の重心も、「たくさん売ること」だけではなく、
すでに存在している車両をどう支えるか
へ大きく移っています。
表から見るとわかりにくいですが、現場ではこの“支える仕事”がかなり重くなっています。
だから当店では、予約制で受け入れを少しでも増やしています
こうした状況の中で、当店では修理や点検を予約制で進めています。
予約制というと、不便に感じる方もいらっしゃるかもしれません。
ですが実際には逆で、少人数でも受け入れをできるだけ増やすための方法です。
事前に症状を伺い、必要な時間を見積もり、部品や段取りを整えておく。
そうすることで、飛び込み対応だけに追われて全体が止まるのを防ぎ、結果としてより多くの車両に対応しやすくなります。
それでも最近は、ご依頼が集中する時期には、2週間ほど先でないと予約が取れないこともあります。
本音を言えば、困っている方はすぐ助けたい。
でも、無理に詰め込んで作業の質を落とすより、きちんと段取りを組み、責任を持って進める方が、結果としてお客様のためになると考えています。
もし今は不具合がなくても、先々修理を依頼するつもりなら
ここで、ぜひお願いしたいことがあります。
今はとくに不具合がなくても、先々当店に修理や点検をご依頼になる可能性がある方は、あらかじめお客様登録をお願いします。
いざ故障したときには、お電話などでご相談をいただくことがあると思います。
ですが、その時点で
- なんのバイクなのか
- 年式はいつなのか
- 走行距離はどのくらいか
- そもそもどちらさまなのか
といったことがまったく分からない状態だと、そこから確認が必要になり、余計な手間が増えて、結果としてさらに時間がかかってしまいます。
故障のときは、ただでさえお客様も焦っています。
そのときに一から情報確認をするより、事前に登録ができていれば、こちらも状況を把握しやすく、対応も進めやすくなります。ご来店いただければご連絡先、車両の必要な情報をこちらでお預かりいたします。
ロードサービスも、できれば今のうちに
あわせて、ロードサービスへの加入もおすすめします。
トラブルは、動けるときに起こるとは限りません。
出先で動かない、自宅でエンジンがかからない、転倒して走れない。
そういうときに、店へ「今から来てください」と言われても、正直なところ、こちらもそんなふうにすぐ動ける余裕があるとは限りません。むしろ現状を考えると「できない」と言い切った方がよいです。
だからこそ、万一に備えてロードサービスに加入しておいていただけると、いざというときに対応しやすくなります。
お店とお客様のどちらにとっても、その方が現実的です。
最後に
修理を断られた。
すぐ見てもらえなかった。
できないと言われた。
それは、お客様にとってはとてもつらいことだと思います。
そして、そう感じるのは当然です。
でも今のバイク業界では、その背景に
- 販売台数の長期減少
- 保有台数1,000万台規模
- 店舗数の減少
- 人手不足
- 整備の高度化
- 仕事のデジタル化
が重なっています。
だから最近の「見てもらえない」は、単なる意地悪や不親切だけではなく、業界全体の構造の中で起きていることでもあります。
その中で当店は、限られた人数でもできるだけ多くの車両にしっかり向き合えるよう、予約制で進めています。
少しご不便をおかけすることもありますが、責任ある形で整備を続けていくための方法として、ご理解いただければと思います。