安全運転右直事故はなぜ避けにくい? 「ゼロ理論」をもう一度考えてみる

バイクの事故の中でも、右直事故はかなり気になる事故のひとつです。

新聞やネットニュースでバイク事故の記事を見ていると、

「直進していたオートバイと、対向から右折しようとした乗用車が衝突」

というシチュエーションを、かなりよく目にします。

一見すると、

「なんでそんな事故になるんだろう?」

と思うかもしれません。

右折するクルマからすれば、対向からバイクが来ているのは見えるはず。

しかも基本的には直進車が優先です。

だったら右折車が待っていれば済む話ではないか。

ところが調べてみると、

「なるほど、これは事故になるわ」

と思うくらい、実は回避が難しい事故なのです。

経験値の少ないライダーでなくとも、こういう事故にやられてしまうこともあるだろうな、と思います。

二輪車の死亡事故では、右直事故が約3割

これは単にニュースでよく見る気がする、というだけでもありません。

警察庁は現在、車両同士の事故で亡くなった二輪車乗車中の人について、「二輪車が直進中に相手車両が右折してきた事故」が約3割を占めるとしています。

さらに令和5年の詳細な統計を見ると、車両相互事故による二輪車乗車中の死者は340人。

そのうち「右折対直進」は113人でした。

約3人に1人です。

しかも113人のうち97人、85.8%は二輪車側が直進していました。令和5年については、出会い頭83人、正面衝突49人などを上回り、右折対直進が最も多い事故類型になっています。

つまり、

「直進していただけなのに、対向車が右折してきた」

という事故は、決して特殊なケースではないのです。

では、なぜこれほど起こるのでしょう。

バイクは「まだ遠い」と思われやすい

ひとつは、バイクの見え方です。

四輪車に比べて車体が小さいバイクは、対向するドライバーからすると実際より遠くにいるように感じたり、速度が遅いように感じたりすることがあります。

日本二輪車普及安全協会も、対向する二輪車は速度感が実際より遅く感じられ、距離も離れているように見えるため、四輪車側が判断を誤って右折を始めることがあると注意を呼びかけています。

つまり右折車側からすると、

「まだあそこだから行ける」

なのです。

ところがライダー側からすると、

「なんでこのタイミングで出てくるの?」

になる。

お互いが見ている景色が、同じではないのです。

42m離れていても、たった3秒

この距離感について面白い実験があります。

日本二輪車普及安全協会の安全運転講習会で、交差点から約42m離れた場所をバイクが50km/hで接近するケースを検証しています。

50km/hで42m。

時間にすると、およそ3秒です。

参加者に右折車側の立場で判断してもらうと、その距離では右折を開始しない人が多かったそうです。

そして実際に四輪車が右折を開始して、交差点を抜けきるまでの時間を測ると5秒以上かかりました。つまり「42mも離れている」ように見えても、50km/hのバイクは約3秒で到達してしまう。そこで右折を始めれば、時間的には間に合わないわけです。

42mというと、けっこう離れて見えます。

でも50km/hなら3秒。

この「距離で見る感覚」と「時間に直した現実」のズレが、右直事故の怖いところなのでしょう。

見ていないだけではない。「行ける」と思って出てくる

さらに興味深いデータがあります。

少し古い統計になりますが、ITARDAが平成19~23年の信号交差点での右折事故を分析したところ、四輪車対二輪車の事故で、右折四輪側の人的要因は「安全不確認」が81%、「判断の誤り」が13%でした。

そして「判断の誤り」には、対向車を認識していたにもかかわらず、「自分のほうが先に行けるだろう」と判断したケースが含まれています。

ここはかなり重要だと思います。

右直事故というと、

「バイクを見落とした」

だけを想像しがちです。

でも実際には、

「見えていた。でも行けると思った」

もある。

だからライダーが、

「こっちを見たから大丈夫」

と思っても、それだけでは安心できません。

目が合った。

こちらを見た。

だから待ってくれる。

この三つは、必ずしも同じではないのです。

50km/hなら、1秒で約14m進む

ではライダー側から考えてみます。

50km/hで走っているバイクは、1秒で約14m進みます。

右折車が動いた。

それを見つけた。

「あっ」と思った。

アクセルを戻した。

ブレーキを握った。

人間なので、見た瞬間に最大制動が始まるわけではありません。

仮に危険を認識して実際の制動が始まるまでを1秒、そこからの減速度を説明用に約0.5Gと仮定して単純計算すると、停止までに必要な距離はおよそ、

30km/hで約15m。

40km/hで約24m。

50km/hで約34m。

60km/hでは約45m。

となります。

もちろんこれは路面、タイヤ、車種、ブレーキ操作、ライダーの反応によって大きく変わりますから、「この距離があれば必ず止まれる」という数字ではありません。

ただ、感覚をつかむには十分だと思います。

たとえば50km/hで走っていて、右折車との交錯地点まであと15m。

そこで右折車が動き始めた。

もう「完全に止まる」という意味では、かなり厳しい。

ブレーキが上手いとか下手とか以前に、使える距離が足りないのです。

「出てきたらブレーキ」では遅い

ここまで考えると、

「右折車が出てきたらブレーキをかければいい」

という考え方が、実はかなり危ういことが分かります。

相手が出てきたのを確認してから初めて対応を始めたのでは、その時点ですでに停止できない距離に入っていることがあるからです。

だから以前このブログで書いた「ゼロ理論」では、

「今あの右折車が出てきても、交錯するところまでに自分の速度をゼロにできるか」

という考え方をしました。

右折待ちのクルマがいたら、近づくにつれて速度を落としておく。

まだ遠ければ50km/hでも止まれるかもしれない。

距離が詰まれば40km/h。

さらに近づけば30km/h。

要するに、

「交差点は何km/hで通過すれば安全」

という話ではありません。

残された距離と速度の関係なのです。

でも、それだけでは足りないことに気づいた

ここまでなら以前の「ゼロ理論」の話です。

ただ、改めて考えてみると、もっと厄介な右直事故があります。

交差点ではないところです。

たとえば普通の道路を50km/hで走っている。

対向車も普通にこちらへ向かってくる。

こちらから見ても、特に怪しい動きはない。

ところが道路沿いにコンビニがある。

対向車のドライバーが、

「あ、ここだった」

と思う。

そして突然右折する。

これは相当に厄介です。

交差点ならライダー側も、

「右折するかもしれない」

と最初から構えています。

ところが店舗への入口では、その予測自体が一拍遅れることがあります。

その一拍が、50km/hなら十数メートルになる。

自分の10m前でいきなり横切られたら、どれだけブレーキが上手くても止まれないことがあります。

つまり「交差点だけ」の問題ではない

右直事故という名前から、つい交差点を想像します。

でも道路上を見渡してみれば、対向車がこちらの進路を横切る場所はいくらでもあります。

コンビニ、スーパー、ガソリンスタンド、病院、飲食店、会社、住宅、駐車場。

ITARDAの別の右直事故分析でも、四輪車が沿道施設へ右折進入するときは、対向直進二輪車との右直事故が起きやすいことが指摘されています。

そう考えると、

「交差点だから気をつける」

では足りません。

「対向車が自分の進路を横切る理由がある場所」

を見る必要があるのでしょう。

ここは経験値によって、けっこう差が出るところだと思います。

経験を積んだライダーなら、

「あのクルマ、少し速度が落ちたな」

「センターライン側へ寄ったな」

「この先にコンビニの入口があるな」

という細かい情報を拾って、

「もしかして曲がる?」

と早めにアクセルを戻せる。

でも経験が少なければ、ウインカーが点く、あるいは車が実際に曲がり始めて初めて、

「右折するんだ」

と気づくこともあるでしょう。

そこからでは間に合わないことがある。

だから右直事故は怖いのです。

普通に走っていても、避けられないことがある

そして、これはきちんと認めておいたほうがいいと思います。

ライダーが普通に走っていても、どうしようもない事故はあります。

突然10m前を対向車が横切った。

脇道から確認せず飛び出してきた。

目の前で急に右折された。

そうなれば、

「もっとブレーキが上手かったら」

「もっと経験があれば」

ですべて解決できるわけではありません。

物理的に止まれない距離はあります。

だからこそ、私は逆に怖いと思うのです。

普通に走っていてさえ回避できないことがあるのに、

「俺は直進なんだから優先だ」

という感覚で、交差点や店舗の出入口をヒュンヒュン抜けていったら、何かあったときにはひとたまりもありません。

直進優先であることと、安全であることは別です。

「優先」は、相手を止める力ではない

道路交通上、直進車が優先する場面はあります。

でも、その優先というルールが、目の前のクルマを物理的に止めてくれるわけではありません。

相手が見落とすかもしれない。

見えていても距離を読み違えるかもしれない。

「あそこなら先に行ける」と判断するかもしれない。

「あ、ここだった」と急に曲がるかもしれない。

こちらが優先でも、起きるときは起きます。

つまり公道では、

「自分が正しいか」

とは別に、

「相手が間違えたとき、自分にどれだけ余裕が残っているか」

を考える必要があるのでしょう。

ゼロ理論も、少し考え直したほうがいい

そう考えると、以前書いた「ゼロ理論」も、少し意味を広げたほうがいいように思います。

以前は、

「右折車が出てきても、衝突地点までに速度をゼロにする」

と考えていました。

もちろん、それができる状況なら理想です。

でも道路沿いのすべての店舗、住宅、駐車場、脇道から突然車が出てくる可能性まで考えて、常に絶対停止できる速度で走ろうとしたら、ほとんど徐行になってしまいます。

現実の公道では不可能でしょう。

だとすればゼロ理論とは、

「どんな事故でも必ずゼロで止まれる理論」

ではないのだと思います。

危険の可能性が高くなったところから、自分の速度を少しずつゼロへ近づけていく。

そういう考え方なのではないでしょうか。

50km/hのままか、30km/hまで落としているか

仮に最後まで止まりきれなかったとしても、

50km/hのまま衝突するのか。

40km/hまで落としているのか。

30km/hなのか。

20km/hなのか。

ほとんど止まる直前なのか。

結果は同じではありません。

しかも速度を落としているということは、それだけ見たり判断したりする時間も増えます。

右折車に気づいた時点でアクセルを戻す。

少し怪しければ速度を落とす。

さらに怪しければ、ブレーキを使う準備をする。

相手が曲がり始めてから事故回避を始めるのではなく、

「曲がるかもしれない」

と思った時点から事故回避を始める。

これが今考える「ゼロ理論」に近い気がします。

上手さとは、最後に避けることだけではない

バイクの運転が上手いというと、

急制動が上手い。

ものすごい反応で避ける。

華麗に危険をかわす。

そんなところに目が行きがちです。

もちろん、そういう技術も必要です。

でも公道では、それ以上に、

「そもそも最後の一発勝負をしなくて済むように走っている」

ことのほうが大切なのかもしれません。

普通に走っていても、どうしようもない事故はあります。

だからこそ、自分から余裕まで使い切らない。

「俺が優先だから大丈夫」ではなく、

「もし相手が間違えたら?」

を少しだけ考えておく。

ゼロにできるならゼロにする。

ゼロにできない状況でも、できるだけゼロへ近づける。

かなり前に「ゼロ理論」という記事を書きましたが、今あらためて考えると、私が言いたかったのは、もしかするとこちらなのかもしれません。

皆さんは対向車とすれ違うとき、

「このクルマ、ここで曲がるかもしれない」

と、どこまで考えて走っていますか?

交差点ではないところで突然右折されて、

「あれは危なかった」

という経験がある方も、けっこういるのではないでしょうか。

安全・乗り方・メンテナンス・車種選びなど、ほかの記事もこちらから読めます。