
今年はMT-03が人気のようです。
では、なぜ選ばれているのでしょうか。
最高出力がクラス最強というわけではありません。特別に安いバイクでもなく、最新の電子制御を満載したモデルでもありません。
もっと速いバイク、もっと軽いバイク、もっと燃費のよいバイクは、ほかにもあります。
それでも比べていくと、最後にMT-03が残る。
そこには、初めてバイクを買う人ならではの事情と、MT-03が持つバランスのよさが関係しているのではないでしょうか。
初めての人は、自分の使い方をまだ知らない
「どんな使い方をしますか?」
バイクを選ぶとき、よく聞かれる質問です。
通勤ですか。ツーリングですか。高速道路は使いますか。ワインディングを走りますか。長距離にも行きますか。
しかし、免許を取ったばかりの人にとっては、実は答えるのが難しい質問です。
まだバイクを所有したことがないのですから、どんな乗り方が楽しくなるのか、自分でも分からないのが普通です。
最初は近所だけのつもりだったのに、乗り始めると遠くへ行きたくなるかもしれません。
高速道路は使わないと思っていたのに、仲間とのツーリングで必要になるかもしれません。
反対に、長距離ツーリングを夢見て買ったものの、実際には仕事帰りや休日の朝に少し乗ることが多くなるかもしれません。
経験のある人なら、自分の好きな乗り方も、バイクの不便な部分も、ある程度想像できます。
しかし、初めての人にはそれがまだ分かりません。
だから初めての一台では、特定の用途に特化していることより、乗り始めてから使い方が変わっても対応できることが大切なのです。
最初の一台は、自分の好みを見つけるためのバイク
初めてのバイク選びというと、最初から自分にぴったりの一台を当てなければならないように思います。
しかし実際には、乗ってみなければ分からないことの方が多いものです。
ワインディングが好きなのか。景色を楽しみながら走るのが好きなのか。仲間と走るのが好きなのか。一人で知らない場所へ行くのが好きなのか。
それはカタログを見ているだけでは分かりません。
つまり、初めての一台は、すでに決まっている好みに合わせて選ぶものではなく、自分の好みを知るためのバイクでもあるのです。
そう考えると、MT-03の「何でも普通にできる」という性格が、大きな意味を持ってきます。
「普通に使える」は、楽しみ方を決めつけないということ
現在のバイクは、それぞれの個性がはっきりしています。
クラシック、クルーザー、アドベンチャー、スーパースポーツ。それぞれに強い魅力がありますが、得意な使い方がはっきりしている分、乗る人にもある程度の目的を求めます。
MT-03の外観はスポーティですが、中身は非常に素直なロードスポーツです。
姿勢はきつすぎず、街中でも扱いやすい。ワインディングも楽しめて、高速道路にも乗れる。バッグやスクリーンを装着すれば、ツーリングにも対応できます。
MT-03は、乗る前から「このように使ってください」と決めつけてこないバイクです。
何か一つに特化していないことは、特徴がないという意味ではありません。
まだ自分の楽しみ方が分からない人にとっては、可能性を狭めないこと自体が、大きな性能になるのです。
軽さは、運転を覚える余裕につながる
MT-03の車両重量は166kg、シート高は780mmです。
大型バイクと比べれば押し引きしやすく、信号待ちや駐車場でも扱いやすい車体です。
初めての人にとって、この軽さは単に取り回しが楽というだけではありません。
重いバイクでは、倒さないことや支えることに意識を取られます。パワーが大きすぎれば、アクセルを開けすぎないことにも神経を使います。
人が一度に使える注意力には限りがあります。
車体を扱うことだけで精いっぱいになれば、視線、ブレーキ、周囲の交通、走る位置など、本来覚えたいことに向ける余裕が減ってしまいます。
MT-03くらいの重さとパワーなら、バイクに振り回されにくく、自分で操作した結果も感じ取りやすい。
軽くて扱いやすいことは、初心者を甘やかすためではありません。正しい運転を覚える余裕をつくるためでもあるのです。
扱いやすいと「出かけよう」と思える
もう一つ大きいのが、出かける前の気持ちです。
バイクを駐車場所から出し、向きを変え、狭い場所を押し引きする。それだけで気を使うバイクでは、乗ること自体が少しずつ大仕事になってしまいます。
「今日は時間があまりないから、やめておこう」
「近所へ行くだけだから、クルマでいいか」
そうして乗る機会が減ると、なかなか操作にも慣れません。
MT-03くらいの重さと大きさなら、特別なツーリングの日だけでなく、少し時間が空いたときにも「ちょっと乗ってみよう」と思いやすいでしょう。
近所を30分走る。少し離れた店まで行く。天気がよいので、遠回りして帰る。
そんな短い一回一回でも、発進、停止、変速、ブレーキ、交差点での確認を繰り返します。
乗る回数が増えれば、それだけ基本操作が身体になじみ、周囲を見る余裕も生まれてきます。
扱いやすいから出かける。
出かけるから経験が増える。
経験が増えるから自信がつく。
自信がつくと、もう少し遠くへ行ってみたくなる。
この好循環をつくりやすいことも、初めてのバイクにMT-03を選ぶ大きな意味だと思います。
扱いやすさは、単に立ちごけしにくいという話ではありません。
実際に乗る機会を増やし、その人の上達と行動範囲を広げてくれる性能なのです。
42馬力は「すぐ飽きる」ほど小さくない
初めてのバイクだからと性能を抑えすぎると、乗り方が広がったときに不足を感じる場合があります。
MT-03は320ccの並列2気筒で、最高出力は42馬力です。
発進や低速では扱いやすく、回転を上げればスポーツバイクらしい加速も楽しめます。高速道路の合流や登り坂でも、250ccより余裕があります。
最初は穏やかに付き合えて、慣れてきたらエンジンを回す面白さや、軽い車体で曲がる楽しさが見えてくる。
初めての人に優しいだけでなく、上達したあとにも楽しめる余白を持っています。
本当に初めての一台に向いているのは、初心者の間だけ乗りやすいバイクではありません。
初心者を助けながら、その人の成長にも付き合えるバイクだと思います。
排気量は大きいのに、MT-25と燃費はほぼ同じ
MT-03のバランスのよさが、数字にはっきり表れている部分があります。
メーカー公表のWMTCモード燃費は、
MT-25が26.5km/L
MT-03が26.4km/L
です。
MT-03はMT-25より71cc大きく、最高出力も35馬力から42馬力へ上がります。それでも燃費の差は、わずか0.1km/Lしかありません。
年間1万km走ったとしても、カタログ値で計算したガソリン使用量の差は約1.4Lです。
どちらもレギュラーガソリン仕様で、タンク容量は14L。燃料代については、ほぼ同じと考えてよいでしょう。
もちろんMT-03には車検があり、税金にも違いがあります。
しかし、日常的に使うガソリン代をほとんど増やさず、追い越しや高速道路での余裕を手に入れられる。この点は、所有してから効いてくる長所です。
MT-25との車両価格差は5万5,000円です。
普通二輪免許を持っていて、高速道路やツーリングも経験してみたいなら、MT-03を選ぶ人が増えるのも分かります。
周りのバイクが変わり、MT-03のよさが見えやすくなった
同じようなカテゴリーには、カワサキZ400やトライアンフSpeed 400、KTM 390 DUKEなどがあります。
いずれも魅力的なバイクですが、Z400は77万円、Speed 400は73万9,000円から、390 DUKEは82万9,000円です。
MT-03は68万7,500円。
400ccフルサイズの出力ではありませんが、166kgの車体、42馬力の2気筒エンジン、良好な足つき、十分な航続距離を備えながら70万円を切っています。
現行モデルではアシスト&スリッパークラッチ、スマートフォンと連携できるメーター、USB電源なども装備され、日常で使うバイクとしての完成度も高くなりました。
MT-03が突然、まったく別のバイクになったわけではありません。
周囲の車両価格が上がり、個性の強いモデルが増えたことで、MT-03が以前から持っていた「普通に使いやすい」という価値が、見えやすくなったのではないでしょうか。
バランスのよさは、妥協ではない
速さだけなら、もっと速いバイクがあります。
燃費だけなら、もっと燃費のよいバイクがあります。
軽さだけなら、もっと軽いバイクもあります。
しかし、バイクは一つの数字だけで使うものではありません。
軽さ、足つき、動力性能、燃費、価格、そして使える場面の広さ。MT-03は、そのどこにも大きな穴がありません。
バランスがよいとは、すべてが平均という意味ではないのです。
どれか一つを諦めることなく、やりたいことが変わっても付き合える。それがMT-03の強さです。
初めてだからこそ、楽しみ方を狭めない一台を
初めてバイクを買う時点では、自分がどんなライダーになるのか、まだ分かりません。
だからこそ、最初から答えを出す必要はないと思います。
街を走り、少し遠くへ行き、高速道路を経験し、カーブを走り、時には失敗もしながら、自分の好きな乗り方を見つけていけばよいのです。
MT-03は、何か一つの楽しみ方に連れていくバイクではありません。
いろいろな入口を用意し、その人が自分で進む方向を選べるバイクです。
そして、軽くて扱いやすいからこそ乗る機会が増え、経験が積み重なり、行ける場所も少しずつ広がっていきます。
初めての一台は、自分の好みに合うバイクを当てるための買い物ではなく、自分の好みを見つけ、育てていくための一台。
そう考えると、今年MT-03が選ばれている理由が見えてくる気がします。