
日本では、バイクのレースやモータースポーツの見方を、あまり知らない人が多いのかもしれません。
バイクに乗っていても、
「自分はレースをしないから関係ない」
「サーキットを走らないから興味がない」
「自分はそんなにバイクがうまくないから、見ても分からない」
そんなふうに思ってしまう人が多いように感じます。
でも、それは少し変な話だと思うのです。
スポーツ観戦というのは、自分がその競技を高いレベルでできるから見るものではありません。
野球を見る人が、全員プロ野球選手だったわけではありません。
サッカーを見る人が、全員Jリーグレベルでプレーできるわけでもありません。
相撲を見る人が、自分で土俵に上がるわけでもありません。
それでも、みんな好き勝手に見ています。
「あの選手、最近調子いいね」
「今日は気合が入ってないな」
「あそこで打たんと」
「今の采配はどうなんだ」
そんなことを言いながら、勝手に盛り上がる。
それがスポーツ観戦の楽しさです。
野球をやったことがなくても、野球は楽しめる
うちの母は、もう87歳になります。
今はほぼ寝たきりの生活ですが、最近はテレビで野球を見るのにはまっています。
ソフトバンクのファンです。
もちろん、母が野球をやっていたわけではありません。
今から自分でスポーツをするわけでもありません。
それでも試合を見て、勝てば喜び、負ければ好き勝手に文句を言っています。
でも、たぶんそれでいいんです。
スポーツ観戦というのは、本来そういうものだと思うのです。
自分がその競技をやっていたかどうか。
自分がそのレベルでできるかどうか。
そんなことは関係ありません。
応援して、悔しがって、時には文句を言って、また次の試合を楽しみにする。
それがスポーツ観戦の楽しさです。
なら、バイクのレースも同じでいいはずです。
バイクレースは、勉強会ではない
バイクレースを見るというと、どうしても真面目に考えすぎるところがあります。
「自分の走りを向上させるために勉強させてもらいに行く」
「ライディングの参考にする」
「速い人の技術を盗む」
もちろん、それも悪いことではありません。
上手い人の走りを見ることで、ライン取りやブレーキング、体の使い方など、学べることはたくさんあります。
でも、私はそれだけでは少し違うと思っています。
モータースポーツ観戦は、ライディング講習ではありません。
勉強会でもありません。
もっと勝手に、もっと気軽に、もっと適当に楽しんでいいものだと思うのです。
昨日免許をとったばかりの人が、いや免許なんて全然もってなくても好き勝手に応援できる権利があるのです。
野球を見に行く人が、自分のバッティングを上達させるためだけに球場へ行くわけではありません。
サッカーを見る人が、自分のドリブル練習のためだけにスタジアムへ行くわけでもありません。
勝った、負けた。
今日は良かった、悪かった。
あそこで行ってほしかった。
次は勝ってほしい。
そうやって楽しめばいい。
バイクレースも同じです。
自分にはできないからこそ面白い
むしろ、スポーツ観戦は「自分にはできないことを、目の前で誰かがやってくれるから面白い」のだと思います。
自分があのスピードで走れなくてもいい。
膝を擦れなくてもいい。
ジャンプを飛べなくてもいい。
ブレーキングをぎりぎりまで我慢できなくてもいい。
むしろ、自分には到底できないからこそ、
「あの速度で曲がるのか」
「あそこでブレーキを我慢するのか」
「あの距離で抜きに行くのか」
「あの状態で転ばずに走るのか」
と驚ける。
そこに、スポーツ観戦の面白さがあります。
バイクに乗っている人なら、なおさらです。
通勤でも、ツーリングでも、スクーターでも、大型でも、オフロードでもいい。
少しでもバイクに乗っていれば、ブレーキングの怖さ、曲がる時の緊張感、タイヤに頼る感覚、転んだ時の痛さは、なんとなく分かるはずです。
だからこそ、レースを見ると余計にすごさが分かります。
「自分はレースをしないから関係ない」ではなく、
「自分にはできないからこそ面白い」。
そこから見始めていいと思うのです。
ヤマハに乗っているなら、ヤマハを応援すればいい
たとえばヤマハのバイクに乗っているなら、
「俺はヤマハに乗っているんだから、ヤマハには負けてもらっちゃ困る」
くらいの気持ちで見てもいいと思います。
もちろん、自分がチーム関係者なわけではありません。
自分が開発したわけでもありません。
自分が走っているわけでもありません。
でも、スポーツ観戦とは本来そういうものです。
地元のチームだから応援する。
好きなメーカーだから応援する。
乗っているバイクと同じメーカーだから応援する。
あのライダーの走り方が好きだから応援する。
理由はそれくらいで十分です。
そしてレースが終わったら、勝手に反省会をすればいい。
「あそこで行ってほしかった」
「今日はちょっと乗れてなかったな」
「あの抜き方は熱かった」
「次は勝ってくれよ」
そんなふうに、好き勝手に語る。
もちろん、実際に走っているライダーやチームへの敬意は必要です。
でも、敬意があるからといって、黙って正座して見なければいけないわけではありません。
応援しているからこそ悔しい。
応援しているからこそ文句も出る。
応援しているからこそ、次に期待する。
それがファンだと思います。
最初はYouTube観戦でいい
いきなりサーキットに行かなくてもいいと思います。
今は、全日本ロードレースや全日本モトクロスも、動画でライブ配信される時代です。
まずはYouTubeで見てみればいい。
ご飯を食べながらでもいい。
仕事の合間に少し見るだけでもいい。
晩酌しながら録画をみててもいい。
全部を真剣に見なくてもいい。
好きなメーカー、好きなライダー、気になるクラスだけ見てもいい。
そして見ながら、
「ヤマハ、そこで負けたら困るやろ」
「今の抜き方は熱い」
「今日はちょっと乗れてないな」
「このライダー、気合入ってるな」
と、好き勝手に言えばいい。
それが観戦の入口です。
たとえるなら、有名ラーメン店の味を再現したカップラーメンのようなものかもしれません。
いきなり遠くの有名店まで行くのは大変です。
でも、まずはカップラーメンで、
「こういう味なんだ」
「ちょっと面白いな」
と知ることはできます。
バイクレースも同じです。
まずは配信でいい。
まずは気軽に見ればいい。
ただし、やはり本物は違います。
現地で見るレースは、やはり別物
画面で見るレースも面白い。
でも、現地で見るレースは、やはりまったく別物です。
音。
匂い。
スピード感。
空気の振動。
スタート前の緊張感。
ピットの雰囲気。
観客席の熱。
その場にいるだけで、バイクという乗り物の見え方が少し変わります。
ラーメンも、カップ麺で入口を知ることはできます。
でも、実際に店に行って、店の空気の中で一杯を食べた時の満足感は、やはり別物です。
モータースポーツも同じです。
まずはYouTubeでいい。
でも、自分の住んでいる地域の近くで開催されるなら、ぜひ一度は現地で見てほしいと思います。
自分が走るための勉強としてではなく、
ただスポーツ観戦として。
ただヤマハを応援するために。
ただ「すごいもの」を見に行くために。
それだけで十分です。
レース観戦は、旅としても面白い
レース観戦というと、
「バイクで行かなければいけない」
と思う人もいるかもしれません。
もちろん、ツーリングを兼ねて見に行けるなら最高です。
バイクで会場へ向かい、同じように集まってくるバイクを見ながら、だんだん気分が高まっていく。
それも、バイク乗りならではの楽しさです。
でも、別にその時だけ車で行ってもいいと思います。
家族や友人と一緒に行くなら、車の方が楽なこともあります。
天気が悪い時、荷物が多い時、帰りが遅くなる時もあります。
観戦は修行ではありません。
楽しみに行くものです。
さらに余裕があるなら、飛行機や新幹線を使って現地へ行くのも面白い。
ホテルに泊まり、夜はその土地のおいしいものを食べる。
翌日は会場へ向かい、レースを見て、空いた時間に少し観光もする。
そうなると、もう単なるレース観戦ではなく、立派な旅です。
レースに出る人たちも、遠くの会場まで移動し、宿泊し、現地の空気を感じながら、その週末を過ごしています。
観戦する側も、その土地へ行き、その空気の中に身を置くことで、画面で見るのとは違う形でレースを楽しめるのです。
私も何年か前、MotoGPを見に、もてぎまで行ったことがあります。
九州から栃木は、正直かなり遠いです。
でも、そこまで行く道中も面白かった。
現地で見るMotoGPは、やはり画面とはまったく違いました。
空いた時間にする観光や、現地で食べるものも含めて、旅として最高に面白かったのを覚えています。
別に自分がMotoGPを走るわけではありません。
あのレベルを体で理解できるわけでもありません。
でも、それでいいのです。
すごいものを見に行く。
その場の空気を味わう。
好きなメーカーやライダーを勝手に応援する。
勝った負けたで勝手に盛り上がる。
それがスポーツ観戦の楽しさだと思います。
バイク乗りの楽しみ方が、少し広がる
少しだけ本音を言えば、
「この前、全日本を見に行ってきた」
「YouTubeで全日本モトクロスを見たけど、面白かった」
「オートポリスでレース観戦してきた」
そんな話ができるバイク乗りは、少しだけ楽しみ方が広く見えると思います。
もちろん、偉いとか偉くないとかの話ではありません。
でも、ツーリングだけでなく、メンテナンスだけでなく、カスタムだけでなく、モータースポーツも楽しんでいる。
それは、バイクという乗り物を少し広い目で見ているということでもあります。
バイクは乗るだけでも楽しい。
でも、見る楽しみを知ると、もう一段おもしろくなります。
レース観戦は、バイクに乗る人の“楽しみ方の引き出し”を増やしてくれるものだと思います。
まずは好き勝手に見ればいい
バイクレースは、走る人だけのものではありません。
サーキットを走る人だけのものでもありません。
詳しい人だけのものでもありません。
まずはYouTubeで見てもいい。
近くで開催されるなら、ツーリングがてら見に行ってもいい。
その時だけ車で行ってもいい。
遠くのレースなら、旅として楽しんでもいい。
大事なのは、難しく考えすぎないことです。
「自分はレースをしないから」
「自分はそんなに上手くないから」
「よく分からないから」
そんな理由で遠ざけるのは、少しもったいない。
スポーツ観戦は、もっと勝手で、もっと適当で、もっと熱くなっていいものです。
ヤマハに乗っているなら、ヤマハを応援する理由はもう十分あります。
「俺はヤマハに乗っているんだから、ヤマハには負けてもらっちゃ困る」
それくらいで見始めていい。
そして見終わったあとに、
「あそこで行ってほしかった」
「あの走りは良かった」
「次は勝ってくれよ」
と、勝手に語ればいい。
バイクレースは、勉強しに行くものではなく、まず楽しみに行くものです。
そして本当に面白いものは、楽しんでいるうちに、勝手に学びにもなっていきます。
乗る楽しみ。
見る楽しみ。
応援する楽しみ。
語る楽しみ。
旅する楽しみ。
バイクには、まだまだいろんな楽しみ方があります。
レース観戦は、その扉を開いてくれる、とても面白い入口だと思うのです。