
会社の近くに自動車学校があります。
たくさんの生徒さんが来られていて、車やバイクの免許を取るために、毎日一生懸命練習されています。
見ていると、やはり怒られている場面もあります。
もちろん、教官の方も意地悪で怒っているわけではないと思います。
車もバイクも、一歩間違えれば大きな事故につながる乗り物です。
安全確認、停止位置、発進、右左折、低速での安定。
そういうものを体に染み込ませるには、ある程度厳しく言われることも必要なのでしょう。
昭和の時代の教習を知っている人からすれば、今はずいぶん優しくなったのかもしれません。
昔はもっと理不尽に怒られた、という話もよく聞きます。
でも、そうは言っても、できれば怒られたくないですよね。
しかも自動車学校は、決して安くありません。
安くない料金を払って、時間を作って通っている。
それなのに、うまくできなくて怒られてばかりだと、気持ちが重くなる人もいると思います。
「バイクの免許は欲しい」
「でも教習所で怒られるのは嫌だ」
「できれば最初から、少しでもうまくやりたい」
そんな人もいるのではないでしょうか。
では、自動車学校で教官に、
「お、君うまいね」
と言われるには、どうしたらいいのか。
これは、最初から速く走ることではありません。
派手な操作を覚えることでもありません。
大事なのは、教習所で見られているポイントを、先に少し知っておくことです。
怒られるところには、必ず理由がある
教習所で先生が強く言う時があります。
それは、単に機嫌が悪いからではないと思います。
多くの場合、そこには理由があります。
安全確認をしない。
止まるべきところで止まらない。
急に飛び出す。
周りを見ずに進む。
クラッチやブレーキ操作が雑で、バイクが不安定になる。
こういうことは、教習所の中では小さな失敗で済むかもしれません。
でも、公道に出れば事故につながります。
先生が怒るのは、そこが絶対にやってはいけないことだからです。
怒られた時に、
「なんでそんなに言うんだろう」
「ちょっと失敗しただけなのに」
と思うこともあるかもしれません。
でも、その場面で本当に大事なのは、怒られたことそのものではありません。
なぜ怒られたのかを理解することです。
安全確認を忘れたからなのか。
止まる位置が悪かったのか。
スピードが出すぎていたのか。
周りを見ずに動いたのか。
そこを理解できる人は、次に同じ失敗をしにくくなります。
教習所での注意は、公道に出てから事故を起こさないためのものです。
だから、怒られないことだけを目指すのではなく、
「これは絶対にやってはいけないことなんだ」
「ここを直せば安全に近づくんだ」
と受け取れると、上達も早くなります。
怒られるのは誰でも嫌です。
でも、その理由がわかれば、ただ嫌な時間ではなくなります。
安全を体に染み込ませるための、大事なサインになります。
怒ってくれる人がいるうちだけが伸びる
もうひとつ、教習所で大事だと思うことがあります。
それは、怒ってくれる人がいるうちだけが伸びる、ということです。
もちろん、怒られるのは嫌です。
誰だって気持ちのいいものではありません。
でも、バイクは失敗に容赦がありません。
少し大げさに言えば、人に慣れていない熊を飼っているようなものかもしれません。
うまく付き合えば、これほど楽しいものはありません。
自由で、気持ちよくて、人生を豊かにしてくれる乗り物です。
でも、扱い方を間違えれば、容赦なく牙をむきます。
安全確認が遅い。
止まる位置が悪い。
曲がり方が雑。
ブレーキの使い方が危ない。
周りを見ていない。
そういう小さなミスが、公道では大きな事故につながることがあります。
教習所のインストラクターは、生徒がその「熊」に食べられたりしないように、先回りして怒ってくれているのだと思います。
「そこは危ない」
「それはやってはいけない」
「今のまま外に出たら事故になる」
そうやって、まだ安全な場所にいるうちに止めてくれる。
公道に出てしまえば、危ないことをしても、誰もその場で教えてくれないことが多いです。
安全確認が遅くても、止まる位置が悪くても、曲がり方が雑でも、ブレーキの使い方が危なくても、先生が横から止めてくれるわけではありません。
そのまま事故につながるかもしれません。
あるいは、事故にならなかったとしても、自分では危ないクセに気づかないまま乗り続けるかもしれません。
教習所では、まだ失敗できます。
一本橋で落ちても、クランクで足をついても、エンストしても、先生が見ています。
危ない操作をした時には、その場で注意してくれます。
これは、考え方によってはとてもありがたいことです。
大人になると、怒ってくれる人は減っていきます。
特にバイクに乗り始めてからは、自分の乗り方を本気で注意してくれる人は、そう多くありません。
だからこそ、教習所で怒られる時間は、ただ嫌な時間ではなく、伸びるための時間でもあります。
怒られた時に、
「また怒られた」
で終わるのか。
それとも、
「今のは何が危なかったんだろう」
「どこを直せばいいんだろう」
「これを今言ってもらえてよかった」
と思えるのか。
そこでも上達の差が出ると思います。
怒ってくれる人がいるうちは、まだ直せます。
見てくれる人がいるうちは、まだ伸びます。
教習所は、免許を取るだけの場所ではありません。
危ないクセを、外の世界に持ち出さないための場所でもあります。
そう考えると、先生に怒られることも、少し受け止め方が変わるのではないでしょうか。
教習所で見られるのは、速さではなく丁寧さ
バイクに乗ったことがない人ほど、「うまい=速く走れる」と思いがちです。
でも、教習所で大事なのはそこではありません。
発進がガクンとならない。
停止が雑ではない。
曲がる時に慌てない。
安全確認を忘れない。
教官の指示を聞いて、次にちゃんと試してみる。
こういう部分です。
たとえば発進。
クラッチを急につなげば、バイクはガクンと出ます。
エンストもします。
でも、半クラッチを丁寧に使って、ゆっくり動き出せる人は、それだけで落ち着いて見えます。
停止も同じです。
止まるたびにガクンとなる人と、スーッと減速して最後に静かに止まる人では、印象がまったく違います。
教習所で「うまい」と見られやすいのは、荒く走る人ではなく、雑に扱わない人です。
視線が早い人は、バイクが安定する
もうひとつ大事なのが、視線です。
バイクは、見ている方へ進みやすい乗り物です。
目の前のパイロンや白線ばかり見ていると、そこに吸い寄せられるようにフラつきます。
クランクやS字が苦手な人は、だいたい手前を見すぎています。
怖くなると、つい足元や前輪の近くを見てしまう。
すると、余計にバイクが不安定になります。
逆に、曲がる先を見る人は安定します。
今いる場所ではなく、次に行きたい場所を見る。
出口を見る。
進みたい方向を見る。
これだけで、バイクはかなり扱いやすくなります。
これは教習所に入ってからでも教わりますが、入る前から意識しておくとかなり違います。
低速バランスが苦手だと、最初につまずきやすい
教習で多くの人が苦労するのは、スピードが出ている時ではありません。
むしろ、ゆっくり走る時です。
一本橋。
クランク。
S字。
坂道発進。
発進と停止。
このあたりでフラついたり、足をついたり、エンストしたりします。
バイクは、ある程度スピードが出ると安定します。
でも、低速では自分でバランスを取らないといけません。
だから、教習前に少し意識しておくなら、低速バランスです。
とはいえ、公道で勝手にバイクの練習をする必要はありません。
もちろん、無免許でバイクに乗るのは絶対にだめです。
おすすめは、自転車です。
自転車で、できるだけゆっくりまっすぐ走る。
曲がる時に、曲がる先を見る。
止まる直前までフラつかないようにする。
これだけでも、かなり練習になります。
バイクと自転車は別物ですが、低速でバランスを取る感覚、視線の使い方、体の力を抜く感じは共通する部分があります。
原付でも自転車でも、毎日乗ると変わる
教習前にできることとして、もうひとつ大きいのが「毎日乗ること」です。
もちろん、無免許でバイクに乗るという意味ではありません。
乗れる範囲でいいのです。
原付に乗れる人なら原付。
自転車でも十分です。
毎日少しでも乗っている人は、やはりバランス感覚が変わります。
発進する。
止まる。
曲がる。
人や車の動きを見る。
路面の状態を感じる。
雨の日や風の日の怖さを知る。
こういうことは、頭で覚えるより、日々の中で体に入っていくものです。
特に自転車は、バイクと同じではありませんが、低速でバランスを取る感覚、視線の使い方、ブレーキのかけ方、曲がる時の体の向きなど、共通する部分があります。
原付に乗っている人なら、さらに交通の流れを見る力も身につきます。
「次にあの車が出てきそうだな」
「この交差点は見通しが悪いな」
「ここは急に歩行者が出てくるかもしれないな」
こういう予測は、教習所でも、公道に出てからでも大事になります。
バイクは、乗った時間がすべてではありません。
ただ、毎日乗っている人と、まったく乗っていない人では、やはり差が出ます。
体が乗り物の動きに慣れている。
目線が止まっていない。
止まる、曲がる、避けるという動きに慌てにくい。
これは大きいです。
だから、これからバイクの免許を取ろうと思っている人は、まず自転車でもいいので、できるだけ日常的に乗ってみるといいと思います。
遠くへ行く必要はありません。
速く走る必要もありません。
大事なのは、毎日少しでも乗り物に乗ること。
そして、ただ乗るのではなく、丁寧に発進して、丁寧に止まって、少し先を見て走ることです。
それだけでも、教習所に入った時の入り方はかなり変わると思います。
手足の役割を頭に入れておくだけでも違う
バイクの教習で最初に混乱するのが、操作の多さです。
右手はアクセルと前ブレーキ。
左手はクラッチ。
右足は後ろブレーキ。
左足はギアチェンジ。
車の運転とは違って、手足を別々に使います。
しかも発進の時には、クラッチをつなぎながらアクセルを少し開ける。
減速の時には、ブレーキをかけながらクラッチを切る。
停止前には、ギアを落とす。
最初は当然、頭が忙しくなります。
でも、教習前にこの役割だけでも知っておくと、かなり違います。
実際に乗った時に、
「ああ、これは左手の仕事だな」
「これは右足のブレーキだな」
と整理しやすくなります。
完璧に覚える必要はありません。
ただ、バイクは右手、左手、右足、左足がそれぞれ別の仕事をしている乗り物だと知っておくだけで十分です。
体の力を抜ける人は上達が早い
教習で緊張すると、多くの人はハンドルを強く握ります。
肩に力が入り、腕が突っ張ります。
すると、かえってバイクは曲がりにくくなります。
ちょっとしたフラつきにも過剰に反応して、さらに不安定になります。
バイクは腕力で押さえ込む乗り物ではありません。
むしろ、ハンドルは軽く持つくらいの方が安定します。
もちろん、最初から力を抜くのは難しいです。
でも、教習前に少し意識しておくだけでも違います。
軽いスクワット。
股関節まわりのストレッチ。
握って開いての軽い握力運動。
肩を回して力を抜く。
その程度で十分です。
特別なトレーニングをする必要はありません。
大事なのは、「腕だけでバイクにしがみつかない」という感覚です。
うまい人ほど、自己流を一度捨てた方がいい
これは、すでにバイクに乗った経験がある人ほど大事かもしれません。
自分がバイクの免許を取ったのは高校生の頃でした。
その頃は、全日本モトクロスにも出ていて、バリバリに走っていた時期です。
当然、自分では「バイクには乗れる」と思っていました。
ところが教習所で先生に言われたのです。
「うまいけど、肘が上がってるよ。脇を閉めて」
こちらとしては、
「ええ? モトクロスの時は、もっと肘を上げろって言われるんですけど」
という感覚です。
さらに、
「後ろブレーキを引きずってる。それ、やめて」
とも言われました。
モトクロスでは、後ろブレーキを使って姿勢を作ったり、車体を安定させたりする場面があります。
でも、教習車で教習所の課題を走る時には、それが必要とは限りません。
その時に思いました。
これは、この教習車に乗る時は、普段やっていることを一度忘れないといけないな、と。
バイクは同じでも、目的が違えば乗り方も変わります。
モトクロスにはモトクロスの正解があります。
サーキットにはサーキットの正解があります。
ツーリングにはツーリングの正解があります。
そして教習所には、教習所の正解があります。
教習所で求められるのは、速く走ることではありません。
攻めることでもありません。
車体を振り回すことでもありません。
決められた場所で止まる。
安全確認をする。
安定して低速で走る。
指示された通りに操作する。
公道に出た時に危なくない基本を身につける。
そこが目的です。
だから、経験者ほど注意が必要です。
「自分は乗れる」
「普段はこうしている」
「こっちの方が走りやすい」
そう思ってしまうと、教習所ではかえって直されることが増えます。
でも、それは下手だからではありません。
その場に合っていない乗り方をしているだけです。
うまい人ほど、本当は切り替えができます。
今は教習所だから、教習所の乗り方をする。
今は教習車だから、このバイクに合った操作をする。
今は免許を取るため、安全の基本を学ぶ時間だと割り切る。
これができる人は強いです。
教習所では、自己流を証明する必要はありません。
先生に勝つ必要もありません。
自分の経験を見せつける必要もありません。
一度、言われた通りにやってみる。
その上で、
「ああ、この場面ではこういう乗り方が必要なんだな」
と理解することです。
バイク経験者が教習所でつまずくとしたら、技術がないからではなく、切り替えができないからかもしれません。
教習所では、教習所の乗り方をする。
これは初心者だけでなく、経験者にも大事なことだと思います。
教官に好かれる人は、最初からうまい人ではない
ここは意外と大事です。
教習所で教官に良い印象を持たれる人は、最初から完璧な人ではありません。
むしろ、注意されたことをすぐ試す人です。
「目線をもっと先に」と言われたら、次の周回で先を見る。
「クラッチを急につながない」と言われたら、次の発進で丁寧にやってみる。
「確認が遅い」と言われたら、次は少し早めに確認する。
それができる人は、教える側から見てもかなり教えやすいです。
逆に、自己流が強い人は苦労しやすいです。
バイク経験がある人でも、教習所では速さよりも、安全確認、基本操作、指示通りに走ることが大事です。
「自分は乗れる」と思っていても、確認が雑だったり、停止位置がずれたり、自己流のクセが強かったりすると、注意されることは増えます。
教習所では、うまく見せようとするより、素直に直せる人の方が上達します。
教習前にやっておくといいこと
教習所に入る前に、特別な練習をする必要はありません。
でも、やっておくと楽になることはあります。
自転車でゆっくり走る。
原付に乗れる人なら、丁寧な発進と停止を意識する。
曲がる先を見るクセをつける。
バイクの手足の役割を知っておく。
軽く体を動かしておく。
肩の力を抜く意識を持つ。
このあたりです。
反対に、やらない方がいいこともあります。
友達のバイクで勝手に練習する。
空き地で無免許で乗ってみる。
動画だけ見て自己流を覚え込む。
速く走ることをうまさだと思い込む。
これはおすすめしません。
危ないですし、変なクセがつくと、教習所で直すのにかえって時間がかかります。
怒られないためではなく、伸びる人になるために
教習所に行く前から、全部できる必要はありません。
最初はエンストしてもいいです。
一本橋で落ちてもいいです。
クランクで足をついてもいいです。
坂道発進で慌ててもいいです。
それを練習するために教習所があります。
ただ、少しだけ準備しておくと、最初のつまずきは減らせます。
そして教官から見ても、
「この人はちゃんと話を聞く」
「この人は操作が雑じゃない」
「この人は伸びそうだ」
と思われやすくなります。
自動車学校で、
「お、君うまいね」
と言われたいなら、目指すべきは速さではありません。
丁寧に発進する。
丁寧に止まる。
曲がる先を見る。
低速で慌てない。
言われたことを素直に試す。
そして、怒られた時には、ただ落ち込むのではなく、
「これは絶対にやってはいけないことなんだ」
「ここを直せば、事故に近づかなくて済むんだ」
と理解すること。
さらに、経験者であればあるほど、自己流を一度横に置くこと。
その場には、その場の正解があります。
教習所には、教習所の目的があります。
そこを押さえるだけで、教習の入り方はかなり変わります。
バイクは、最初が少し不安で当たり前です。
でも、最初から完璧である必要はありません。
大事なのは、うまく見せることではなく、うまくなっていく準備ができていることです。
免許を取る前から、バイクはもう始まっています。
まずは安全に。
そして丁寧に。
それが、教習所で「お、君うまいね」と言われる一番の近道かもしれません。