
先日、クルマで阪神高速から京滋バイパスに抜けて走っていて、ふと思いました。
「これ、バイクだったら相当しんどいぞ」
高速道路というと、信号もない、交差点もない、一定速度で走れる。
一般道より楽で安全なイメージがあります。
でも実際に都市部を走ってみると、そんなに単純ではありません。
合流したと思ったら、次の分岐のために車線変更。
場所によっては、一番左の車線から短い距離のうちに2車線、3車線と移動しなければ目的の方向へ行けないこともあります。
その横では、別のクルマが反対方向へ車線変更しようとしている。
前は渋滞。
流れ始めれば一気に速度が上がる。
クルマで走っていても、かなり頭を使います。
これをバイクで全部処理するとなると、相当な負担になるのではないでしょうか。
高速道路は「速い」だけでなく「判断が多い」
都市部の高速道路で大変なのは、速度そのものだけではありません。
短い時間の中で判断する回数が多い。
前を見る。
後ろを見る。
隣を見る。
標識を見る。
ナビを見る。
合流車を見る。
車線を変える。
前が詰まれば減速する。
流れればまた速度を上げる。
ひとつひとつは難しいことではありません。
でも、それを何度も繰り返します。
100km/hなら1秒で約28m進みます。
「あのクルマ、こっちへ来るかな」
と1秒考えている間にも約28m進む。
一般道を60km/hで走っている時とは、同じ判断でも使える時間が違います。
安全のための車間が「入れるスペース」に見える
バイクでは十分な車間距離を取ることが大切です。
ところが交通量の多い高速道路では、その空間が周囲のクルマから見ると、
「ここなら入れる」
というスペースにも見えます。
車間を空ける。
クルマが入る。
もう一度車間を作る。
すると、また別のクルマが入る。
「バイクは割り込まれやすい」
という話をよく聞きますが、四輪側から走ってみると理由も分かります。
相手も意地悪で入っているとは限りません。
この先で車線を変えなければならない。
そこにちょうどスペースがある。
だから入る。
しかし、そのスペースはライダーが安全のために意図して作った余裕だったりします。
つまり高速道路では、
「安全のために作った余裕を、何度も作り直さなければならない」
ということが起こります。
これだけでも結構疲れます。
バイクは横から見ると、意外なほど見えにくい
もうひとつ気になったのが、側方からの見え方です。
バイクは正面からならヘッドライトがあります。
でも車線変更の場面では、相手の横や斜め後ろにいることが多い。
そこではヘッドライトの存在感はかなり薄くなります。
車体も小さい。
ミラーの中で占める面積も小さい。
ピラーやミラーの死角に、バイクが丸ごと入ってしまうこともあります。
そして複雑な高速道路では、
バイクは右へ行きたい。
隣のクルマは左へ行きたい。
そんなことが普通に起こります。
お互いが同時に車線変更を始めれば、側方接触につながります。
四輪同士なら車体を擦って終わるような接触でも、バイクは少し押されただけでバランスを失う可能性があります。
高速道路では、そこからが怖い。
転倒したら、それで事故が終わるとは限らない
今回、高速道路をクルマで走っていて何度も思いました。
「ここでバイクが転んだら大変だな」
後ろから次々にクルマが来ています。
転倒したバイクを最初の一台が避けられなければ、その後ろも急ブレーキや進路変更を強いられる。
しかも1台で終わるとは限りません。
バイクは転倒した瞬間、身体そのものが高速道路の交通の中にさらされます。
後続車。
ガードレール。
中央分離施設。
ワイヤロープ。
路面を滑るだけで済むとは限りません。
昔から船乗りの言葉に、
「板子一枚下は地獄」
というものがあります。
船底の板一枚を隔てた下は海。
高速道路を走るバイクにも、どこか似たものを感じます。
タイヤが接地している間は何事もありません。
でも一度転倒すれば、状況は一気に変わる。
高速道路では「転ばない」ということの重さが、一般道とはかなり違うのではないでしょうか。
初めての道では、さらに「どっちだ?」が加わる
そして今回走っていて、もうひとつ強く感じたことがあります。
初めて走る道です。
慣れた道なら、
「この先で右へ寄っておこう」
「ここから分岐する」
と、先の展開がある程度分かっています。
ところが初めての道では、
「次はどっちだ?」
「この車線で合っているのか?」
「えっ、右だったっけ?」
という進路判断までしなければなりません。
実はこれについても興味深い研究があります。
高速道路のジャンクションを使った日本の研究では、分岐付近に判断しなければならない情報が集中すると、運転者の負荷が増え、それが分岐部での急減速につながる可能性が示されています。
逆に、進むべき方向を早い段階で分かりやすく示すと、進路を認識するタイミングが早くなり、運転負荷が減って急減速の要因も改善しました。
つまり、
「どっちだったっけ?」
というのは、単に道に迷っているだけではありません。
それ自体が運転者の頭にもうひとつ仕事を増やしているということです。
「ここで行かないと」が一番怖い
さらに怖いのが、判断が遅れた時です。
「あ、右だった!」
「ここで車線を変えないと!」
そう気づいた瞬間、今度は焦りが加わります。
時間的な焦りを与えて実際の道路で車線変更を行わせた研究では、通常時と比べて、周囲を確認する前にステアリング操作を始め、そのあとで周囲を見る傾向が確認されています。
安全確認が遅れ、ウインカーの操作など一連の行動が短い時間の中に詰め込まれることも報告されています。
別の2026年の研究でも、時間的なプレッシャーが強くなると、速度超過や車線変更の回数が増える一方、それほど大きな時間短縮にはつながらないことが確認されています。
これはかなり重要だと思います。
普段なら、
ウインカーを出す。
後ろを見る。
横を見る。
十分なスペースを確認する。
それから移動する。
そうしている人でも、
「ここで行かないと間に合わない」
という状況になると、その順序や余裕が崩れる可能性がある。
問題は、道を間違えることではありません。
道を間違えそうになったことで焦り、普段ならしない判断をしてしまうことです。
なお、こうした研究の多くは四輪を対象にしたものです。
バイクでまったく同じように起きると断定はできません。
ただ二輪の場合は、そこに車体のバランスや加減速、周囲から見落とされやすいという条件まで加わります。
少なくとも、
「自分はバイクだから大丈夫」
と考える理由にはならないでしょう。
だから「間違えたら、そのまま行く」
ここから考えると、高速道路でかなり重要な安全技術がひとつ見えてきます。
「間に合わなければ、行かない」
ということです。
ナビが、
「右方向です」
と言っている。
でも右は3車線向こう。
クルマが並んでいて、今から安全に移る余裕がない。
だったら、そのまま行く。
出口をひとつ通り過ぎる。
次で降りる。
ナビにもう一度案内してもらう。
10分、20分余計にかかるかもしれません。
でも高速道路で一番避けたいのは、
「間違えた!」
と思った瞬間に、取り返そうとすることではないでしょうか。
道を間違えるのは失敗ではありません。
危険な車線変更をしてまで取り戻そうとする方が、ずっと大きな失敗になる可能性があります。
普通のツーリングとは違う走り方が必要になる
一般的なツーリングルートなら、
どう曲がるか。
どこを見るか。
路面をどう読むか。
そういうバイクを操る技術が重要になります。
でも複雑な高速道路では、
「どこにいるか」
「いつ動くか」
「相手から自分が見えているか」
「いつ諦めるか」
の比重が大きくなる。
次の分岐が右なら、かなり早い段階から右側へ移っておく。
一気に3車線横切らない。
四輪の真横や死角に長くいない。
前にクルマが入ってきても、また車間を作り直す。
分岐に間に合わなければ、そのまま行く。
都市部の高速道路で必要なのは、
「バイクを速く走らせる技術」
ではなく、
「危険になる状況をひとつずつ消していく技術」
なのだと思います。
そして、その走り方自体が頭を疲れさせる
ここが今回いちばん気になったところです。
こういう道路を走っていると、身体より先に頭が疲れてくるのではないでしょうか。
前を見る。
ミラーを見る。
隣を見る。
分岐を確認する。
ナビを見る。
前に入られる。
車間を戻す。
後ろから速いクルマが来る。
また位置を変える。
さらに初めての道なら、
「次はどっちだ?」
という判断まで加わります。
この小さな処理を何十回、何百回と繰り返す。
すると本人は、
「まだ疲れていない」
と思っていても、
気づくのが少し遅くなる。
判断が少し遅れる。
車間を戻すのが少し遅れる。
ミラー確認が少し雑になる。
そういう形で、認知の余裕が少しずつ減っていく可能性があります。
だから高速道路の疲労は、
「腰が痛い」
「腕が疲れた」
だけでは測れないのかもしれません。
頭が忙しい状態が続いたら、一度休む。
それも立派な安全運転だと思います。
15時台の事故も、少し違って見えてくる
以前調べたNEXCO東日本管内の二輪死亡事故では、
2026年上半期の7件のうち3件が15時20分から15時40分の間に発生していました。
もちろん、わずか7件です。
「15時台は危険だ」
と断定することはできません。
でも、もし朝から走っていたとしたらどうでしょう。
合流。
分岐。
割り込み。
車線変更。
渋滞。
急減速。
知らない道での進路判断。
そうした小さな処理を何時間も積み重ねた午後。
身体より先に、頭の余裕が減っていた可能性はないでしょうか。
事故が起きた瞬間だけを見るのではなく、
「その何時間も前から、認知の余裕が少しずつ削られていた」
と考えると、少し見え方が変わってきます。
だから休憩も、
疲れたから休む
ではなく、
疲れる前にリセットする。
そんな考え方が必要なのかもしれません。
高速道路で上手いライダーとは
高速道路では、速いことが上手いわけではありません。
何台抜いたかでもない。
最短ルートを間違えなかったことでもない。
危険な場所に長くいない。
相手に見えていない可能性を考える。
前の余裕を削られたら、もう一度作り直す。
分岐は早めに準備する。
無理なら行かない。
間違えたら、そのまま行く。
そして、疲れる前に休む。
そういう判断ができる人の方が、高速道路では上手いライダーなのかもしれません。
一般的なツーリングルートとは、少し違う走り方です。
高速道路では、限界まで使う技術よりも、
「限界からできるだけ遠いところに、自分を置き続ける技術」
の方が大切なのではないでしょうか。

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