
「俺が小さくなったのかなぁ」と言われて
実際にお店に来店されたお客様と話していると、若いころにバイクに乗られていて、数十年ぶりにリターンされる方から、こんなことを言われることがあります。
「今のバイクって、なんかすごく大きいですね。俺が小さくなったのかなぁ」
そう言われてみると、たしかにそうかもしれません。
80年代から90年代のバイクは、今のバイクほど大きく見えなかった記憶があります。
大型バイクでも、今のようにタイヤが太く、車体にボリュームがあり、どっしりとした存在感のあるものばかりではありませんでした。
今のバイクは、リアタイヤが180サイズ以上のものも珍しくありません。
フレームもスイングアームも太く、ブレーキも大きく、マフラーや触媒、安全装備、電子制御なども増えています。
見た目にも、昔のバイクよりずいぶん立派に感じます。
私たちは仕事として毎日バイクを見ているので、現代の大型バイクに見慣れてしまっています。
「大型バイクって、まあこういうものですよね」と思ってしまう部分もあります。
でも、お客様にそう言われて改めて思い返すと、たしかに昔のバイクはここまで大きくはなかったように思います。
小さく見えるのに、押すと重い
ところが面白いのは、昔のバイクは小さく見えるのに、実際に押し引きすると意外なほど重いことです。
修理などで80年代、90年代のバイクをお預かりして、工場内で移動させることがあります。
見た目は今の大型バイクほど大きくない。
むしろ、今見るとコンパクトに感じるものもあります。
それなのに、押してみると、
「なんか中に鉛でも入っているんじゃないか?」
と思うくらい重く感じることがあります。
これは本当に不思議です。
数字上の車重だけで考えると、そこまで重くないはずのバイクもあります。
特にRZなどの250クラスは、カタログ上の重量で見れば、今の感覚ではかなり軽い部類です。
それなのに、実際に押し引きすると、現代のバイクのような軽さを感じない。
軽いはずなのに、なんだか重い。
では、なぜそう感じるのでしょうか。
重さはカタログの数字だけでは決まらない
バイクの重さというのは、カタログに書かれた車重だけでは決まりません。
真っ直ぐ立っている時の重さ。
押した時の転がりの軽さ。
ハンドルを切った時の自然さ。
少し傾いた時に戻しやすいかどうか。
タイヤが路面をどう支えているか。
ブレーキをかけた時に、どれだけ安心して止まれるか。
こうした要素がすべて合わさって、私たちは「このバイクは軽い」「このバイクは重い」と感じているのだと思います。
旧車の場合、整備状態によっては、ホイールの回り方が重かったり、ブレーキが少し引きずっていたり、ステムの動きが渋かったりすることもあります。
チェーンの状態やタイヤの空気圧、タイヤの古さによっても、押した時の重さは大きく変わります。
つまり、車重が軽いからといって、必ずしも押し引きが軽いとは限りません。
傾いた時に「倒れようとする重さ」がある
昔のバイクで特に感じるのが、少し傾いた時の重さです。
真っ直ぐ立っている時はまだいいのですが、押し引きの途中で少し傾いた瞬間に、
「あっ、持っていかれる」
と感じることがあります。
この倒れようとする重さが、今のバイクより強く感じることがあるのです。
車重は数字で表せます。
でも、傾いた時に支える重さは体感です。
バイクは少し傾くだけで、腕や腰に一気に重さがかかります。
昔のバイクは、重心の位置、車体バランス、ハンドル位置、持った時の支えやすさなどが、今のバイクとは違います。
今のバイクは、ただ軽くなっただけではありません。
重心の置き方、マスの集中、ハンドル位置、車体のバランスなどがかなり考えられていて、少し傾いても戻しやすいものが多いです。
つまり、現代のバイクは「軽く作られている」だけでなく、軽く感じるように作られているのだと思います。
タイヤの進化がバイクを支えている
ここで忘れてはいけないのが、タイヤの違いです。
バイクを支えているのは、最終的にはタイヤです。
フレームやサスペンションがどれだけ良くても、路面に接しているのはタイヤだけです。
昔のタイヤと今のタイヤでは、性能が大きく違います。
グリップ力だけでなく、接地感、プロファイル、カーカスのしなやかさ、荷重がかかった時のつぶれ方、戻り方。
そういった部分が、今のタイヤはとても進化しています。
現代のタイヤは、バイクが少し傾いた時にも、路面をしっかり支えてくれる感覚があります。
だから、押し引きでも走行中でも、安心感が出ます。
一方で、古いタイヤや硬化したタイヤは、傾いた時に粘って支える感じが少なく、急に倒れ込むように感じることがあります。
旧車で「なんだか重い」「なんだか怖い」と感じる時、車体だけでなく、タイヤの年式や空気圧、銘柄もかなり重要です。
タイヤは単なる消耗品ではなく、バイクを支えている大事な部品です。
ここが変わるだけでも、押し引きや走行感は大きく変わります。
走ると速い。でも止まらない
旧車に乗って、もうひとつ強く感じるのがブレーキです。
RZやTZRなどを修理後に試乗すると、今でも加速は本当に刺激的です。
特に2ストは、ある回転から一気にパワーバンドに入り、軽い車体がロケットのように前へ出ます。
「これは今乗っても速いな」
と思うことがあります。
ところが、そのあとブレーキをかけると、
「あれ? 握ってるよね?」
となることがあります。
加速はロケット。
でもブレーキは、今の感覚だと本当に効かない。
大げさではなく、
「だれか止めてぇ」
と思うような感覚になることがあります。
もちろん、これは旧車が悪いという話ではありません。
その時代のブレーキ性能、タイヤ性能、フロントフォークの剛性、フレーム剛性、パッドやマスターシリンダーの性能が、今とはまったく違うということです。
昔のバイクは、エンジンの刺激に対して、止まる性能が今ほど安心できるものではありませんでした。
今のブレーキは、力ではなく指先で効かせるもの
今のバイクは、指一本でもしっかりブレーキが効くものが多いです。
ブレーキキャリパー、マスターシリンダー、ディスクローター、パッド、タイヤ、サスペンション、ABS。
これらがセットで進化しているので、少ない力で、正確に、安心して止まることができます。
昔のバイクは、力を入れて止めるもの。
今のバイクは、指先で減速をコントロールするもの。
この差はとても大きいです。
ブレーキ単体が良くなっただけではありません。
タイヤが受け止める。
サスペンションが姿勢を支える。
フレームが安定する。
ABSが万が一のロックを防ぐ。
こうした総合的な進化によって、今のバイクは安心して止まれるようになっています。
旧車で今のバイクと走る時に気をつけたいこと
だから、旧車で今のバイクと一緒に走る時は、少し注意が必要です。
怖いのは、ついていけないことではありません。
むしろRZやTZRのようなバイクは、加速だけなら今のバイクについていける場面もあります。
本当に怖いのは、そのあとです。
前を走る現代のバイクが普通にブレーキをかけた時、こちらは同じ距離では止まれないかもしれません。
現代のバイクは、タイヤもブレーキもサスペンションも優秀です。
本人は普通に減速したつもりでも、後ろを走る旧車にとってはかなり急な減速に感じることがあります。
旧車で現代車と一緒に走る時は、車間距離を多めに取る。
早めに減速する。
無理に同じブレーキポイントで走らない。
下りやワインディングでは、特に余裕を持つ。
これはとても大切です。
旧車は旧車のペースで走る。
これが、楽しく安全に乗るための大事な考え方だと思います。
昔のバイクには、今にない魅力がある
もちろん、旧車を否定したいわけではありません。
旧車には、今のバイクにはない魅力があります。
軽い車体に鋭いエンジン。
機械を直接操っているような感覚。
パワーバンドに入った時の高揚感。
今のバイクでは味わえない、荒々しさや緊張感。
その魅力は、やはり特別です。
昔のバイクに乗ると、バイクの楽しさの原点を感じることがあります。
ただ同時に、現代のバイクがどれだけ進化しているかも、旧車に乗るとよく分かります。
今のバイクは、大きく見えても扱いやすい
今のバイクは、大きく見えるものが多いです。
タイヤも太く、車体にもボリュームがあります。
安全装備や電子制御、排ガス対策の装備も増えています。
でも実際に押してみると、意外と軽く感じる。
傾いても戻しやすい。
走れば安定している。
ブレーキはよく効く。
タイヤはしっかり支えてくれる。
ABSもあり、万が一の時の余裕もあります。
これは、単に新しいから良いという話ではありません。
バイクという乗り物が、長い時間をかけて、
走る、曲がる、止まる、支える、扱う、という部分を少しずつ進化させてきたということだと思います。
バイクの進化は、速さだけではない
昔のバイクは小さく見える。
でも押すと重い。
傾くともっと重い。
走ると速い。
でも止まらない。
今のバイクは大きく見える。
でも動かすと軽い。
傾いても支えやすい。
速いだけでなく、止まることにも安心感がある。
どちらが良い、悪いではありません。
昔のバイクには昔の魅力があります。
今のバイクには今の安心感と扱いやすさがあります。
ただ、旧車に乗る時は、今のバイクと同じ感覚で走らないこと。
特に、止まる距離とタイヤの支え方には余裕を持つこと。
そして現代のバイクに乗る時は、今の技術が作ってくれている安心感を、当たり前と思いすぎないこと。
昔のバイクを知ると、今のバイクのすごさが分かります。
今のバイクを知ると、昔のバイクの味わいもより深く感じられます。
バイクの進化は、速さだけではありません。
押した時の軽さ。
傾いた時の支えやすさ。
ブレーキをかけた時の安心感。
タイヤが路面を支えてくれる信頼感。
そういう部分にこそ、時代の進化がはっきり出ているのだと思います。