
バイクに乗っていて、怖いと感じる瞬間はいくつかあると思います。
砂利が浮いた道でフロントが少し取られたとき。
道路の段差を越えたとき。
荒れた舗装で車体がフラッと動いたとき。
雨の日や濡れた路面で、タイヤの接地感が分かりにくいとき。
そんなとき、ついハンドルをギュッと握ってしまうことはないでしょうか。
怖いから、しっかり握る。
怖いから、身体を固める。
怖いから、バイクを押さえ込もうとする。
これはごく自然な反応だと思います。
でも実は、その「しがみつく動き」が、余計にバイクを怖くしていることがあります。
これはオフロードだけの話ではありません。
オンロードでも、スクーターでも、ツーリング中でも、バイクが少しフラッとした瞬間に起きることです。
ただ、この感覚が一番分かりやすく出るのが、オフロードだと思います。
土の上では、路面もバイクも少し動きます。
だから、バイクを力で押さえ込むより、バイクが自分の下で動くことを許す感覚がとても大事になります。
ハンドルは、つかまる棒ではない
バイクが少しフラついたとき、人は反射的にハンドルを強く握りたくなります。
もちろん、手を離すわけにはいきません。
ハンドル操作は大事です。
ただ、ハンドルは本来、身体を支えるための棒ではありません。
バイクに方向を伝えるためのものです。
腕を突っ張り、ハンドルに体重をかけ、前輪の動きを全部止めようとすると、かえってバイクの自然な動きを邪魔してしまうことがあります。
バイクは路面の小さな変化に対して、タイヤやサスペンションで受け流そうとしています。
前輪が少し逃げたり、サスペンションが沈んだり伸びたりすることで、バランスを取ろうとしています。
ところが、ライダーが怖がって身体を固め、ハンドルにしがみついてしまうと、その動きを人間が止めてしまいます。
すると、バイクが少し動く。
身体も一緒に動く。
怖くなる。
さらにハンドルを強く握る。
この悪循環に入りやすくなります。
これが一番分かりやすいのがオフロード
この「しがみつくと余計に怖くなる」という感覚が、特に分かりやすいのがオフロードです。
土の上では、舗装路のように路面が安定していません。
砂利で前輪が少し逃げる。
リアタイヤが少し滑る。
小さな石やギャップで車体が動く。
轍でハンドルを取られる。
これは、オフロードでは普通に起きることです。
オンロードでは「バイクが動く=怖い」と感じるかもしれませんが、オフロードでは、バイクが少し動くこと自体が当たり前です。
だから大事なのは、その動きを全部止めようとしないことです。
バイクを力で押さえ込むのではなく、バイクが自分の下で少し動くことを許してあげる。
タイヤとサスペンションに仕事をさせる。
ここが、オフロードを怖くしないための第一歩だと思います。
そしてこれは、林道や未舗装路だけの話ではありません。
段差を越えるとき。
荒れた舗装を走るとき。
砂利が浮いた道を通るとき。
道路の継ぎ目を越えるとき。
そういう普段の道でも、バイクの動きを邪魔しないという感覚は役に立ちます。
オフロードバイクを持っていても、土の上を走らない人は多い
オフロードバイクを持っている方でも、実際にオフロードを走っている方は、意外と少ないかもしれません。
でも、それは別におかしなことではありません。
4輪でも、SUVや4WDのクルマに乗っているからといって、みんなが本格的な悪路を走るわけではありませんよね。
オフロードバイクも、それに近いところがあると思います。
オフロードバイクの魅力は、泥だらけになって走ることだけではありません。
軽いこと。
視界が高いこと。
段差に強いこと。
街中でも扱いやすいこと。
そして、どこかへ行けそうな雰囲気があること。
それだけでも十分、オフロードバイクを選ぶ理由になります。
ただ、いざ未舗装路や林道のような場所へ入ってみると、
「なんか怖い」
「ハンドルを取られる」
「転びそう」
「足を出したくなる」
「オンロードと同じ乗り方でいいの?」
と感じる方も多いと思います。
その怖さを減らすために、まず覚えておきたいことがあります。
最初は3つだけでいい
オフロードの乗り方を細かく言い出すと、いろいろあります。
ステップ荷重。
母指球。
頭の位置。
肘の位置。
スタンディング。
サスペンションの使い方。
でも、最初から全部を意識すると、かえって身体が固まります。
初心者の方や、久しぶりに土の上を走る方は、まず3つだけでいいと思います。
シートに座り込みすぎない。
ハンドルを握りすぎない。
少し先を見る。
この3つだけでも、かなり怖さは変わります。
これはオフロードだけでなく、普段のバイク操作にもつながる基本です。

シートにどっかり座ると、バイクの動きに巻き込まれやすい
初心者ほど、座っていた方が安心に感じると思います。
足を出しやすい。
身体がバイクにくっついている。
低く構えているような気がする。
だから安定しているように感じます。
もちろん、止まるときや取り回しでは、足つきは大事です。
オフロードバイクを選ぶときに、足つきを気にされる方が多いのも自然なことです。
ただ、実際に土の上を走っている最中に大事なのは、すぐ足を出せることよりも、できるだけ足をステップに残したまま走れることです。
シートにどっかり座っていると、ギャップでリアサスが動いたとき、その衝撃がお尻や腰に直接来やすくなります。
バイクが跳ねると、身体も一緒に跳ねます。
すると怖くなって、反射的にハンドルを強く握ります。
ハンドルを強く握ると、前輪の自然な動きまで止めようとしてしまいます。
そして、さらに怖くなる。
こういう悪循環に入りやすくなります。
逆に、少しだけお尻を軽くして、ステップに体重を乗せる意識を持つと、バイクが自分の下で動きやすくなります。
これは、ずっと立って走れという意味ではありません。
荒れたところだけでも、少しお尻を浮かせる。
シートにどっかり体重を預けない。
足を出して支えるより、できるだけステップに足を残す。
これだけでもかなり違います。
完全に立たなくてもいい
オフロードというと、スタンディングで走るイメージがあるかもしれません。
もちろん、慣れてくればスタンディングはとても大事です。
でも、最初から完全に立ち上がって走る必要はありません。
むしろ初心者の方にとっては、いきなり立つ方が怖いかもしれません。
足が地面から遠くなる。
バイクが左右に振れたときに支えられない気がする。
ハンドルが遠く感じる。
そう感じるのは普通だと思います。
まずは、完全に立つのではなく、シートに座り込みすぎないこと。
お尻をほんの少し軽くすること。
ステップに体重を乗せる意識を持つこと。
それだけで十分です。
目的は、人間が全部の衝撃を吸収することではありません。
バイクのサスペンションが動けるようにすることです。
中腰は、人間が全部吸収するためではない
ここは少し誤解されやすいところです。
オフロードで中腰になるのは、人間が膝で全部の衝撃を吸収するためではありません。
本来、ギャップを処理するのはバイクのサスペンションです。
ライダーがやるべきことは、そのサスペンションの動きを邪魔しないことです。
シートに座り込み、腕を突っ張り、ハンドルにしがみつく。
この状態だと、ギャップでサスペンションが動こうとしても、人間の身体がその動きを邪魔してしまいます。
少しシートから体重を抜き、ステップに体重を乗せる。
すると、バイクが自分の下で動きやすくなります。
つまりオフロードの中腰は、ギャップに耐えるための姿勢ではありません。
バイクにギャップを処理してもらうための姿勢です。
人間が全部を吸収しようとするのではなく、サスペンションにきちんと仕事をさせる。
ここが大事です。
目線は、前輪のすぐ前ではなく少し先へ
オフロードでは、つい前輪のすぐ前を見たくなります。
石がある。
轍がある。
水たまりがある。
砂利がある。
気になるのは当然です。
でも、近くばかり見ていると、身体が固まります。
ハンドル操作も遅れます。
しかも、怖いものを見すぎると、バイクはそちらへ行きやすくなります。
大きな石を見すぎると、石へ。
水たまりを見すぎると、水たまりへ。
深い轍を見すぎると、轍へ。
だから、前輪のすぐ前ではなく、少し先の行きたい方向を見る。
これだけでも、バイクはかなり安定します。
これはオフロードだけではありません。
オンロードでも、近くを見すぎると操作が遅れます。
行きたい方向を見る。
怖いものを見つめすぎない。
これは、バイク全般に共通する大事な基本だと思います。
慣れてきたら、ステップは少しつま先寄り
最初から細かいことを全部意識する必要はありません。
ただ、少し慣れてきたら、ステップに足を置く位置も意識してみるといいと思います。
土踏まずでベタッとステップに乗ると、一見安定しているように感じます。
ただ、足首が固まりやすくなります。
足首が固まると、膝が前に入りにくくなります。
膝が前に入らないと、腰が後ろへ逃げやすくなります。
腰が後ろへ逃げると、上体が起き上がり、腕が伸びて、ハンドルにぶら下がるような姿勢になりやすいのです。
この姿勢になると、ギャップや加速で頭が遅れます。
フロントが軽くなり、前輪の接地感も薄くなります。
すると、さらに怖くなります。
そこで、荒れたところだけでも、少し母指球寄り、つまりつま先寄りでステップを踏む意識を持つと、足首や膝が使いやすくなります。
ただし、最初から完璧にやろうとしなくて大丈夫です。
ブレーキやシフト操作もありますし、慣れていないと不安に感じることもあります。
まずは、荒れた路面や少し腰を浮かせる場面だけでも、土踏まずでベタッと乗らず、少しつま先寄りでステップを踏んでみる。
そのくらいからで十分です。
最初から泥だらけを目指さなくていい
オフロードというと、泥だらけになって走るイメージがあるかもしれません。
でも、最初からそういう場所を走る必要はありません。
雨の日。
雨上がり。
水たまりが多い場所。
粘土質でぬかるんだ路面。
こういう場所は、バイクもウェアも一気に汚れますし、路面も滑りやすくなります。
初心者や久しぶりの方には、少し難易度が高くなります。
まずは、晴れが続いたあとの乾いた未舗装路。
水たまりの少ない場所。
締まった土や、軽い砂利道。
スピードを出さなくても、ただゆっくり土の上を走るだけで十分です。
土の上では、タイヤが少し動きます。
ハンドルも少し取られます。
バイクが自分の下で動く感覚があります。
まずは、その感覚に慣れること。
それが最初の一歩だと思います。
高いバイクが、勝手に走らせてくれるわけではない
オフロードでは、バイクの性能ももちろん大事です。
良いサスペンション。
軽い車体。
扱いやすいエンジン。
しっかりした足まわり。
そういうものは、やはり走りやすさにつながります。
ただし、高性能なオフロードバイクに乗れば、勝手に上手く走れるわけではありません。
どんなに良いサスペンションが付いていても、ライダーがシートに座り込み、ハンドルにしがみつき、バイクの動きを止めてしまえば、その性能は活きにくくなります。
逆に、小さなバイクでも、きちんとステップに乗り、バイクが下で動ける状態を作れていれば、思った以上によく走ることがあります。
大事なのは、高いバイクかどうかではありません。
今乗っているバイクに、ちゃんと仕事をさせることです。
この考え方は、オフロードだけでなくオンロードでも同じです。
高性能なバイクでも、ライダーが身体を固めてしまえば、本来の動きは出にくくなります。
逆に、バイクの動きを邪魔しない乗り方ができると、バイクはずっと扱いやすくなります。
速く走る必要はない
オフロードというと、どうしても上手い人の走りを想像してしまいます。
ジャンプ。
ドリフト。
スタンディング。
派手な走り。
でも、最初からそんなことをする必要はまったくありません。
歩くより少し速いくらいでもいい。
広い場所でゆっくり曲がるだけでもいい。
乾いた土の上を少し走るだけでもいい。
大事なのは、土の上でバイクが少し動く感覚に慣れることです。
滑ったから危ない、ではありません。
少し動くのがオフロードです。
その動きを全部止めようとせず、バイクが自分の下で少し動くことを許す。
そのために、シートに座り込みすぎず、ハンドルにしがみつかず、ステップに身体を乗せる。
ここが分かると、オフロードはかなり怖くなくなります。
いらぬ挑戦をしないことも大事
少し走れるようになると、つい試したくなります。
ちょっとした坂を登ってみたい。
水たまりに入ってみたい。
轍を越えてみたい。
少しスピードを上げてみたい。
もちろん、それが上手くいけば楽しいです。
オフロードの面白さも、そこにあります。
でも、失敗したときのダメージが大きいのもオフロードです。
転倒してレバーが折れる。
バイクの下敷きになる。
膝や肩を痛める。
帰れなくなる。
一緒に来た人に迷惑をかける。
そうなると、せっかく興味を持ったオフロードが、一度の失敗で嫌な思い出になってしまいます。
「オフをやってみたけど、ケガをしてやめた」
「やっぱりオフロードは危ない」
そう感じてしまう人もいると思います。
でも、本当はオフロードそのものが悪いというより、段階を飛ばしてしまったこと、リスクの大きい挑戦を早くしすぎたことが原因の場合も多いのではないでしょうか。
だから最初は、成功するかどうか分からないことに挑戦するより、失敗しても大ごとにならない範囲で慣れることが大事です。
行けるかどうか分からない坂には行かない。
深さの分からない水たまりには入らない。
戻れない場所には進まない。
疲れてから新しいことを試さない。
「今日はここまでで十分」
そう思える判断も、オフロードでは立派な技術だと思います。
オフロードは、怖くていい
オフロードを怖いと感じるのは、普通だと思います。
路面が動く。
タイヤが滑る。
バイクが左右に振れる。
転んだらどうしようと思う。
それは当然です。
でも、怖いからダメなのではありません。
怖いからこそ、速く走らない。
無理な場所へ行かない。
汚れすぎない日を選ぶ。
疲れる前にやめる。
そして、基本の姿勢を知っておく。
最初はそれで十分です。
オフロードバイクの楽しさは、泥だらけになって限界まで攻めることだけではありません。
少し土の上を走るだけでも、バイクの動き方が分かります。
ステップに乗る意味が分かります。
サスペンションが仕事をする感覚が分かります。
そしてそれは、オンロードでのバイクの扱い方にも必ずつながると思います。
段差を越えるとき。
荒れた舗装を走るとき。
砂利が浮いた道を通るとき。
雨の日に少し緊張するとき。
バイクにしがみつくほど、かえって怖くなることがあります。
大事なのは、人間が全部を吸収することではありません。
バイクにきちんと仕事をさせることです。
オフロードは特殊な遊びに見えるかもしれませんが、実はバイクの基本をとても分かりやすく教えてくれる場所でもあります。
速く走るより、楽しく帰ってくること。
それが、オフロードを楽しむための最初の基本であり、バイクそのものをもっと安心して楽しむための大事な感覚だと思います。