モータースポーツにリターンライダーするということ

—リターンとは「昔の自分に戻る」じゃない。「今の自分で成立させる」だ。

久しぶりにバイクを引っ張り出して、エンジンをかけた瞬間。
身体の奥が「まだ行ける」と言う。
でも、いざ走り出すと別の声も聞こえる。
「昔と同じようにはいかないぞ」と。

この違和感は、弱くなったからではありません。
あなたの人生が変わったからです。

若い頃は、少々雑でも速ければ正解——そんな感覚を持っていた方も多いと思います。

「どこに行くかわからない、行先はバイクに聞いてくれ」

10代20代の自分もそうでした、まず勢いが大事だろ?多少ラインが外れようが、速ければ正義、全開全開。


けれどこの年になって振り返ってみるとそこで“だからダメだった部分”が見えてくる。
それが今だから分かる。今ならこういうアプローチもあるよね?
リターンライダーの価値は、まさにここにあります。

モトクロス、エンデューロ、ミニバイクレースなど、かつてモータースポーツを楽しんでいた方が、久しぶりにリターンする——そんなお話をよく聞きます。

ただ、そんな年になって今更どうするの?という意見は周りから聞こえてきます。


そして私自身もそうですが、「年を重ねた今、どんなスタンスで再開すればいいのか」に悩む方は少なくないと思います。


怪我=人生と仕事の損失が一気に大きくなる

若い頃は、怪我は「経験」でした。
プロを目指すならなおさら、怪我なんか気にしていられない。
たとえプロじゃなくても、配偶者もいない、養う子供もいない、仕事の責任も今ほど重くない。
痛くても、治ればまた走れた。

でも今は違います。
転倒のダメージは“痛み”で終わりません。回復が遅く、長引くことも増えます。
仕事に穴が空く。家庭に負担が出る。周りにも迷惑がかかってしまう。

だから50代の復帰は、勇気よりも先に 「成立条件」 が必要になります。
走りを続けるために、転倒を「仕方ない」にしない。そこが出発点です。


目的が変わっている

昔:限界を上げる(結果が最優先)
今:長く続ける(継続が最優先)

ここを取り違えると、復帰は一瞬で終わります。
「今日の1本で取り返す」みたいな走り方は、若さが前提のギャンブルだからです。

リターンライダーの目的は、言い換えるとこうです。
“今日勝つ走り”ではなく、“10年楽しむ走り”。
これは妥協ではありません。むしろ上級者の思想だと思います。

速さは、続けた人にしか残りません。
続けるためには、勝ち方を変える必要があります。


リスク許容度が変わる

配偶者・家族・会社・お店…。
背負っているものが増えるほど、転倒の許容回数はゼロに近づきます。

若い頃の「転ぶのも練習」は、成立していました。
でも今は、転倒は“学び”より先に“失うもの”が大きい。

だから結論はシンプルで、でも少し厳しい。
「転ぶのは仕方ない」ではなく、「転ぶ前に止める」が正解です。

ここで言う“止める”は、怖がって引くことではありません。
判断力の話です。

  • 気持ちが上がりすぎたら、1段落とす
  • 疲れて精度が落ちたら、その日を終える
  • 成功率が読めない動き(飛び/突っ込み)は今日はやらない

これを「逃げ」と捉える人ほど転びます。
これを「手順」と捉えられる人ほど上手くなります。


技術の方向性も変える、変えないと成立しない

速さを作る技術より、まず 転倒しない技術(入口、荷重、疲労管理、撤退判断) を磨く。
これがリターンライダーの最優先です。

若い頃は、ミスを反射で帳尻合わせできました。
だから雑さが隠れる。「速いから正しい」に見える。
でも年齢を重ねると、その帳尻合わせが効きません。雑さがそのまま転倒につながります。

だから磨くべきは、派手なテクニックではなく、地味だけど強い “転ばない仕組み” です。

  • 入口(進入)で勝つ:入る速度を抑える/ブレーキを早める/姿勢を崩さない
  • 荷重で走る:腕ではなく体幹とステップで、タイヤに仕事をさせる
  • 疲労管理:最後の2本が一番危ない。だから“やめ時”が技術になる
  • 撤退判断:ミスったら粘らず一回捨てる。直進→減速→立て直す

これは守りではなく、実は 上達の最短ルート です。
転ばない=練習回数が増える。
練習回数が増える=精度が育つ。
精度が育つ=結果として速くなる。

上手くいかないならなぜなのかをよく調べてみる、自分の走りを動画に撮って客観的に分析する。

今の時代だからこそできるアプローチがたくさんあるはずです。


50代以上は「根性」ではなく、マネジメント競技へ

走り・装備・練習量・疲労・家庭と仕事のバランスまで含めて、成立させた人が勝ち(=続く)。
そういう競技になっていきます。

そしてもうひとつ大切なことがあります。
モータースポーツにリターンするということは、昔と同じことをすることではありません。
過去の自分を追いかけて「戻す」作業ではなく、いまの自分なら何ができるかという課題に挑戦することです。

若い時は、バイクで強くなる。
でも今は、バイクで 自分を整え直す
怖さや痛みや責任を無視せず、それでも走る。
そのために、自分の走りを設計する。

この感覚は、普通の公道ライダーにもそのまま通じます。
公道だって同じで、最後に残るのは派手さではなく、判断・余白・撤退ができる人です。

あなたがライダーであり、チーム監督であり。トレーナーであり、さらにメカニックであり、マネージャーです。


そして、昔の自分に言ってやりたくなる

この年になってまだ走ってて、自分なりに課題に挑戦していると、時々、ふと思うんです。


10代のころの、昔の自分に言ってやりたい。
「どうだ。今の俺も、年の割には悪くないだろう」と。

昔みたいに無茶はできない。
でも時間がたち、無茶をしないで走れるようになった。
怖さも痛みも責任も、全部わかった上で、それでも走れるようになった。

それは、昔の速さとは違う種類の強さ。

昔とはもう全然違うカテゴリーになってしまうかと思いますが、今の自分が自分の中で、自分史上で最高。

そう思えるのがモータースポーツを続ける上での楽しさ、大事なモチベーションだと思います。


締め

モータースポーツに限らずに、リターンライダーとは、昔に戻る人ではありません。
今の自分で、もう一度“走りを作れる人” のことです。
そしてその作り直しこそが、若い頃より深いモータースポーツの入口になる——
私たちYSP大分は、そう考えています。

ある程度の年齢になると、物事を再開する、新たに始めるというのは、それが、もう最後のチャンスになるかもしれません。もしやりたいなら、若い頃とは違うやり方でしっかりと楽しんでくださいね!