TRACER9 GT+ Y-AMTが似合う人

バイク乗りには、少し不思議な感覚があります。
1000キロ走って、コーヒーを飲む。
1000キロ走って、ラーメンを食べる。
バイクに乗らない人からすると、たぶん意味がわからないと思います。
「近くで飲めばいいじゃないですか」
「近所にもラーメン屋さんはありますよ」
そう言われれば、確かにその通りです。
でも、バイクに乗る人なら、なんとなくわかる方もいるのではないでしょうか。
目的は、コーヒーそのものではない。
ラーメンそのものでもない。
そこまで走ったこと。
その距離を自分の身体で越えたこと。
遠くの景色の中に、自分とバイクがいること。
その先で飲む一杯だから、特別になる。
その先で食べる一杯だから、忘れられない。
バイクには、そういう衝動があります。
用事があるわけではない。
誰かに頼まれたわけでもない。
ただ、道が続いているから、その先まで行ってみたくなる。
「もう少し先まで行ってみよう」
「せっかくだから、あそこまで走ってみよう」
「今日は、ちょっと遠くまで行ってみたい」
そんな気持ちにさせてくれるのが、バイクという乗り物だと思います。
そして、TRACER9 GT+ Y-AMTは、まさにそういう衝動を持っている人にこそ、向いているバイクではないかと思います。
近所を走るだけなら、ここまでの装備はいらないかもしれない
TRACER9 GT+ Y-AMTを見ると、いろいろな反応があると思います。
「値段が高い」
「オートマは面白くなさそう」
「ACCまで必要なのか」
「電子制御が多すぎる」
「普通のミッションの方が楽しい」
そう感じる方もいるでしょう。
それはそれで自然な反応だと思います。
近所を少し走る。
昼前に出て、近場のカフェに行く。
軽く峠を流して、夕方前には帰ってくる。
そういう使い方なら、確かにここまでの装備はいらないかもしれません。
クラッチもシフトも自分で操作したい。
バイクはシンプルな方がいい。
自分の手足で操っている感覚が楽しい。
その気持ちもよくわかります。
ただ、バイクの評価は、どんな走り方を前提にするかで大きく変わります。
TRACER9 GT+ Y-AMTは、近所を少し走る人よりも、朝から距離を走り、高速道路を何時間も走り、知らない道を走り、夕方に疲れた状態で帰ってくる人にこそ、価値が見えてくるバイクだと思います。
いわゆる、距離を走る人。
遠くまで行きたい人。
バイクでどこまでもどこまでも走っていきたい人。
そういう人にこそ、乗ってもらいたいバイクです。
高速道路を数時間走ると、右腕は静かに削られる
長距離ツーリングで疲れるのは、峠道を走っている時だけではありません。
むしろ、高速道路を淡々と数時間走るような場面で、体は静かに削られていきます。
アクセルを大きく開けているわけではない。
軽く一定に保っているだけ。
それなのに、時間が経つと右の前腕がじわじわ固まってくる。
ひどい時には、攣りそうになることもあります。
これは強く握っているからだけではありません。
同じ手首の角度で、同じ筋肉を長時間使い続けているからです。
速度を保つ。
前の車に合わせる。
上り坂で少し開ける。
下り坂で少し戻す。
前走車が少し遅くなったら戻す。
車間が空いたら、また少し開ける。
ひとつひとつは小さな操作です。
でも、1時間、2時間、3時間と続くと、その小さな操作の積み重ねが大きな疲労になります。
右腕が疲れると、ブレーキ操作にも影響します。
手首が固くなる。
指の動きが鈍くなる。
肩に力が入る。
姿勢が崩れる。
視線が近くなる。
疲労は、ただ体がきついだけではありません。
判断力や反応にも影響してきます。
だからこそ、TRACER9 GT+ Y-AMTに搭載されているACC、アダプティブクルーズコントロールの意味が出てきます。
ACCは、普通のクルコンの進化版
クルーズコントロールは、高速道路ではとても便利な装備です。
右手でアクセルを一定に保ち続けなくても、設定した速度で巡航してくれる。
長距離ではかなりありがたい装備です。
ただし、普通のクルーズコントロールは、基本的には「自分のバイクの速度を一定に保つ装備」です。
前の車が速度を落とした時には、自分で気づいて解除したり、ブレーキをかけたり、設定速度を変えたりする必要があります。
高速道路では、前の車の速度は思った以上に一定ではありません。
100km/hで走っているように見えても、実際には95km/hになったり、90km/hになったり、また戻ったりします。
こちらはクルコンで一定速度。
前の車はじわっと減速。
気づかないうちに、前走車との距離が詰まっている。
これは普通のクルコンを使っていると、意外と起こりやすいことだと思います。
その点、ACCは前走車との距離を見ながら速度を調整してくれます。
TRACER9 GT+ Y-AMTのACCは、車体前方のミリ波レーダーで先行車の有無や車間を検知し、定速巡航・減速・加速を自動的に行う装備です。つまり、普通のクルコンが「速度を保つ装備」だとすれば、ACCは「車間を見ながら速度を保つ装備」と言えると思います。
これは大きな違いです。
普通のクルコンは、右手の疲労を減らしてくれる装備。
ACCはそれに加えて、車間管理の負担も減らしてくれる装備。
まさにクルコンの進化版です。
もちろん、ACCがあるから前を見なくていいわけではありません。
割り込み、急な渋滞、カーブ、雨、路面状況など、最終的に判断するのはライダーです。
ただ、長距離で疲れてきた時に、知らないうちに車間が詰まっていくリスクを減らしてくれる。
その意味では、ACCは快適装備でありながら、安全余力を残す装備でもあると思います。
Y-AMTは、スクーターのオートマとは違う
もうひとつ、このバイクで誤解されやすいのがY-AMTです。
「オートマ」と聞くと、スクーターを思い浮かべる方も多いと思います。
スクーターは、アクセルを開けるとエンジン回転が上がり、ベルト式の無段変速で速度が乗っていきます。
これはこれで便利ですが、スポーツバイクが好きな人からすると、ギアがつながる感覚や、自分で操っている感覚が薄いと感じることもあるでしょう。
そのため、
「オートマなら面白くないのでは」
「それならスクーターでいいのでは」
「クラッチ操作がないとバイクらしくない」
という反応が出るのもわかります。
ただ、Y-AMTはスクーターのCVTとは違います。
ヤマハのY-AMT紹介では、クラッチレバーがなく、シフトペダルの代わりに左ハンドルのシーソー式レバーで直感的なシフト操作ができ、右ハンドルのAT/MT切り替えボタンで自動変速にも切り替えられる仕組みとして説明されています。
つまり、スクーターのように無段変速で走るというより、マニュアルミッションのクラッチ操作とシフト操作を機械が代わりに行ってくれる仕組み、と考えた方が近いと思います。
ギアはあります。
変速もあります。
エンジン回転と車速がつながる感覚もあります。
だから「スクーターのオートマ」と同じ感覚で見ると、少し違うのではないかと思います。
操作の楽しさが消えるのではなく、楽しさの場所が変わる
もちろん、クラッチ操作やシフト操作そのものが好きな方もいます。
クラッチを握る。
左足でシフトする。
回転を合わせる。
ギアを選ぶ。
それもバイクの楽しさです。
ただ、バイクの楽しさはそれだけではありません。
どこでブレーキを抜くか。
どのラインを通るか。
どのタイミングでアクセルを開けるか。
車体がどう沈み、どう向きを変え、どう立ち上がるか。
荷重がどこに乗っているか。
そういう部分も、バイクの大きな楽しさです。
Y-AMTは、バイクの楽しさをなくす装備ではなく、楽しさの場所を少し変える装備なのかもしれません。
クラッチ操作やシフト操作の負担を減らすことで、ライン取りや荷重、ブレーキ、アクセルワークに意識を向けやすくなる。
特に長距離では、その意味が大きくなります。
元気な時なら、何でも自分でできます。
クラッチもシフトも楽しい。
アクセル操作も苦にならない。
でも、朝から数百キロ走って、帰りに渋滞に入った時。
疲れた状態で市街地に戻ってきた時。
高速を降りて、信号の多い道に入った時。
その時のクラッチ操作やシフト操作は、けっこう体力と集中力を削ります。
高速ではACCで右手を助ける。
渋滞や市街地ではY-AMTで左手と左足を助ける。
この組み合わせに、TRACER9 GT+ Y-AMTの大きな意味があると思います。
これは「楽をしたい人」のバイクではない
ACCやY-AMTという言葉だけを見ると、楽をするためのバイクに見えるかもしれません。
でも、私は少し違うと思います。
これは、楽をしたい人のためのバイクというより、もっと遠くまで行きたい人のためのバイクではないでしょうか。
バイクで遠くへ行きたい。
できることなら、どこまでも走っていきたい。
でも、疲労は必ずやってくる。
右腕は固まり、肩は張り、集中力は少しずつ削られていく。
帰り道になると、視線が近くなる。
ミラーを見る回数が減る。
車間の変化に気づくのが遅れる。
若い頃なら、多少無理をしても走れたかもしれません。
夜勤明けでツーリングに行く。
フェリーで帰ってきて、そのまま仕事に行く。
高速道路の風圧に延々耐えながら、遠くまで走る。
そういうことができた時期もあったと思います。
でも、年齢を重ねると、無理はそのままリスクになります。
だからこそ、余力を残すことが大事です。
TRACER9 GT+ Y-AMTの先進装備は、ライダーを甘やかすものではなく、ライダーが最後までライダーでいるための装備。
最後まで集中して、安全に帰ってくるための装備。
そう考えると、見え方が大きく変わります。
距離を走る人ほど、このバイクの意味がわかる
近所を少し走るだけなら、ここまでの装備はいらないかもしれません。
でも、一日中走る人。
高速を何時間も走る人。
県境を越えて、知らない道まで行く人。
夕方になって、疲れた状態で帰ってくる人。
それでも、また次の休みに遠くへ行きたくなる人。
そういう人にとって、ACCやY-AMTは贅沢装備ではなく、かなり実用的な装備だと思います。
価格だけを見ると高く見える。
オートマという言葉だけを見ると面白くなさそうに見える。
電子制御が多いと、バイクらしさが薄く見える。
でも、前提が違うのです。
近所を走る前提で見るのか。
遠くまで走り、疲れても安全に帰ってくる前提で見るのか。
その違いで、このバイクの評価は大きく変わると思います。

気になる方は、レンタルで体感してみるのもおすすめです
Y-AMTについては、言葉で説明してもなかなか伝わりにくい部分があります。
「オートマって、スクーターみたいな感じでは?」
「クラッチ操作がないと面白くないのでは?」
「ACCやY-AMTが本当に必要なのか、乗らないとわからない」
そう感じる方も多いと思います。
だからこそ、気になる方は一度レンタルで体感してみるのもおすすめです。
現在、ヤマハ バイクレンタルでは「Y-AMTレンタル体感キャンペーン」が実施されています。
キャンペーン期間中、ヤマハ バイクレンタル会員には、対象機種のレンタル基本料金に使える**「Y-AMTシリーズ 基本料金1万円OFFクーポン」が付与されます。対象機種は、MT-07 Y-AMT、MT-09 Y-AMT、TRACER9 GT+ Y-AMTの3機種で、クーポン利用期間は2026年4月27日から6月30日出発分まで**となっています。
Y-AMTは、頭で考えるよりも、実際に乗ってみた方が理解しやすい装備だと思います。
特にTRACER9 GT+ Y-AMTは、短時間の試乗だけではなく、ある程度の距離を走ってこそ見えてくるものがあります。
高速道路を走る。
渋滞を抜ける。
ワインディングを走る。
帰り道に少し疲れてくる。
その中で、ACCやY-AMTがどう効いてくるのか。
右手や左手の疲労がどう変わるのか。
ライダーの余力がどれくらい残るのか。
そこは、ぜひ体感してみていただきたいところです。
1000キロ走って、コーヒーを飲む人へ
極端に言えば、1000キロ走って、コーヒーを飲む。
1000キロ走って、ラーメンを食べる。
そんな感覚がわかる人に、TRACER9 GT+ Y-AMTは似合うと思います。
遠くのコーヒーが飲みたいのではなく、遠くまで走った先でコーヒーを飲みたい。
遠くのラーメンが食べたいのではなく、そこまで走り切った先でラーメンを食べたい。
目的地は、コーヒーやラーメンだけではない。
そこまで走る時間そのものが、もう目的なのだと思います。
TRACER9 GT+ Y-AMTは、近くの目的地に楽に行くためだけのバイクではありません。
遠くまで行きたい気持ちを支えてくれるバイク。
「今日はここまででやめておこう」ではなく、
「もう少し先まで行ってみよう」
と思える余力を残してくれるバイク。
バイクで、どこまでもどこまでも走りたい。
そんな衝動を持っている人にこそ、ぜひ一度向き合ってもらいたい一台です。
バイクの楽しさは、クラッチを握ることだけではありません。
シフトペダルを踏むことだけでもありません。
遠くへ行くこと。
道を越えること。
疲れても、最後まで集中して帰ってくること。
その先で飲む一杯のコーヒーが、なぜか忘れられない味になること。
そういう楽しさを知っている人には、TRACER9 GT+ Y-AMTの価値が、きっと違って見えるのではないかと思います。