メカニックブログキャブ車は本当に面白くて、FI車はつまらないのか?

「キャブ車は面白い」
「インジェクション車はつまらない」

バイク好きなら、一度は聞いたことがある言葉ではないでしょうか。

たしかに、昔のキャブ車に乗ると、今のバイクにはない味を感じることがあります。

始動する時にチョークを引く。
暖まるまで少し気を使う。
気温や湿度、標高によって調子が変わる。
アクセルの開け方によって、エンジンの反応も変わる。

そういう意味では、キャブ車には「機械と対話している感じ」があります。

では、本当にキャブだから面白くて、FI、つまりインジェクションだからつまらないのでしょうか。

私は、少し違うと思っています。

むしろ大きいのは、キャブかFIかという方式の違いよりも、昔のバイクと今のバイクが背負っている条件の違いではないでしょうか。

特に大きいのは、排ガス規制や騒音規制です。

現代のバイクは、排ガス、騒音、燃費、耐久性、扱いやすさ、保証対応など、さまざまな条件を満たしながら作られています。

その結果、昔のバイクにあった荒々しさや濃い味が、少し丸められている。

私は、FIそのものが面白さを消しているのではなく、現代のバイクが背負っている条件によって、昔のような荒々しさが出しにくくなっているのだと思います。

面白さの正体は、キャブそのものだけではない

キャブ車が面白いと言われる理由は、キャブという部品そのものだけではないと思います。

むしろ大きいのは、キャブ時代のバイクが、今ほど厳しい排ガス規制や騒音規制に縛られていなかったことではないでしょうか。

昔のバイクは、今よりも燃料を濃いめに使うことができました。
排気音や吸気音にも、今ほど厳しい制約がありませんでした。

エンジンの荒々しさ。
回転の盛り上がり。
少し雑な反応。
開けた時の力感。

そういうものが、今よりも残っていました。

それを私たちは、まとめて「キャブ車の味」と感じている部分があるのだと思います。

しかし厳密に言えば、それはキャブだけの味ではなく、その時代のエンジン全体の作り方の味でもあります。

FIは、つまらない仕組みではない

ここは誤解されやすいところですが、FIそのものは決してつまらない仕組みではありません。

むしろ、燃料を正確にコントロールするという意味では、キャブよりも非常に優れています。

回転数、スロットル開度、水温、吸気温、気圧など、さまざまな条件を見ながら燃料を制御できる。
さらに現代のバイクでは、点火時期や電子制御スロットル、トラクションコントロール、走行モードなどとも組み合わせることができます。

つまりFIは、本来なら、

開け始めを穏やかにする。
中間トルクを太くする。
高回転の伸びを重視する。
立ち上がりで扱いやすくする。
路面状況に合わせた特性にする。

といったように、目的に応じてエンジン特性を作りやすい仕組みです。

競技用のモトクロッサーなどを見ても、FIだからつまらないということはありません。
むしろ今のFI車は、目的に合わせてエンジン特性を作るという点では非常に優れています。

キャブの方がパワーが出る、は本当なのか

たまに、

「キャブ車の方がパワーがあるんでしょ?」

と言われることがあります。

しかし、パワーだけを見れば、私はFIの方が出しやすいと思います。

もちろん、昔のキャブ車には荒々しい力感がありました。
アクセルを開けた時の吸気音や排気音、少し雑な反応、濃いめの燃調によるパンチ感。

そういうものが、体感として「パワーがある」と感じさせることはあります。

でも、それは必ずしも実際の最高出力が高いという意味ではありません。

FIは、燃料をより正確にコントロールできます。
回転数やスロットル開度ごとに、必要な燃料を細かく入れることができます。

さらに点火時期や吸気、電子制御スロットルなどとも組み合わせれば、狙った出力特性をかなり細かく作れます。

ですから、排ガス規制や騒音規制、耐久性、燃費などを考えずに、純粋にパワーを出すことだけを考えるなら、FIの方が有利だと思います。

ただし、バイクの面白さは最高出力だけではありません。

特にモトクロスでは、最大パワーが出れば速いというわけではありません。
どれだけ馬力があっても、リアタイヤが空転して前に進まなければ意味がない。

大切なのは、路面に対してどれだけトラクションするかです。

つまり、

キャブ車の方がパワーがあるのではなく、キャブ時代のバイクにはパワー感や荒々しさが残っていた。
しかし、実際に狙ってパワーを出す能力でいえば、FIの方が優れている。

そう考えた方が近いと思います。

モトクロスのセッティングは、最大パワーを出すためではない

ここからは、私自身のモトクロス経験による感覚でもあります。

モトクロスのセッティングは、単純に最大パワーが出ればよいというものではありません。

どれだけパワーがあっても、リアタイヤが空転して前に進まなければ意味がない。
コーナーの立ち上がりでリアが逃げてしまえば、タイムにはつながりません。

大切なのは、その日の路面で、いかに最高のトラクションを得るかです。

たとえば、カチパンと呼ばれる硬く滑りやすい路面では、あえてエンジンの出方をマイルドにすることがあります。
急にドンと出る特性では、リアが逃げてしまうからです。

逆にサンドでは、回転が落ち込んだ時にしっかり前へ押し出す力が必要になります。
マッドでは、滑らせすぎず、しかし止まらないように、粘りとつながりが求められます。

つまり、国際クラスのモトクロスでは、

カチパンにはカチパンの燃調。
サンドにはサンドの燃調。
マッドにはマッドの燃調。

そういう考え方がありました。

最大パワーを狙うのではなく、路面に対して一番トラクションする状態を探す。
これがモトクロスのセッティングだったと思います。

昔の2ストキャブは、経験と勘の世界だった

昔の2ストキャブ車は、セッティングがなかなか難しいものでした。

メインジェット、スロージェット、ニードル、クリップ段数、エアスクリュー、油面。
そこに気温、湿度、標高、路面状況、エンジンの状態、ライダーの開け方まで関係してきます。

濃いのか、薄いのか。
下が合っていないのか、中間なのか、上なのか。
プラグの焼け、排気音、煙、吹け上がり、戻り方。

そして実際に走った時、リアタイヤが食っているのか、逃げているのか。

そういうものを見ながら、経験と勘で正解に近づけていく世界でした。

合っていないと、かぶる。
息つきする。
上が回らない。
下がない。
急にドンと出てリアが逃げる。
逆にマイルドすぎて、サンドや泥で前に出ない。

でも、ピタリと合った時は本当に気持ちいい。

エンジンがただ回るのではなく、リアタイヤが路面をつかみ、バイクが前へ進む。
その感覚こそが、モトクロスにおけるセッティングの面白さだったと思います。

ただし、それは同時に難しさでもありました。

昨日良かったセッティングが、今日も正解とは限らない。
気温や湿度、路面が変わるだけで、また違ってくる。

そう考えると、今のFIは目的の特性を得るには非常にやりやすい仕組みです。

キャブは、機嫌を探るセッティング。
FIは、狙った性格を作るセッティング。

特にモトクロスでは、FIになったことで、最大パワーだけではなく、トラクションを得るためのエンジン特性を作りやすくなった。
ここが大きな進化だと思います。

4ストキャブ時代は、思ったほど自由に特性を作れなかった

モトクロスでも、1998年ごろから本格的に4スト化が進み、2013年ごろまではキャブレターの時代が続きました。

その代表的なキャブが、FCRのような高性能キャブです。

FCRは、決まれば本当に気持ちよく走ります。
アクセルに対する反応も鋭く、4ストエンジンの力強さをしっかり引き出すことができます。

ただ、正直に言うと、2ストキャブ時代のように、自由にエンジン特性を操るほどの調整ができたかというと、私はそこまでは感じませんでした。

もちろん、これは私自身がその頃にはすでに現役を離れていたこともあります。
当時のトップレベルの現場では、もっと深いノウハウがあったはずです。

それでも、実際の感覚としては、4ストキャブのセッティングはなかなか難しかった。

濃いか薄いか。
開け始めでついてくるか。
中間で谷がないか。
上まできれいに回るか。
加速ポンプの効き方はどうか。

そうした「調子を合わせる」「ベストな状態を探す」ことはできます。

しかし、2スト時代のように、路面に合わせてエンジンの出方をもっと積極的に変える。
カチパンではマイルドにする。
サンドでは押し出しを強くする。
マッドでは滑らせすぎず、止まらないように粘らせる。

そういう意味で、エンジン特性を自在に作るというところまでは、4ストキャブでは簡単ではなかったように思います。

FCRは非常に優れたキャブですが、どこかを変えると別の領域にも影響します。

開け始めを良くしようとすると、中間にも影響する。
中間を太くしようとすると、上の伸びや濃さにも影響する。
加速ポンプを効かせれば反応は良くなる反面、ドン付きや扱いにくさにもつながる。

つまり4ストキャブは、その条件で一番良い状態を探す道具ではありました。
しかし今のFIのように、開け始め、中間、高回転、路面ごとの出方を細かく作り分ける道具ではなかったと思います。

そう考えると、FI化は単なる始動性や環境性能のためだけではありません。

モトクロスにおいては、最大パワーを出すだけでなく、路面に合わせてトラクションを作るためのエンジン特性を、より狙って作れるようになったという意味で、大きな進化だったと思います。

ロードバイクの4気筒でも考え方は同じ

これはモトクロスや単気筒だけの話ではありません。

ロードバイクの4スト4気筒でも、基本的には同じことが言えると思います。

昔の4気筒キャブ車は、エンジンが一番気持ちよく回るところを探すセッティングでした。

低速のつながりを良くする。
中間の谷を消す。
高回転の伸びを出す。
レスポンスを鋭くする。

そういうことはできます。

しかしキャブの場合、やはり全体のバランスの中で一番良い落としどころを探す作業になります。

一方で今のFI車は、単に調子を合わせるだけではありません。

低回転・小開度は穏やかに。
中回転・中開度は扱いやすく。
高回転・大開度ではしっかり伸びるように。
1速や2速だけ出力の出方を丸める。
レインモードではさらに穏やかにする。
スポーツモードでは反応を鋭くする。

こうしたことが、かなり細かく設計できます。

今のロードバイクでは、FIはトラクションコントロール、ウイリー制御、クイックシフター、エンジンブレーキ制御、走行モードなどとも関係しています。

つまり、昔のキャブ車はエンジン単体の気持ちよさを探す世界。
今のFI車は、ライダーが使いやすい出力の出し方まで作る世界。

そういう違いがあると思います。

FIでキャブ車のような特性は作れないのか

では、もし排ガス規制や騒音規制を一切考えなくてよいとしたら、FIでキャブ車のようなエンジン特性は作れないのでしょうか。

私は、かなり近いものは作れると思います。
むしろ、狙ったエンジン特性を作るという意味では、FIの方がキャブよりも自由度は高いはずです。

FIは、回転数、スロットル開度、水温、吸気温、気圧などを見ながら、燃料や点火を細かく制御できます。
現代のバイクでは、電子制御スロットルや走行モードとも組み合わせることができます。

ですから、

低回転では穏やかにする。
中間は太くする。
高回転では伸びるようにする。
開け始めだけ少し鋭くする。
逆に滑りやすい路面では、あえてマイルドにする。

こうした特性を、FIではかなり狙って作ることができます。

つまり、キャブ車に近い走りの特性をFIで再現することは十分可能だと思います。

ただし、完全に同じにはならないと思います。

キャブは、吸気の流れや負圧によって燃料が吸い出される仕組みです。
アクセルを開けた時の吸気流速、燃料の霧化、混合気の状態、気温や標高による変化。
そうした少し曖昧な部分が、キャブ独特の味になっています。

一方でFIは、センサーで状態を読み、ECUが燃料を計算して噴射します。
非常に正確ですが、キャブのように吸気の流れそのものに燃料が引っ張られる感じとは違います。

なので、

エンジン特性としての結果はFIでかなり再現できる。
しかし、キャブがその結果に至る過程や曖昧さまで完全に同じにはならない。

ということだと思います。

たとえば、FIでキャブ車のようなトルクカーブやレスポンスを作ることはできます。
あえて濃くする。
点火を変える。
電子制御スロットルの開き方を変える。
補正の入り方を調整する。

そうすれば、かなり近い走りは作れるはずです。

ただ、チョークを引いて始動する感じや、気温で少し機嫌が変わる感じ、吸気の流れに燃料が乗ってくるような曖昧さは、キャブならではのものです。

つまりFIで、同じように走るエンジンは作れても、キャブそのものの味まで完全に再現するのは難しい。

それでも、モトクロスのように「その日の路面で最高のトラクションを得る」ことを目的にするなら、FIの方がはるかに有利だと思います。

カチパンでは、リアが逃げないようにマイルドにする。
サンドでは、回転落ちからしっかり押し出す。
マッドでは、滑らせすぎず、止まらないように粘らせる。

そうした目的に対して、FIは燃料や点火を細かく作り込めます。

最大パワーを出すためではなく、リアタイヤが路面をつかみ、バイクが前へ進むためのエンジン特性を作る。

この意味では、FIはキャブの面白さを消した装置ではありません。
むしろ、走りの目的に合わせてエンジンを作れる、非常に優れた仕組みなのだと思います。

面白さを丸めているのは、FIではなく現代の条件

では、なぜ今のFI車をつまらないと感じる人がいるのでしょうか。

それは、FIそのものが原因というより、現代の市販車が背負っている条件が大きいと思います。

排ガス規制。
騒音規制。
燃費。
耐久性。
保証。
誰が乗っても扱いやすいこと。
急にドンと出ないこと。
低速でもギクシャクしないこと。

メーカーは、これらをすべて満たしながらバイクを作らなければなりません。

その結果、昔のバイクにあった荒々しさや濃い味が、少し丸められている。

開けた瞬間のパンチ。
吸気音や排気音の迫力。
回転の荒々しい盛り上がり。
少し危なっかしいけれどクセになる反応。

そういうものが、現代の市販車では出しにくくなっています。

つまり、面白さを消しているのはFIそのものではありません。

FI車が背負っている、排ガス規制や騒音規制、燃費、耐久性、扱いやすさといった条件が、昔のバイクにあった荒々しさを少しスポイルしている。

そう考えたほうが、実態に近いと思います。

キャブ車の味、FI車の価値

もちろん、キャブ車にはキャブ車の良さがあります。

チョークを引いて始動する。
暖機しながらエンジンの様子を見る。
気温や標高で調子が変わる。
セッティングが合った時の気持ちよさがある。

そして、キャブ車には匂いの記憶もあります。

今の感覚で言えば、排気ガスが濃いことは決して良いことではありません。
環境にも体にも、良いとは言えないでしょう。

それでも、エンジンをかけた時に排気ガスに混じるガソリンの濃い匂い、暖機中の少しむせるような匂いは、昔のバイクを知る人にとっては強く記憶に残っています。

音、振動、排気の匂い、暖機の時間。
そうしたものまで含めて、キャブ車の味として感じている部分があるのだと思います。

バイクに乗っている時間だけでなく、バイクと付き合っている時間まで含めて楽しむ。
そういう趣味性の濃さがキャブ車にはあります。

一方で、FI車にはFI車の大きな価値があります。

始動性が良い。
気温や標高に左右されにくい。
燃費が良い。
扱いやすい。
狙ったエンジン特性を作りやすい。
安全装備や電子制御とも組み合わせられる。

これは、現代のバイクとして非常に大きな進化です。

まとめ

「キャブ車は面白い、インジェクション車はつまらない」

この言葉は、気持ちとしてはわかります。

ただ、正確に言えば、キャブという方式そのものが面白さを生んでいるというより、キャブ時代のバイクが今ほど厳しい規制や商品性に縛られていなかったことが大きいのだと思います。

そして、FIそのものは、決してつまらない仕組みではありません。

むしろ、狙ったエンジン特性を作りやすい優れた仕組みです。

昔のキャブ車には、荒々しさや機械との対話の面白さがありました。
今のFI車には、正確さ、扱いやすさ、目的に合わせて特性を作れる面白さがあります。

特にモトクロスの世界では、セッティングは最大パワーを出すためだけのものではありません。
カチパン、サンド、マッド、それぞれの路面で最高のトラクションを得るために、エンジン特性を作るものです。

その意味では、FIはキャブよりもはるかに自由度の高い道具です。

キャブは、バイクの機嫌を読みながら付き合う楽しさ。
FIは、走りの目的に合わせて性能を引き出す楽しさ。

どちらが上という話ではありません。

ただ少なくとも、FIだからつまらないというのは少し違うと思います。

現代のFI車が少し大人しく感じるとすれば、それはFIそのもののせいではなく、排ガス規制や騒音規制、燃費、耐久性、扱いやすさといった現代の条件に合わせて作られているからです。

だから私は、

キャブ車が面白くてFI車がつまらないのではなく、昔のバイクには昔の面白さがあり、今のバイクには今の面白さがある。

そう考えています。

皆さんはどう感じますか?

キャブ車の機械らしい味が好きですか。
それとも、今のFI車の正確さや扱いやすさに進化を感じますか。