
昔の大型バイクは4気筒が特別だった
大型バイクというと、やっぱり4気筒。
そう感じる方は今でも多いと思います。
実際、それにはちゃんと理由があります。
昔は4気筒の大型バイクが、まさに憧れの中心でした。
XJR1200やFZR1000のように、見た目の迫力もあるし、性能も高いし、「これぞ大型バイク」という特別感があったんですよね。
なので、今でも4気筒に特別な価値を感じる方が多いのは自然なことだと思います。
古い考え方というより、4気筒が本当に特別だった時代を知っているからこそです。
それでもヤマハは3気筒を主力にした
ですが、その4気筒の良さをよく知っているはずのヤマハが、今はCP3という3気筒エンジンを大型バイクの中心にしています。ヤマハはMTシリーズで、低中回転域の力強さと俊敏さを重視する「Torquey & Agile」の考え方を掲げており、現行MT-09でもCP3を低回転からのトルクと軽快さの核として打ち出しています。XSR900でも幅広い回転域での力強さを特徴として案内しており、狙いはかなり一貫しています。
これは4気筒がダメだから、ではないはずです。
4気筒の良さをわかったうえで、それでも3気筒を選ぶ理由があった。
そこが大事なところだと思います。
スペックの魅力と、実際によく使う場面での魅力は少し違う
4気筒のよさは、なめらかさや高い回転まで回したときの気持ちよさです。
一方で3気筒のよさは、もっと普段の走りの中でわかりやすく出てきます。
言い方を変えると、スペックや高回転の魅力では4気筒に強みがある。
その一方で、一般道やワインディングのような主要な走行場面を考えると、低中回転での扱いやすさや立ち上がりの気持ちよさでは3気筒に利がある。
そんな見方ができると思います。ヤマハ自身も4気筒ではなくCP3に、低回転からのトルク、リニアな反応、軽快さという価値を与えています。
3気筒の良さは、普段の走りでわかりやすいこと
たとえば信号からの発進。
街中で少しアクセルを開けたとき。
坂道。
追い越し。
カーブを曲がったあとの立ち上がり。
そういう場面で、あまりエンジンを回さなくてもスッと前に出てくれる。
ここが3気筒の大きな魅力です。
よく「トルクがある」と言いますが、難しく考えなくて大丈夫です。
簡単に言えば、アクセルを開けたときに無理なく自然に前へ進んでくれる感じです。
「もう少し回さないと進まないな」
「ギヤを落としたほうがいいかな」
そういう場面が少なくなるので、乗っていてラクですし、気持ちにも余裕が出ます。ヤマハもCP3について、MT-09では低回転からの高トルク、XSR900では幅広く力強い出力特性を案内しています。
4気筒に力がないわけではありません
ここは誤解のないようにしたいところですが、4気筒に力がないわけではもちろんありません。
4気筒にも十分な力があります。
ただ、良さが出やすい場所が少し違うんですね。
4気筒は低い回転ではとてもなめらかで上品ですし、回していくほど音や伸びの気持ちよさが増していきます。
つまり4気筒は、回していったときに「やっぱりいいな」と感じやすいエンジンです。
それに対して3気筒は、普段よく使うところで「これ気持ちいいな」と感じやすいエンジンだと思います。
一般公道やワインディングでは、この違いが出やすい
この差は、一般公道やワインディングでよりわかりやすい気がします。
サーキットのように、ずっと高い回転を使えるわけではない一般道では、発進や再加速、カーブの立ち上がりでどれだけ自然に前へ出るかが、乗っていての気持ちよさにつながります。
ワインディングでも同じです。
減速して、向きを変えて、また少しずつアクセルを開けていく。
そのとき、低い回転からしっかり前に出てくれるエンジンのほうが、走りのリズムを作りやすいんです。
難しく考えなくても気持ちよく走れる。
これは一般道で楽しむバイクとして、かなり大きな価値だと思います。
エンジンがコンパクトだと、バイク全体も扱いやすくなる
3気筒の良さは、エンジンのフィーリングだけではありません。
作りとしても4気筒よりコンパクトにしやすいのが特徴です。
もちろんメーカーがエンジン単体の重さを細かく出していることは少ないので、「何kg軽い」とまでは簡単に言えません。
でも、気筒が1本少ないぶん、全体を細くまとめやすいのは確かです。
エンジンがコンパクトになると、バイク全体もスリムにしやすくなります。
するとまたがった感じが自然だったり、取り回しがしやすかったり、カーブでも軽く感じやすかったりする。
こういうところも、3気筒が今の大型バイクに合っている理由のひとつだと思います。ヤマハもMT-09系で軽さとコンパクトさを繰り返し訴求しています。
モトクロスの昔の話も、少し重なるものがあります
興味深いのは、モトクロスでも昔、ホンダが125ccの2気筒マシンRC125MTを試していたことです。
モトクロスは小排気量ゆえ、単気筒を使うのですが、単気筒だからこそ路面をしっかりとらえる特性があるのです。そこにさらなるパワーを狙って多気筒のエンジンを持ち込んだのです。
RC125MTは1980年に実戦投入され、佐藤健二選手らファクトリーライダーによって走らせられましたが、1981年にFIMがツインシリンダーを禁止したため、プロジェクトは打ち切られました。
ですので、「2気筒だからダメだった」と単純に言うことはできません。
大きかったのはレギュレーション変更です。
ただ、この話が示しているのは、気筒数を増やしたり変えたりすれば、それだけで実戦で有利になるわけではない、ということでもあると思います。紹介記事でも、多気筒モトクロッサーには低速トルク、耐久性、パッケージングなどの課題があったことに触れられています。つまり使用状況を考えればそこまで大きなメリットがなかったということなのでしょう。
そして実際、その後のモトクロスでは単気筒エンジンが主流として使われ続けています。
それは、オフロードで求められるのが、単純なピークパワーの大きさだけではなく、軽さ、扱いやすさ、立ち上がりの出やすさ、そして全体のまとまりだからではないでしょうか。
速さは、最高速やピークパワーだけでは決まらない
これは私自身、モトクロスで感じていることとも重なります。
YZ250Fなどでコースを走ってラップタイムを計っていると、高回転寄りのセッティングにするよりも、中低速をしっかり使えるようにしたほうがタイムが出やすいことがあります。
そのほうがカーブからの立ち上がりでリズムが出やすく、乗っていても気持ちがいいんですね。
しかも面白いのは、長いストレートでの最高速が少し低いときでも、最速ラップが出ていたりすることがあることです。
これってすごく大事なことを示している気がします。
速さというと、つい最高速やピークパワーを思い浮かべがちですが、実際にはそれだけでは決まりません。
大事なのは、カーブからどれだけ自然に前へ出られるか。
無理なくアクセルを開けられるか。
車体の動きが乱れず、次の動きにつながりやすいか。
そういう流れのよさが、結果として速さにつながっていくんだと思います。
しかも、そのときは乗っていて気持ちがいい。
つまり「気持ちよく走れる」というのは、ただの気分ではなく、速く走るためにも大事なことなんですよね。
大型バイクの一般道走行とも、方向性はかなり共通している
もちろん、モトクロスと大型バイクの一般道走行がそのまま同じというわけではありません。
速度域も、使う場所も、求められるものも違います。
ただ、実際によく使う回転域で気持ちよく前に出られること、立ち上がりで流れを作りやすいこと、無理なく扱えることが大切という意味では、求められる方向性にはかなり共通点があるように思います。
ピークでどれだけすごいか。
最高速がどこまで伸びるか。
それも魅力のひとつではあります。
でも、一般道で本当に大事なのは、普段よく使う場面で気持ちよく走れること。
その意味で、モトクロスで感じる「立ち上がりのよさ」や「流れのよさ」は、大型バイクの一般道走行とも意外と重なるのではないでしょうか。
MT-07の2気筒にも、同じ考え方が見える
この考え方は、CP3だけの話ではないのかもしれません。
ヤマハがMT-07に2気筒エンジンを採用しているのも、単なるコストだけではなく、普段使う回転域での扱いやすさや、軽快な車体、わかりやすい加速感を重視した結果だと思います。
ヤマハはMTシリーズ全体で「Torquey & Agile」を掲げ、MT-07のCP2についても低中回転域の扱いやすさ、コンパクトさ、軽快さを特徴として案内しています。つまりヤマハは、4気筒を知らないから2気筒や3気筒を選んでいるのではなく、今の一般公道やワインディングで「気持ちよく走れること」を考えたうえで、2気筒と3気筒を中心に組み立てているのでしょう。そう考えると、MT-07のCP2も、MT-09やXSR900のCP3も、同じ流れの中にあるように見えてきます。
ヤマハは、今の楽しさに合った答えを選んだのかもしれません
そう考えると、ヤマハがCP3という3気筒を主力にしていることもよくわかります。
4気筒を否定したのではない。
4気筒には今でも、なめらかさ、高回転の気持ちよさ、特別感があります。
それは本物です。
そのうえでヤマハは、今の時代に多くの人が実際に走る場所、つまり一般公道やワインディングで、より楽しさを感じやすいものを選んだ。
それが3気筒だったのではないでしょうか。
まとめ
4気筒は、かつて憧れの中心でした。
でも3気筒は、今の公道で「気持ちよく走ること」をとても大切にした答えなのだと思います。
スペックや高回転の魅力では4気筒に強みがある。
その一方で、一般道やワインディングのような主要な走行場面では、3気筒に利がある。
そう考えると、ヤマハの選択もかなり自然に見えてきます。
普段使う回転で前に出やすいこと。
車体が軽く感じやすいこと。
カーブの立ち上がりでリズムを作りやすいこと。
そして、難しく考えなくても「楽しい」と感じやすいこと。
ヤマハは4気筒の価値を知っている。
そのうえで、今の大型バイクの主力として3気筒を選んだ。
そこには、単なる流行ではない、きちんとした理由があるのだと思います。